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吸血姫は薔薇色の夢をみる  作者: 佐崎 一路
プロローグ 帰還
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プロローグ3

 じゃぼじゃぼじゃぼじゃぼーっと東西南北の獅子をかたどった彫像の口から勢い良くお湯が噴き出している。


 どーしてこうなった・・・?


 立ち込める湯煙の中、階段状になった大理石の湯船の縁に腰を下ろし、腰から下をお湯につける半身浴の体勢で、自分というか・・・緋雪(ひゆき)の名前の通り雪のように白いけど血色のある肌と――キャラクターメイキングでこの肌色を調節するのは結構大変だったよ――細い姿態に視線を落としながら、ボクは目覚めて何度目になるかわからない自問をした。


 真っ直ぐ玉座の間に向かうのかと思っていたら連れてこられたのはこの浴室だった。


 最初わからなかったよ。だいたい廊下の幅とか長さとか細かな意匠とか、ゲーム見たのと比べ何倍あるんだよって違いがあって、デザイン自体は確かに見覚えがあるのに、とにかく『せいぜい学校位の大きさ』と思ってたこの城の規模と豪華さが『ヴェルサイユ宮殿が犬小屋に見える豪華さで、23区がスッポリ入る』バカみたいな広さなんだ。


 そんなもんだから連れて来られた先が玉座の間だか浴室だかわからず、唖然としているうちに命都(みこと)の手であっという間に全裸に剥かれ――ゲームと違って最終防衛ラインの下着上下ともあっさり脱げるものなんだねえ――湯船へと案内された。


 なんでも「長いこと眠っていたので入浴とお着替えが必要でしょう」ってのことだけど、そーいう気遣いは先に言ってよ! 本人にわからない気遣いは気遣いじゃないんだからさ! と叫びたい所だけど、怖いのでもちろん口が裂けても言えない。


「――そうであるな。久々に命の洗濯といこうか」


 チキンな内心を押し隠してお風呂――と言っても大理石をふんだんに使った『どこの神殿?』という感じの白亜の殿堂――へと一人足を踏み入れ……ようとしたところで、ついに我慢ならなくなってボクは振り返って訊いた。


「・・・なんで付いてくるの?!」


 言われた当人――というか当龍の天涯(てんがい)は、一瞬きょとんとした表情を浮かべて、全裸のまままったく悪びれることなく、なにひとつ隠すことなく当たり前のように答えた。


「無論、姫の入浴のお手伝いでございますが?」


「………」

 ……いや。なんとなくはわかってたんだ。ボクが脱がされてる間に隅の方でガサゴソやってたし、全裸のまま命都の隣に待機してて、ボクが歩き出したら後を付いて来るし。


 だけど普通ないでしょう?! 侍女か命都が入浴に付いて来るのはまだわかるよっ。だけど普通に年端も行かない見た目の少女(ボクというか緋雪のことだよ!)の入浴に、筋骨逞しい青年が付いてくるなんてあり得ないでしょう?!

 アグネスさんじゃなくても、どっかでストップがかかると思ってたんだよ!


「・・・いや、いらないから。てゆーか、恥ずかしいし」


 ぶっきらぼうにそう答えると、天涯はからからと笑った。


「はっはっはっ、なにをいまさら。姫と入浴するなど毎日の儀式のようなものではありませぬか」


 そりゃアンタが龍形態だったからでしょうが! それにここのお湯は1分間浸かると30分間毎秒HPの3%の自動回復効果と全属性抵抗値の15%上昇効果があるから、戦闘に行く前に従魔(ペット)も一緒に入れるだけだっつーの!!


 と思いっきり地団太踏んで騒ぎたいところだけど、どーせ言っても無駄なんだろうな~。

 てか下手に逆切れして、それに逆切れで返されたら死ぬし。


「ささ、いつまでも脱衣所にいてはお体が冷えますので、浴室の方へどうぞ」


 どーしたもんかと思っているうちに、天涯に肩をつかまれ――うわわわっ。自分以外の他人の肌の感覚をもろに受けて全身が痺れ……というか腰が抜けそうになり――そのまま湯船の方へエスコートされる。


「それでは失礼いたしまして――」

 ボクを湯船の階段状になったところへ座らせ、存在するだけで失礼な全裸男が片膝を付き――なるべく見ないようにしてたんだけど、なにあのサイズ。ビール瓶?――かけ湯をして、さらに両手に何かのボトルの中身を振り掛け、泡立てると・・・ああ、ボディソープね。


 タオルやスポンジは肌を痛めるから掌で洗うのが一番良いんだよねー・・・。


 ぼんやりと現実逃避をしていたが、ぴとっと掌が体に当たった瞬間、

「あひゃ……!!」

 思わず嬌声をあげたが、天涯はガン無視で「どこか痒いところなどございませんか姫?」などと気楽に訊いてくる。


 そんな感じで髪の先端から爪先、果てはおへその穴やまだボクも内部を確認していない部分まで、余すところなくこねくり回され、終わった時にはなんかレイプ被害者になった気分で、思わず湯船の中でさめざめと泣いてしまった。


 その後、ふらふらしながら浴室を出て、待ち構えていた命都の手で先ほどのドレスと似たデザインながら、さらにスカートの幅が広いドレスに着替えさせられ、今度こそボクたちは玉座の間へと向かったのだった。

プロローグは終了で次から本編の予定です。


12/18 誤字脱字修正いたしました。

×この肌色を調節のは結構大変だったよ→○この肌色を調節するのは結構大変だったよ

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