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吸血姫は薔薇色の夢をみる  作者: 佐崎 一路
第二章 王都の動乱
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第十話 先陣合戦

 鼻歌を歌いながら、嬉々とした足取りで空を駆け抜ける翼を持った虎――七禍星獣(しちかせいじゅう)の№4(№1と№2は枠外扱い。あと実は№0(シークレット)がいたりする)――蔵肆(くらし)が、勇躍アミティア王国の最強部隊と名高い、飛竜(ワイバーン)に乗った竜騎兵13騎へと真正面からぶち当たる。


 ちなみに飛竜(ワイバーン)下級(レッサー)ドラゴンの一種で、大きさは馬よりも二周りほど大きく、前脚がない代わりにコウモリ状の翼を持った魔物である。


 自分たちより遥かに格上で、なおかつ巨大な敵の存在に気後れしつつも、竜騎兵たちの指示に従い、散開してまずは遠距離から炎槍(フレア・ランス)――口から放つ高温の炎――を浴びせ始めた飛竜(ワイバーン)たち。


 素早く空中で方向転換――翼ではなく直接空気を足場にしているため、通常ではあり得ないアクロバッティブな動きでこれをかわす蔵肆(くらし)だが、数が多いためさすがに2、3発直撃を喰らった。


「ふふん、ぬるいぬるい。もっとがんばりぃ!」


 激励しつつ手近な飛竜(ワイバーン)を前脚で薙ぎ払う。

 風刃(ウインド・カッター)をまとった一撃で、ほとんど爆発したかのように空中で乗り手ごと粉微塵になる飛竜(ワイバーン)


「軟弱やなぁ、ちゃんと飯食っとるんかいな?」


 呟きつつ、慌てて距離を置こうとしてまとまった4~5匹の集団に向けて、口から虎咆(ハウリング)――超高密度に圧縮された空気の弾丸をぶつける。


 水風船が弾けるように一撃で四散した集団を置いて、もはや半分逃げ腰になっている残り7匹の敵へと向かう蔵肆(くらし)


 引き続き炎槍(フレア・ランス)や鞍上の竜騎兵が(いしゆみ)やらで応戦してくるが、避けるのも面倒なので、体の表面に超音速気流(ジェットストリーム)をまとわせ、すべて受け流し、そのまま一匹に体当たりをかけ、さらに空中で直角に曲がってもう一匹を口に咥え、乗り手ごと一気に噛み砕いた。


「・・・まっずいなぁ。はよ帰って商店街の『たこ焼きクトゥルフ』で大玉食べたいわ」


 完全に戦意を喪失して、逃げ出した生き残りの飛竜(ワイバーン)に向け、開放した超音速気流(ジェットストリーム)をぶつけ、とどめに前脚から発する風刃(ウインド・カッター)を交差させた竜巻刃(トルネード・カッター)を、お手玉のようにぶつけ全滅させる。


「なんや、これで終いかい。もの足りんなぁ・・・」


 ついでとばかり、敵陣の一番奥、本陣で偉そうにふんぞり返っている連中めがけて自身の最強技、風気爆裂(エア・バースト)をお見舞いし、一撃で本陣を吹き飛ばす――その途端、強烈な光術による攻撃が蔵肆(くらし)の背中に浴びせかけられた。


「――な、なんや?!」

 到底無視し得ない威力の攻撃に、慌てて空中を跳躍してその方向へと向き直る。


 蔵肆(くらし)へ一撃を浴びせた相手――中心部に巨大な単眼を持ち、身体の各所から触手を生やした全長70mを越える光り輝く多面結晶体――十三魔将軍の筆頭、ヨグ=ソトースの斑鳩(いかるが)(こっちが本体。通常は位相空間にいて分身のウムル・アト=タウィルを操り会話する)が、不機嫌そうに蔵肆(くらし)をたしなめた。


「やり過ぎだぞ。貴様の出番は先ほどのコウモリだけのはずだろうに、後に続く者の分まで侵害するつもりか?」


「なんや斑鳩(いかるが)かいな。多少は手強い相手がおるんかと期待したのになぁ。こいつら手応えがなさすぎて、ついやり過ぎたわ。すまんなー」


「ふん。わかったのならさっさと戻れ、まだまだ後につかえているのだからな」


 言われてちらりと自軍の本陣で、順番待ちをしている仲間たちの様子を覗った蔵肆だが、眼に入った光景に、心底不思議そうに首を捻った。

「――なあ斑鳩。なんで他の連中がガッカリしてる中で、姫さん一人ピョンピョン跳んで喜んどるんや?」


「ああ――」斑鳩もちらりと視線をやって答えた。「手持ち無沙汰だったのでな。お前が何秒でコウモリどもを倒すか賭けをしていたのだが、43秒で姫の一人勝ちだ」


「なんや、ヒトが体張って戦ってとるのに、じぶんら気楽にトトカルチョかいな!・・・つーか、わいらに緊張感が足りんとか何とかぼやいとった姫さんが、実は一番不真面目なんやないか?」


「姫にとってはこんなものは遊びに過ぎんさ。いつでも、どこでも、そうだったろう?」


「・・・フム、それもそうやな。さすがは姫さんってとこやねぇ」


「そういうことだ」


「ほな、あとは任せるわ。――あんじょう気張りや」


 そう挨拶して、陽気な集団の元へ戻っていく蔵肆を見送り、斑鳩は眼下にうごめく蟻の如き人間どもを見た。


 巨大な単眼に見られただけで恐慌状態になっているその様子に、斑鳩は内心ため息を漏らした。

 かつて10数人程度で自分を倒した天上人たる超越者(プレーヤー)たちと違って、こやつらはなんと脆弱そうなことか。


「頑張りようがないな。相当手を抜かんと後の分まで無くしてしまいそうだ」




 ◆◇◆◇




「よっしゃあ! 商店街飲食店のクーポン券1年分ゲット!!」


 外れ券が舞い散る中で、ガッツポーズを決めたボクを、稀人(まろうど)が仮面越しにジト目で見た。

「・・・楽しそうですねー」


 ――うっ。やばい。彼にとっちゃさっきの光景は胸中複雑なものがあるだろうに、ついつい我を忘れちゃったよ。恐るべし賭け事(トトカルチョ)


「ま、まあ人生にたまには娯楽は必要だよ」


「ここの皆さんを見てると、娯楽の合間に人生を送っている気がしますが・・・」


 上手いこと言うなぁ、と思いつつボクは、ふと問いかけた。


「そーいえば、なんかさっき蔵肆(くらし)が本陣吹っ飛ばしたみたいだけど、これで司令部もなくなったわけだし、ひょっとして開始1分で戦争も終わりかな?」


 まあさすがに投降する相手まで無差別に殺しはしないからねえ。

 これで終わるならそれに越したことはないんだけど(まあ勿論司令官クラスは責任を負ってもらうけど)。


「いえ、こうした混成軍の司令官はあくまでお飾りで、今回の司令官であるジョヴァンニ・アントニオ伯も実戦経験の無い素人。もともと指揮権は各諸侯独自にあるので、司令部がなくなっても意味は無いですね」


「指揮権がなくて、どうやって各部隊の連携をとるわけ?」


「連携なんてしませんよ。各貴族が自分の判断で自分だけ手柄や戦利品を獲ようと行動するだけですね」

 

 自嘲を込めたその言葉に、正直ボクは開いた口が塞がらなかった。

「それじゃあ、夜盗や山賊の集団と変わらないじゃないかい?!」


「実はその通りでして。名目はともかく、中身は変わりませんね」

 ははははっと乾いた笑い声をあげる稀人。


「――とすると、次は各諸侯軍がバラバラに攻めてくるわけか」


 その途端、かっと爆発したかのような光の奔流が舞い踊り、敵の本陣そばにあった直営軍の部隊が丸ごと消滅した。


 斑鳩の十八番(おはこ)次元断層斬ディメンジョン・スラッシュだねぇ、あれは。

 ゲーム中もあれには苦労したなぁ、ぜんぜん攻撃パターンが読めなくて。


「……てか、やり過ぎだよ、いまので全軍の5分の1くらい消し飛んだんじゃない!?」

 まあ、それでも十分に手加減してはいるみたいだけどさ。


 とはいえ、こっちはまだ30人以上が出番待ちでウズウズしてるわけだけど、絶対足りっこないよ敵軍。

 じゃあどうなるか?

 足りない分は他から補充すればいいじゃん。

 ちょうど隣に人間がウジャウジャいるね。

 この戦争(遊び)が終わったらそちらで人間の粛清もするって姫言ってたし。

 じゃあ壊しても問題ないな!


 ――やばい! そうなる。確実な流れで。

 じわじわと気持ちの悪い汗が全身に流れてきた。


「いかがなされましたか、姫?」

 怪訝そうに訊いてくる天涯(てんがい)を無視して考える。


 取りあえずこれ以上、円卓メンバーを投入するのは危険だ(敵がね!)、どうにかして手を抜いて、なおかつ周囲の同意も得られる形にもっていかないと・・・。


 てゆーか、敵の総大将が敵の被害を少なくしようと味方の力を削ぐことに全力を注ぐって、なんか間違ってないかい?!


「う~~む……」


 考え込むボクに向かって、「そういえば」と稀人が展開する味方軍を見て訊いてきた。

「いま拝見したところ円卓の魔将の皆様で問題なく対処できそうですが、味方の軍勢の意味はあったのでしょうか?」


 意味ねえ・・・まあ、あるようなないような。

 実は今回味方軍として参戦したのは、ボクの直参としては円卓メンバーと数人の志願者。残りは全部、この地で新たにインペリアル・クリムゾンの国民となった大森林や白龍山脈、古代遺跡(ダンジョン)出身の魔物(モンスター)たち、総計約10000名だったりする。

 

 円卓メンバーたちを連れてきたのは、いつも居残りだと不満が溜まるのでガス抜きのためと、戦力の出し惜しみをして万一があったら困るから、というボクの心配性からきてるんだけど、その他の現地雇用の新規国民はなんのためにここにいるのかというと、実は単にアミティア王国にこちらの本気度を見せるための案山子(かかし)だったりする。


 こんだけこっちは本気で軍を揃えてるんだから、そっちも本気を出せよ、という示威行為の為だけに並べているんだよね。


 まあ名目上は各自の忠誠を見せてもらうのと、経験値を稼ぐため(魔物はある程度経験を積むと進化する)という理由で連れては来た・・・って、これ使えるんじゃない?


「天涯」


「はっ、お呼びでしょうか姫?」


「円卓の魔将の力、まことに見事である。だが、それにも増して敵のなんと不甲斐ないことか」


「はい、誠にもってその通りでございます」


「せっかくの名刀も鼠を相手にしていては意味がなかろう。なので連中の相手は、新たにインペリアル・クリムゾンに加わりし者どもに譲ってはどうかな?」


 ボクの言葉に、なるほど確かに…と考え込む天涯。

「・・・確かにこれ以上得るものはなさそうですし、彼らにも姫と同じ戦場に立てる誉れを与える良い機会かも知れませんな」


 おっ、好感触だね。ここはもう一押しして置かないと。


「うむ、私は常に戦場にあり、これはという者を見出してきた。そうした者を新たにこの戦いで見出せるやも知れぬ」


「御意っ! まさに姫の仰る通り。この天涯、いつしかそのことを失念しておりました。申し訳ございません姫!」


 よしっ! これで一方的な殲滅はなくなった!


「――聞いてのとおりだ諸君! 不満もあろうかとは思うが、後人を育てるのも我ら円卓の魔将の務めだ。ここは彼らに花道を譲ってやろうではないか!」


 しばらく不満を漏らす魔将もいたけれど、まあしかたないか、後輩の面倒も見ないとなぁ、という風に意見もまとまった。


「よし、では待機中の軍勢に伝令を走らせろ! 諸君らの手腕に期待していると!」


 その天涯の言葉を最後に、円卓メンバーは警戒モードを解いて、「んじゃ飯食って、酒でも飲んでるかー」という、テレビ見ながら晩酌している親父モードへと一気にシフトダウンして、商店街の出店(今回付いて来た円卓メンバー以外の参加者)へと、ちんたら歩いて行った。


 そんなわけで、インペリアル・クリムゾンとアミティア王国との次の戦いは、双方の軍勢が入り乱れる混戦ということになった。

アミティア王国軍が28000、それに対してインペリアル・クリムゾンの魔物軍が10000ということで、魔物1に対して人間3が適正戦力とされるこの世界だと、ほぼ互角の戦力です。

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