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吸血姫は薔薇色の夢をみる  作者: 佐崎 一路
第一章 新生の大地
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幕間 忠臣貞女

今回は七禍星獣の補足回です。

基本的に本編に関係ないので読み飛ばしても問題ありません。

 虚空紅玉城内に数多ある酒場の一角で、全長3mを越える緑葉人(グリーンマン)(一見すると巨大なサボテンで、髪の毛の代わりに蔦が生えている)を相手に、こちらも2mを越える背丈で直立した魔剣犬(ソードドック)(額や背中から1mを越える湾曲した剣が生えている)が管を巻いていた。


「――まったく、あのトカゲの若造めが、姫のご寵愛を良いことにどこまでも図のぼせやがって!」


「・・・まあ止むを得ないだろう。もともと彼奴はそれだけの力を持ち、姫を始め神人や魔王など天上人らが150人がかりで仕留めたその実力は折り紙つきだ。そこに惚れ込んで姫が彼奴を臣下に加えるのにどれだけの財を使ったか、知らぬお主ではなかろう」


「だからと言って奴が第一の忠臣面をするのがおかしいと言うのだ!」


 ダンっ!と勢いよくジョッキをテーブルに叩きつけるように置く魔剣犬(ソードドック)


「300年だぞ、300年! 俺たちは300年間、姫と片時も離れず戦ってきたのだぞ! それをたかだか50~60年間しか一緒に居ない若造が調子に乗って、俺たちを顎で使いやがって!」


 ここに緋雪(ひゆき)がいれば、ゲーム内と彼らの認識する時間の差に頭を抱えるところだろうが、どうやら彼らの中の共通認識では300年間一緒にいたことになっているらしい。


「しかしなあ、彼奴の忠義ぶりは(わし)から見ても文句の言えないものであるし・・・」


「貴様、いったいどっちの味方なんじゃ!」


「いや、味方とかなく・・・というか、お主酔ってないか?」


「この程度で酔うほど落ちぶれてないぞ! それよりお前こそ呑んでいるのか?! さっきから見ていると水ばかりじゃないのか!?」


「仕方なかろう儂は植物系の毒や薬は効かないんじゃ。酒なんぞで酔うわけなかろう」


 そこへ両手にジョッキを3個抱えた熾天使(セラフィム)――命都(みこと)がやって来た。

「ずいぶんと意気軒昂ですね、壱岐(いき)殿、双樹(そうじゅ)殿」


「むっ、これは四凶天王、命都様」


 慌てて立ち上がろうとする二人を押し留め、命都は持っていたジョッキをテーブルの上に置いた。

「よしてください二人とも。肩書きは変わりましたが、もともと我ら3名は同期のようなもの。いままでどおり遠慮なく喋ってください。

 ――それに第一、もともとお二人が辞退せねば、七禍星獣(しちかせいじゅう)九禍星獣(くかせいじゅう)として、一の壱岐殿から九の九重(ここのえ)殿まで揃ったものを・・・。

 周参(すさ)殿がよく嘆いていますよ、三から始まるのはどうにもしまらないと」


「むう…そうは言ってもな。ただ古くからいるだけという理由で選ばれても」

「・・・儂らにもプライドというものがある」


 渋い顔をする二人に持って来たジョッキを渡す命都。


「ほう、これは乳酒か! ありがたい」


 顔をほころばせる緑葉人(グリーンマン)の双樹とは対照的に、魔剣犬ソードドックの壱岐は、いままで上がっていた酔っ払い度数(メートル)が急激に下がったようで、

「所詮俺たちは肝心なときに進化に失敗した出来損ないだ、周参(すさ)たちのように2段、3段進化に成功した連中とは違う。どの面下げて姫様の前に出られようか」

 そういってジョッキの中身をあおるように呑んだ。


「・・・またそれですか。別に進化したからと言っても、使える能力が多少増える程度ですから、要は戦い方次第だと――」


「止そうその話は何度も蒸し返した。俺たちは俺たちの信念でいまの立場に満足しているんだ」


「そうじゃな。時にいま姫様は地上でどうされておる?」


 双樹の質問に、若干苦笑いを浮かべる命都。

「なんでもこの世界にも冒険者がいるようで、そのうち一人と接触したので、この世界の冒険者の実力がどの程度あるのか、調べるために冒険者ギルドへ行ってみるそうです」


「・・・冒険者か」

 感慨を込めてその言葉を口に出す壱岐。


「そうじゃの、思い出すわい。初めて姫に拾われた時、姫様も冒険者をしておったのぉ」


「そうですね、それからしばらくは私たち3名で姫をお守りして・・・」


 それぞれが当事の思い出をしみじみと思い出していた。


「そういえば・・・」ふと思い出した命都が続けた。「姫様がお二方にお会いしたがっていましたよ」


「「な…なにぃ?!」」

 同時に席を立ち命都に詰め寄る両名。


「ひ、姫様が俺たちに会いたがっていただとぉ?!」


「ほ、本当か? 忘れておらんかったのか?!」


 その問いに力強く頷く。

「もちろんです。七禍星獣を紹介した際に『なぜ壱岐と双樹はいないのか?』とお尋ねになられたので、お話したところ・・・」


「お、おおおおおぅ・・・」

「ひ、姫。儂らごときを気にかけられるとは・・・」


 無骨な男二人が滂沱の涙を流す。


「『お二人とも以前と変わりなくおります』と答えたところ、大変お喜びになり是非逢いたいと」


 もはや言葉にならずに泣き崩れる二人。


「『さらに死に物狂いで研鑽を積み、ここにいる円卓の魔将にも負けない実力を身につけてございます』と続けたところ、目を潤ませ『あの二人までが・・・!』と大変感じ入ったご様子でした」


 と、不意に泣き止んだ二名は、お互いに眼を見合わせると、憑き物が落ちた顔でしっかりと頷き合った。


「命都、代金はここに置いていく。すまんが精算を頼む」


「――? なにか急用ですか二人とも」


「決まっておろう! 姫にお会いするまでにさらにこの身を鍛えおかねば気が済まぬ」


「うむ、我らの忠信が決して誰にも負けぬことを姫にお目にかけねば!」


 そういってきびきびと酒場から出て行く二人を見送り、命都は一人ジョッキを口にして満足げな微笑を浮かべるのだった。



 後日、極限まで鍛え抜かれた壱岐と双樹の二名に再会した緋雪が、嬉しい(?)悲鳴をあげたのは言うまでもないことであった。

裏設定としては従魔(ペット)や武器・防具は進化及び強化可能で、従魔(ペット)なら最大5回、武器・防具は10回まで強化可能で、回数が上がるたびに当然失敗が大きくなります(アイテム課金で強化率をある程度は上げられますが、成功率2倍でも、もともとの成功率が5%、2%、0.3%とかの世界なのであまり意味はありません)。

武器は失敗するとロストし、従魔(ペット)はパラメーターが変動するだけで進化回数が減る仕様です。また成功するとランダムで新しいスキルが追加されます。

七禍星獣は最低でも4回以上進化した個体ばかりで、今回の2名は緋雪がまだゲームを始めたばかりで課金アイテムを使用しなかったため進化が2回で終了してしまいました(ただ思い入れがあるので名前をつけてました)。


8/19 サブタイトルを変更しました。

側近と忠臣→忠臣貞女

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