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吸血姫は薔薇色の夢をみる  作者: 佐崎 一路
第四章 帝国の混迷
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第六話 転移装置

 スフィンクスとの戦闘開始から20分後――。

「し、死ぬかと思った……」


 虫の息で体を横たえたスフィンクスの隣で、荒い息を吐くジョーイを、全員が『死ねば良かったのに』という冷めた目でみていた。


 このスフィンクス、物理耐性はさほどではなかったけど、翼と獣の四肢を使って縦横上下の立体を自在に移動する上に、幻影で分身を作ったり、砂嵐で姿を隠したりと、とにかくトリッキーな動きで非常に厄介な相手だった。


 そのため今回ばかりはボクも積極的に戦闘に参加――と言っても天涯(てんがい)との従魔合身の恩恵による、あり余るHPに物を言わせてタゲを取り続け、壁役に徹したわけなんだけど――して、まずクロエが如意棒で翼の一枚を射抜いて、床に叩き落し、すかさずジョーイが脚の一本を斬って動きを止め、フィオレの炎を顔面に当て視界を奪っところを、全員で攻撃を当て続けて仕留めたのだった。


「――ま、結果的には良い手土産ができたんだ。(よし)としようかね」


 そういいながら、スフィンクスにとどめを刺すべく、如意棒を振り上げるクロエ。

 スフィンクスは観念したのか、無機質な目で自分に死をもたらす、その先端を眺めていた。


「……待ってもらえるかな、クロエさん」


 咄嗟に右手を上げて制したボクは、怪訝な顔をするクロエの前にでて、スフィンクスに問いかけた。


「スフィンクス。この地の主よ。私は君の英明なる命を惜しむ。故に問おう、このままその命の無に散らすか、それとも私の元でさらなる高みを目指すか否か」


「……なんだと? なにを言っている。そも汝は何者か?」


 ボクはすかさず『薔薇色の幸運ラ・ヴィ・アン・ローズ』――堕天使の翼である漆黒の羽を――背中に装備して(ハッタリも大切なのでね)、手にした長杖『薔薇の秘事(ブルー・ベルベット)』に代わり愛剣『薔薇の罪人(ジル・ド・レエ)』を収納スペース(インベントリ)から取り出した。


 前に一度見たことのあるジョーイは、へえという顔で。

 ボクの正体を知っているクロエは、ほほうともの珍しそうな顔で。

 フィオレは完全に理解不能のなようで、ほええと目を剥いていた。


 まあ、こっちは後で説明することにして、

天涯(てんがい)刻耀(こくよう)

 従魔合身中の天涯と、影移動で待機中だった刻耀とを呼び出す。


「――はっ」

 タキシード姿の天涯が合身を解いて現れ、すかさずボクの右手側で一礼し、同時に現れた暗黒騎士、刻耀が左手側で恭しく騎士の礼をとった。


 虫の息でも魔物としての格の違いはわかるのだろう、息を呑むスフィンクスに向け、ボクは『薔薇の罪人(ジル・ド・レエ)』の刀身を突き出した。


「改めて名乗ろう。私の名は緋雪(ひゆき)。魔光あまねく永遠なる魔王国『真紅帝国インペリアル・クリムゾン』の主にして神祖の名を冠する者である。スフィンクスよ、お前には2つの選択権を与えよう。すなわちこの私の剣の下に服従を誓い更なる力を求めるか、或いはこの剣の下、無駄に命を散らすか」


 唖然とするスフィンクスに向けて、問いかける。


「――返答はいかに?」


「………」

 瞑目して、しばらく考え込んでいたスフィンクスだが、ゆっくりと気力を振り絞って立ち上がった。


 警戒の姿勢を見せるクロエの気配を背後に感じたけど、スフィンクスの目に敵意がないのを見て、天涯も刻耀も身動きしない。


「恭順しましょう。我が主よ」

 そう頭を下げるスフィンクスに内心、ほっと胸を撫で下ろした。


 よかったよかった。会話できる相手を無駄に殺生したくなかったからねぇ。




 ◆◇◆◇




 数日後、再度『御前会議』の名目で招聘された、コラード国王とレヴァンは、先日とはまた違う緋雪の私室に通され、出されたお茶を飲みながら一部始終を聞き終え、『はあ』と気のない相槌を打った。


「……それで、その後、転移魔法陣でお戻りになられたんですか?」


 コラード国王の確認を込めた質問に、本日は薄いピンクのトレーンのドレスを着た緋雪は「いや」と首を振った。

「取りあえず輝夜(かぐや)――ああ、話に出てきたスフィンクスね。名前がないっていうから付けたんだけど――の治療をして、あと私の正体を知ってパニックになったフィオレを、クロエさんと二人で宥めて…」


 さぞかし肝を潰したろうに・・・と、知らない冒険者の卵の心中を想って、しみじみと同情するコラード国王。

「ジョーイ君もその場にいたんなら、彼が説明するのが早かったんじゃないですか?」


「はっはっはっ。いやだなぁ、コラード国王。ジョーイに的確で気の利いた説明ができると思うかい」


 ちょっと考えて、カマドウマよりも役に立たないと判断したコラード国王は、無言で首を振った。


「ああ、それとクロエさんだけど、個人的に彼女を慕ってる仲間がかなりいるそうなんだけど、このご時勢でなかなか大変みたいでね。まとめて引き抜いて、諜報・工作部隊みたいのを作って指揮をお願いしようかと思ってるんだけど、問題ないかな?」


クレス自由同盟国(うち)としちゃ問題ないですよ。あの姐さんなら、相当な凄腕でしょうし、心強いですね」


「問題は権限や各地の拠点ですね。なにしろ皇帝の直轄部隊ですから。事務方と協議が必要ですね」


 レヴァンは快諾し、コラード国王は早速、組織の骨組みや運営について頭を悩ませ始めた。


「まあ、そのあたりはお任せするよ。――で、いざ帰ろうとしたところで、輝夜から待ったがかかってね」


「――はあ」


「ははぁ……」

 レヴァンはピンとこないようだったが、元冒険者ギルド長だったコラード国王は目星がついた顔で笑みを浮かべた。

「ご褒美の財宝ですか」


 レヴァンも気が付いたのが、あっと声をあげた。


「そういうこと。輝夜が自分の座っていた台座を押すと、底がずれて隣の部屋に行く通路が開いてね」

 なんか妙に部屋が狭いと思ったら、隠し部屋があったんだよね、と続ける緋雪。


「で、輝夜に案内されて行った先にあったのが…転移装置」


「転移魔法陣ですか? 財宝ではなくて?」


「いや、いちおう財宝もあったよ。ほとんどが金細工とか金の像とか壷とかで、それほどたいした量でもなかったけど」


『きっと一般人が見たらとんでもない量だったんだろうな』

 と心中密かに想像する二人。


「問題は転移装置の方でね。ああ、コラード国王、転移『魔法陣』じゃなくて、転移『装置』なんで、間違えないでね」


「……? どう違うんですか」


「魔法陣の場合は、あくまで連動した二つの魔法陣の間でしか移動ができないけど、装置の方は相手に装置がなくても一方的に移動させることができる。ちなみに一度に送れるのは直径20メートルの円の中にあるものなら人、物を問わない。ただし移動ポイントはある程度限定されていて、いまのところ大陸各地の13箇所ってところだね」


 その言葉のもつ意味を理解したコラード国王の顔色が変わった。


「そ…そんなもの悪用したら、えらいことじゃないですか!?」


「そうだね。その気になれば他国に部隊ごと移動させることも可能だしね。――でも、まあ平和利用以外に使うつもりはないよ?」


「平和利用……ですか?」


「そう。これってある意味流通革命だよね? これを使えば商人が長距離の旅を時間をかけ、危険と隣り合わせの苦労しなくても済むようになるんだから」


 その言葉に目からウロコが落ちたような顔になるコラード国王。

 確かに、現在の転移移動は、転移魔法陣から転移魔法陣間に人間一人を送ることしかできないため、場所と持てる荷物の量にも限りがある。だが、これがもっと大量にしかも荷物ごと送れるようになるとなれば、多少高い費用を払ったとしても商人としては充分な利益が見込めるだろう。


「そうなれば、装置のあるウィリデ――ひいてはクレス自由同盟国自体が、貿易の中継地として有効性を認められるんじゃないかな?」


「……それは、確かに」

 ごくりと唾を飲み込んでコラード国王も頷いた。


 レヴァンもだんだんと理解が追いついてきたのか、高揚した顔で身を乗り出して食いついてきた。


「しかし、他国がそれを危険視しないでしょうか?」


「そのあたりは今後の交渉次第だろうね。だからレヴァン――がんばってね」


「はあ? なんでオレなんですか?!」

 急に責任問題を振られて素っ頓狂な声をあげるレヴァン。


「いや、だって君、今度帝国の宰相と交渉するんでしょう? だったらその席でこの話もしないと……だいたい装置の移動先5箇所は帝国領内だしねぇ」


 そう言いながら、簡単に大陸の地図に転移装置の移動先を書いてものを見せる緋雪。


「……なるほど。帝国が5箇所、西部域に3箇所、聖王国にはないのは都合が良いといえば良いか。後あるのはほとんどが中小国家ですから、帝国と我が方で協定を結べば、ほとんどが右倣えするでしょうね。――これは、責任重大ですねレヴァン代表」

 命都経由で受け取った地図を見ながら、どことなく楽しげに話すコラード国王。


「いやいや、他人事だと思って気楽に言わないでくださいよ、二人とも! オレにそんな交渉なんてできるわけないでしょう!?」


「大丈夫、なにしろ次期獣王だし!」

「ええ、貴方ならきっと達成できると確信してます!」

 まあ、どーせ事務方がどーにかするだろうと思って、思いっきりプレッシャーをかけまくる二人。


 それを本気にして頭を抱えるレヴァン。



 まさかこれが帝国に火種を放り込む結果になろうとは、この時点では誰も予想していなかったのだった。

当初はスフィンクスは倒す予定だったのですが、ご感想でまた部下にするのかな?かな?というご意見をいただきまして、そーいえば緋雪ちゃんの基本スタンスは話せばわかるだったっけ、と思い直してこの形になりました。ご指摘ありがとうございました。


9/22

文の冒頭に緋雪の本来の性格を書いたのですがて、様々なツッコミがありましたので削除いたしました。

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