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吸血姫は薔薇色の夢をみる  作者: 佐崎 一路
第三章 辺境の獣王
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幕間 男達之夜

いきなりまた番外編です。

レヴァンVS緋雪を前面改訂中のため、手持ちの番外編をUPしました。

続きをお待ちの皆様本当に申し訳ございません><

【第一夜:稀人side】


 剣と剣とが火花を散らし、合間合間に、手足が翻る。


 片や花火のように鮮烈で可憐に激しく、片や流水のように自由に淀みなく。


 剛が柔を断たんとし、柔が剛を制しようとする。


 何合目かの打ち合いになったろうか、盛大な不協和音とともに双方の持つ剣が中ほどから折れた。


「――ありゃ」


「――おっと」


 お互いに剣を振り抜いた姿勢で動きをとめる緋雪と稀人(まろうど)


「……力負けか、けっこう良いレベルの剣だったんだけどねぇ」

 折れた剣の断面を見ながら、やれやれと嘆息する緋雪。


 実際、このレベルの剣は地上では購入することなどできないだろう。使っている材料、鍛冶師のレベル、強化に使われた魔法のどれをとっても最上級のもので、仮にこれが地上にあれば古代級武器エンシェント・ウエポンとして、宝物庫の奥深くに眠ることになっていたであろうから。


 とはいえここ常闇の国、真紅帝国インペリアル・クリムゾンにおいては、希少ではあっても替えが効かないレベルの武器ではなく、『ちょっともったいなかった』程度の感慨しか緋雪に与えなかったようで、様子を見守っていた練習場――と言っても、闘技場(コロッセオ)並みの広さと、柱や壁一面に描かれた精緻な装飾等は宝物殿や神殿と見まごうほどの壮麗さを醸し出している――の係員の死霊騎士(デス・ナイト)に折れた剣を渡した。


 同じく、自分の方へきた別の死霊騎士(デス・ナイト)――身長2mを越える巨体に、小山のような分厚い超重量級甲冑を着て、青白く光る鬼火が燈った目をした骸骨――の容貌に若干ビビりながら、差し出された手に折れた剣を渡す稀人。


 ふと、気が付くと、いつの間に現れたのか、死神(グリム・リーパー)たちが地面に落ちた剣の始末と、乱れた練習場の整地を行っている。


 いい加減慣れたつもりになってはいたが、こういう光景を見ると、とんでもないところへ来たなぁと思わずにはいられなかった。


 とは言え居心地が良いのも確かで、飯は美味いし、道行くハイ・エルフや天使族の女性はまさに天上の美貌(とは言え目の前にはそれ以上の頂点がいるが)、住民の魔物たちも気の良い連中ばかり、それに地上では考えられない娯楽も枚挙に暇がなく、退屈という言葉からは縁遠い環境にある。


 要するに見た目は魔界なのだが、住んでみれば極楽というわけのわからん国だった。


 そしてなにより彼にとっては何よりも換えがたい至高の美姫が存在する。


「――うん? なにかな?」

 そんな彼の熱い視線に気が付いたのか、緋雪が軽く首を捻った。


「いえ、どうもいまだに彼らに慣れないもので、よく姫様は平気ですね」


 超重量の甲冑を着込んでるとは思えない滑らかな動きで、練習場の外に下がる死霊騎士(デス・ナイト)や、整地を終えたらしい死神(グリム・リーパー)を見て苦笑する稀人に向かって、


「あははははははははっ」


 と朗らかな笑いを放つ緋雪。笑いの意味は『もちろん怖いに決まってるじゃない。さっきから動かないのは足がすくんで動けないからだよ!』というものだったが、稀人は自分の怯懦(きょうだ)を笑い飛ばされたものと理解して、恥ずかしげに頬の辺りを掻いた。


「まあ、そのうち慣れるとは思いますが・・・」


「いやぁ、別に気にしないでいいよ」

 ちなみにこれは、『ボクがいまだに慣れないのに、先に順応しないでくれる?!』という意味合いが込められた台詞だった。


「……まあそれはそれとして、真紅帝国(うち)で市販されてる剣ではこれでも最高級に近いんだけど、君にとっては力不足になってるみたいだねぇ。前に渡したオーガ・ストロークもレベル的にはこの剣とあまり変わらないし、鎧も含めてそろそろ変え時かな」




 ◆◇◆◇




 幅だけでも60mほどはあり、なおかつ全体に金銀彫刻等で精緻かつ華美な装飾が施されている廊下――一応は王宮で生まれ育った稀人だが、この城の規模・壮麗さに比較すれば、あのようなもの犬小屋よりも劣ると言える――比喩ではなく廊下の先が地平線に隠れて見えないそこを、案内役の死霊騎士(デス・ナイト)及び鬼神兵その他に守られて歩きながら、少し先を行く、今日は珍しく白を基調としたドレスをまとった緋雪に向かって口を開いた。


「それにしても相変わらず凄まじい規模の城ですねえ。よく迷わないで進めますね」


「――はははははっ」

 勿論笑いの意味は『案内がいなけりゃ迷子になるに決まってるじゃないの』である。


 ちなみに夜中にトイレに行きたくなっても、一人だと場所がいまいちわかりにくい上に、下手をすると迷子になるか、お供が50名ほどの大名行列になるため、密かに収納スペース(インベントリ)にトイレ付きの簡易ハウス(課金ガチャの景品)が、常時収納されているのは緋雪一人の秘密であった。


 で、廊下を進んだり階段を登ったり降りたり、巨大な門を何枚も開けてくぐったりを繰り返すこと2時間あまり(城内は転移魔法が使えない阻害措置が施されているため足で歩くしかない)。


 廊下の突き当たりに、中央に薔薇と雪の結晶が掘り込まれた、ひときわ巨大かつ重厚な扉が立ちはだかっていた。

 扉の両脇には巨大な台座があり、全長50mほどもある青水晶のドラゴンと、甲羅の長さが30mほどもある黒水晶の亀が鎮座している。


「まるで生きているようですね、この彫像」


「生きてるよ? 玄武も青龍も無断の侵入者がいると攻撃するので気をつけてね」

 稀人の感嘆の声に対して、軽く返す緋雪。


 思わず反射的に後ずさりしかける稀人を置いて、さっさと扉へと歩み寄る緋雪。

 扉の5mほど手前に近づいたところで、巨大な扉が音も無く内側へと左右に開き始めた。

 その途端、ひんやりとした空気とまばゆい輝きが廊下へまであふれてきた。


 扉の内側は、左右天井とも途方もない広さで、磨きぬかれた床も、林立する巨木のような柱も、すべて一滴の血を流したような薄い紅色の大理石でできている。

 しかし、それよりも稀人の目を奪ったのは、手前の壁際から遥か先まで続く輝きの原因であった。


 金貨に白金貨、オリハルコン貨、黄金や希少金属の延べ棒の山、箱からあふれる宝石や魔石、装飾品や彫像、美術品である剣、鎧、盾、貴重な魔物の材料まで、うず高く――上も奥行きも、果てが見えないほど積み重なっていた。


「――な……なんですか……これ?」

 呆然と・・・ほとんど夢見心地で、稀人はどこか遠いところで自分の声がするのを聞いた。


「なにって、宝物庫だよ」

 なにを当たり前のことを、という口調の緋雪。


「……どのくらいの量があるんですか…?」


「さあ? もともと私がもっていた収納スペース(インベントリ)の中身に加えて、ギルメンの共有財産もあったし、その後も国民から献上された分もあるしねぇ、たぶんここを管理している番人も知らないんじゃないかな…?」


「……これだけあれば、大陸ごと買うこともできるのでは?」


「かも知れないけど、交換するほどの価値があるとも思えないしねぇ」


 そんなことを言ってる間に、どこからともなくバラバラと、ドワーフのようなずんぐりした妖精たちが数百人(いや、物影にもっと気配がするので全体の数は数千人か)現れ、一斉に緋雪に対してひれ伏した。


「彼らは・・・?」


宝物守護妖精(スプリガン)だよ。なんか知らない間に生まれてたんだけど、宝物の番とか整理とか喜んでしてくれるから便利だよ。――あ、勝手にそのあたりの金貨とか盗らないでね。そうすると彼ら怒って全員巨大化して嵐を呼びながら地の果てまで追いかけてくるから」


 内心、2~3個くすねてもわかんないんじゃないかと思っていた稀人は、あわてていつの間にか前に出ていた腕を引っ込めて、こくこく頷いた。


「悪いけど、魔法の武器、鎧が置いてあるフロアに案内してもらえるかな?」


「ハイ、コチラヘドウゾ姫様」


 スプリガンの頭領らしき妖精の案内で、さらに宝物庫の中を進むこと30分あまり。

 いいかげん周りの煌びやかさにも慣れた――というか感覚が麻痺した――頃、装飾品ではない実戦向きの、それもどれもこれも高い魔力を帯びた武器、鎧の類いがずらりと並ぶ一角へと到着した。


 生唾を飲み込む稀人を前に、緋雪はそれらを指し示し、

「いまのオーガ・アーマーとオーガ・ストロークの代わりの武器と鎧をここから見繕うつもりなんだけど」

 ここで腕組みして、ちょっと困った顔をした。


「数が多すぎてどれがいいのか、また、いまの君にどれが合うのかイマイチ不明なんだよねぇ」


 それから、ふと武器フロアの奥、50m四方の祭壇のようになった場所を見つめて、一言唱えた。


「ということで、――蔵王(ざおう)


「……お呼びでございますか、姫様?」

 その声に答えて、祭壇の中央に青紫の巨大な火柱が上がり、それが角と翼を生やした巨大な人型をとった。


「彼はイフリートの蔵王、この宝物庫の番人の長をしてるんだけど。――蔵王っ、ここにいる稀人に合う武器と鎧を選んで欲しいんだけど?」


「――ふむ……わかりました。姫様の思し召しとあらば。――では稀人とやら、こちらへ来るがよい」


 手招きされるまま、稀人は階段状になった祭壇を登った。


「がんばってねーっ」

 笑いを含んだ緋雪の黄色い声援に、猛烈に嫌な予感を覚えて振り返りかえた稀人に向かって、蔵王の怒号が降り注ぐ。


「どこを見ておるか、馬鹿者! さっさと武器を構えんか!!」


「はあ――?」


 唖然とする稀人の背中に、緋雪の説明が飛んだ。

「蔵王はねぇ、自分で手合わせして納得したところで、相手に合った武器とか選んでくれるの、だから油断してると死ぬよ」


「なあ……?! ちょっ、ちょっと待っ――」


「では、姫様開始の合図をお願いします」


「ほい」いつの間にか、スプリガンの長が恭しく持ってきた純金製のゴングを、『カーン!!』と高らかに鳴らす緋雪。「始め!」


「うおおおおおっ! いくぞ小童っ!!」

 蔵王が全身の力を漲らせ、咆哮とともに打ちかかってきた。


「まて、こら――っ!!」

  ・

  ・

  ・

  ・

  ・

 その後、どうにかこうにか生き延びることに成功した稀人は、褒美として伝説級武器レジェンドリィ・ウエポン『ハワルタ-ト・ブレード』と『水竜王の鎧』を手に入れることに成功したのだった。


 真紅帝国インペリアル・クリムゾン、そこは享楽にあふれ、退屈という言葉からは無縁の場所である。たまに命の危険に合うが・・・。

第二夜としてジョーイ編を書く予定でしたけど、そちらは後日の予定です。


9/6 用語の変更をいたしました。

役不足→力不足

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