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吸血姫は薔薇色の夢をみる  作者: 佐崎 一路
第四章 帝国の混迷
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第四話 砂塵迷宮

『砂塵の迷宮』――もともとは単なる遺構(遺跡の土台を成す痕跡)だと思われていた岩山だが、ウィリデの拡張に伴い周辺調査を行った結果、発見されたばかりの地下迷宮である。


 1層あたりの大きさはおおよそ1キロ×700メートルのスコップ型。

 スコップの先端が入り口になり、迷路状になった通路を進むと手持ち部分にあたる直線の廊下があり、その先に下の階に落ちる階段がある。階段を落ちると今度は逆向きにスコップの先端があり、以下略という形でどんどん下へと落ちていく。


 現在確認されている最下層は10階であり、脱出用の転移魔法陣があり、特に転移先が登録されていない場合には入り口へと自動で戻り、他に転移先が登録されている場合には、そちらを選択することができる。


 主な棲息モンスターは、サンドワームに砂サソリ、ポイズンバッドにサンドパイパーといった魔獣系、ミイラ、スケルトンといった死霊系、そしてサンドゴーレムといった魔術生物系らしい。


「――へえ、そうなんだ」

「し、素人にしては、な、なかなかですね…ヒユキさん」


 歩きながらのボクの説明にジョーイが感心して、フィオレが微妙にプロとして(?)対抗心を燃やしていた。


 いや、こんなのギルドの資料を見れば簡単に調べられることなんだけど、君らホントにノープランで行くつもりだったんだねぇ。


「……ところで」ボクは隣に立つ…というか、そびえる女傑を見上げた。「ホントにいいの、道楽にまでつき合わせて?」


「構やしないよ。あたしゃ、もともとこっちが本業だしね。それにここのダンジョンにも興味あったからねえ」

 獣人族の冒険者(ちなみにランクはA級らしい)のクロエが、愛用の赤い棍――如意棒――をぐるりと一振りして、カラカラと笑いながら答えた。


「――と、そういえば、お付の二人はどうしたんだい?」


 天涯(てんがい)命都(みこと)の二人のことだろう。

 別れた様子もないのに、いつの間にか姿を消した二人を探してキョロキョロするクロエ。


「ああ……一応、待機中」


「へえ、クソ真面目そうな二人だったから、てっきりお姫様のダンジョン行きなんて反対するもんだと思ってたけど、よく承知したねえ」


『……私めの意見を言わせていただければ、いまでも反対なのですが』

 従魔合身中の天涯が胸の中で不満を漏らす。ちなみに命都は上空で待機中になるので、ウソは言っていないね。


 ちなみに今回はあくまでジョーイたちのサポートということで、聖女装備の『薔薇の秘事(ブルー・ベルベット)』を手にしている他は、戦ドレスの『戦火の薔薇アン・オブ・ガイアスタイン』等、不測の事態に備えて、いちおう本気装備を着用している(ホントは聖女モードなので、従魔合身も命都のほうが良かったんだけど、天涯に強固に反対されたんだよねぇ)。


 まあ、噂の『砂塵の迷宮』がどの程度のレベルなのかは不明だけど、いざとなれば影移動で刻耀(こくよう)召喚でき(よべ)るし、大抵大丈夫だとは思うんだけどね。


 そんな感じで歩きながら四人で、お互いに近況とか世間話とかしながら――まあ、フィオレは人見知りしてほとんどジョーイとしか喋らなかったけど――1時間ほどでその『砂塵の迷宮』へと到着した。


 見た目は、いかにも『岩をどけたらダンジョンがありました』という感じで、地面にぽっかりと穴が開いて階段が続いている。

 そして、入り口のところに掘っ立て小屋があって、ここで受付をして入場料や、入場手続きをするらしい。あと、関係ない露店が軒を連ねているけど、特にめぼしいものもなかったのでスルーした。


 で、受付で入場料を払って――ここでジョーイたちがクレス自由同盟国の通貨を持っていないことがわかったので、公平を期するため全員分立て替えておいた(本当にこれでどーするつもりだったのかと……)――さらに受付用紙に名前とダンジョンに入った日付、出る予定の日時をペンで記載する。


 なんの気なしに前のページを見ると、ダンジョンから出た者は二重線で名前とかが消してあるけど、中にはとっくに予定日時を過ぎても名前が残っている者もいる。だいたい20人に1人ってところかな。これを多いと見るか少ないと見るかは判断に迷うところだろうね。


 あと、受付でダンジョンの攻略MAPが売っていたので購入した。




 ◆◇◆◇




 さて、ダンジョンに入って10歩と進まないうちに、ジョーイたちは難題に直面した。


「……く、暗いですね師匠」

「だなぁ、アーラの古代遺跡はどの階も明るかったのに」


 立ち止まって往生している様子の二人を見て、思わず薄闇の中で顔を合わせるボクとクロエ。

 吸血姫のボクには勿論暗闇の意味はないし(と言うか直射日光の照りつける外よりも快適)、獣人族のクロエにしても、まだ入り口の光が届くこの程度の暗さなど真昼も同じなのだろう。


『まあ、種族的な差だから仕方ないね』

 という顔でお互いに頷き合う。――いや、本当ならそれを想定して準備しておくもんだと思うけどさ。

 あと、アーラの古代遺跡は親切設計過ぎたかも知れないね。もうちょい逆境に耐えられるような造りにしておけば良かったねぇ。


「まってろ、確か荷物にランプが…」

 手探りで荷物をゴソゴソやるジョーイと、それを手伝おうとするフィオレの足元に、砂毒蛇(サンド・パイパー)がこっそり近づいていたので、クロエが無言・無音のまま如意棒で叩きつぶしていた。


「明かりだったら私がなんとかできるよ。――光芒(ライト)

 三日月型の『薔薇の秘事(ブルー・ベルベット)』の先端に丸い光の塊が生まれ、周囲を真昼のように照らした。


 その光の塊をポイと頭上に投げると、4人の中間あたりの空中に浮かんで留まる。


「これで半日は持つと思うよ」

 ボクが歩くと光の塊もそれに併せて移動する。


「へえ、便利なもんだねぇ」

「ヒユキがいてくれて助かったなぁ」

「な、な、なんですか、この魔法は?! こんなの聞いた事もない……」


 三者三様の反応に軽く肩をすくめて応えた。




 ◆◇◆◇




 視界が確保されたことで、その後は問題もなく。また攻略MAPもあったお陰で1~6階は割とサクサクと進むことができた。


 また、これらの階は出てくるモンスターも、先ほどの砂毒蛇サンド・パイパーや、子犬ほどの大きさの砂サソリ、ポイズンバッドといった物理攻撃の効く、比較的対処しやすい相手だったため、基本的にジョーイの剣とフィオレの魔法に任せる形で、ボクたちはどうしても対処しきれない時や、油断を突かれた時などにだけ手を貸す形にした。


 ただ、唯一の例外は5階に出てきた、サンドワーム。思い出すのもおぞましい、砂色をしたミミズかゴカイの化物。これだけは生理的に無理だった。

 小部屋に入った瞬間、床の砂の中から鎌首をもたげたんだけど、この時ばかりはさして仲が良い訳でないフィオレと二人で、

「「きゃあああああああああっ!!!!」」

 と抱き合って悲鳴をあげ、そのまま揃って硬直してしまった。


 で、戦力外になったボクらの代わりに、ジョーイとクロエの二人で斬って叩き潰したわけだけど、お陰で青緑の体液まみれになった二人の姿に、

「「ぎゃあああああああああっ!!!!」」

 と、再度揃って悲鳴をあげたのはさすがに悪かったと反省している。


 幸いサンドワームが出たのはそれ一回きりだったのが不幸中の幸いだけど。

 取りあえずジョーイとクロエの二人には、フィオレが魔法で出した水で体を洗ってもらって、その後はフィオレと二人で謝り倒した。


 その後、6~8階はMAPの空白地帯や細かな間違いなんかも出てきて、若干移動速度が鈍ったけれど、ここらへんは出てくるモンスターがミイラやスケルトンなどの死霊系になったので、ジョーイの光の魔剣がかなり役に立った。


「さすがは師匠です!」


 と喝采の声をあげているフィオレだけど、彼女は彼女で魔法をアンデッドにも効果的な火に変えて攻撃する機転と汎用性があるのだからたいしたものだと思うけどね。


 そんな感じでどうにか9階に続く階段が現れたところで一休みすることにした。




 ◆◇◆◇




「むう、9階から先は完全に空白だね」

 攻略MAPを広げて、ボクはため息をついた。

 書いてあるのは『9階のモンスターは、ゴーレム、サンドゴーレム等』『10階のボスはスフィンクス』という殴り書きだけ。


「……ゴーレムか。俺の剣だとちょっと相性が悪そうだな」


 ちょっとどころかジャンケンの(グー)に対する(チョキ)と同じで無茶苦茶悪いと思う。

 まあ純粋な剣技で岩を切れるとか、力任せに砕ける腕力があるなら別だけど、ジョーイの場合はどっちも決定的に不足してるからねぇ。


「まあゴーレムも中心になってる『核』を壊せばなんとかなるからね。方法としては、お嬢ちゃん(フィオレ)の魔法を主体にして、坊や(ジョーイ)が撹乱をして、徐々に削っていって、足を壊すなり、核を見つけたら斬るなりするのが常道だろうね」

 クロエが今後の方針について提案した。


 ジョーイはなるほどと頷いたが、フィオレはそれを聞いて唇を噛み締めて下を向いた。


「……無理です」

 やがてその唇から消え入りそうな声が漏れた。


「ん? 攻撃魔術は使えないのかい?」


 そんなクロエの顔を泣き笑いのような顔で見返すフィオレ。

「使えます。でも、無理なんです……」

 それから嫉妬とも賞賛ともつかない目でボクの方を向いた。

「ヒユキさんは気が付いてますよね。……あたしが魔法使いとして半端だってことを」


「………」


「……魔術の構築はできるけど、瞬間的に出せる魔法攻撃力も、総合的な魔力量も常人よりちょっと多いくらい。小型の魔獣ならなんとかなるけど、ゴーレムに攻撃をあててもダメージを与えられない、そんな非力な魔術師なんです」


「――いや、でも今日はお前、凄く調子よく魔術使ってたじゃないか?」


「はい、師匠。今日は信じられないくらい調子がよかったです。……けど、これってヒユキさんの補助魔術(バフ)のお陰ですよね?」


「……確かに、かけられるだけの補助魔術(バフ)はかけてあるよ」

 これがもっと暗いところなら、ジョーイとフィオレの二人の体に薄い光の膜が取り巻いているのが見えただろう。


「羨ましいです。……とっても」

 そう呟いて黙然と下を向く。

久々の1日3回投稿を目指したのですが、時間切れでした(ノ_・。)


9/16 誤字修正しました。

×なんとかあんるからね→○なんとかなるからね

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