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吸血姫は薔薇色の夢をみる  作者: 佐崎 一路
第二章 王都の動乱
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第五話 仮面競演

旧第四話です、修正しました ゴシゴシ(´pω・。`)ネミネミ

「重ね重ね申し訳ありません」


 再度頭を下げるアシル王子に、

「もう過ぎたことですので、王子も席に戻ってください。――というか、男が軽々しく頭を下げるべきではありませんよ」

 やんわりと苦言を呈する。あんましペコペコするのは見ていて嫌なモノだよ。


「まったくですね。上に立つものの(かなえ)の軽重を問われるというものです」

 (うち)は違うと言わんばかりの口調で、命都(みこと)がイヤミを言うけど、ほんの2~3日前にボクもコラードギルド長に頭を下げてるんだよねぇ。


 ――やばい。ばれたら死ぬわ、・・・コラードギルド長がね!


 ボクは命都からそっと目を逸らした。


 治癒(ヒール)が効いたのだろう、カルロ卿がよろよろと立ち上がり、その場で膝をついて頭を下げた。

「ご無礼をいたしました。――申し訳ありません、殿下」


「気にするな、それより陛下に感謝することだな」

 そう言って肩を貸して、お互いに立ち上げるアシル王子たち。


「ずいぶんと仲がおよろしいのですね?」


「実は乳兄弟でして、お互いに生まれた時から同じ産湯を浸かって・・・という奴です。俺が無茶をする分、いつも迷惑をかけています」

 無邪気な子供のような顔で笑うアシル王子。

 逆にカルロ卿は、いたたまれないという風に顔を伏せた。


 ふむ、これが男の友情パワーというものかな? 友達いなかったからよくわからないけど。


 改めてアシル王子が席に着き、その後ろにカルロ卿が立った。

 アンジェリカが振り返って、そんな彼を心配そうに見るが、大丈夫ですという風に軽く首を振る。

「ところで、話の途中になっていましたが、ヒユキ姫が王都へ攻め入るのを、しばらく待っていただきたいのです」

 

 そのアシル王子の言葉に、ボクは「ふむ」と考え込む姿勢(ポーズ)を取りつつ、首を捻った。

「まあ、公式での通知や最後通牒というわけではないので、現段階では即開戦――というつもりはありませんが、なぜとお聞きしてもよろしいでしょうか?」


「――風向きが変わるからです」

 アシル王子がそういって王国の現在の情勢を、説明してくれた。


 アミティア王国は王国を名乗ってはいるものの絶対王政ではなくて、あくまで有力貴族を中心とした貴族院議会が国政を牛耳っていること。


 現国王はけして愚昧ではないが、英明とも言えず実質、議会の傀儡であること。


 そうした現状に不満を持っていた王権復古派やアシル王子を支持する一部貴族や軍人、有力者などが密かに貴族院議員を打倒すべく準備を行なっているとのこと。


 ただし、圧倒的多数派の貴族院議員に対して、王子の派閥はあまりにも非力なため、あと何年か準備期間を置くつもりで居た。


「そんなところへ降って湧いたアーラ市の騒ぎと、圧倒的な力を見せた魔王国インペリアル・クリムゾンの存在です。貴族の横暴に苦しむ民衆のみならず、これまで中立を保っていた貴族や有力者の中からも、そちらと手を結ぶべきだ。停滞した国に新風を吹き込むべしという動きが出てきまして、そうした声を受けて我々の活動も急激に活発になっているところなのですよ」


 なるほどねえ。つまりボクらははからずしもこの国にとっての黒船になったわけだね。


「つまり、私たちと協力して武力蜂起(クーデター)を起こし、貴族院議員を倒したいと?」


 まあ普通、武力蜂起(クーデター)とかしても、単純に頭が変わるだけで現状は変化ないような気もするけど、この王子の器量ならかなりマシになるかも知れないねぇ。


 だけどそんなボクの質問に、アシル王子は意外なことに首を振った。

「いえ、我々の活動は確かに現在国政を牛耳っている腐った貴族どもの打破ですが、必ずしも血を流すことを望んではおりません」


「――?」


「ヒユキ姫は『民主主義』という理念をご存知でしょうか?」

 キラキラとした目で、大切な宝物を見せるように話すアシル王子。


「………」

 だけど、逆にボクの全身は一瞬にしてすうっと冷めていった。


「王族などと言うものはいままで通り飾り――いえ、無くても構わない。血統だけで民衆を支配する貴族ではなく、民衆が自分で考え、国を運営できる基礎作り、それを現在草の根で行なっています。そして、すでに種は撒き終わりました、あとは芽吹かせ育てること、それが俺の成すべき事であり、この国をより良くするため目指すところです」


 力強く語るアシル王子だけれど、ボクは途中から半分聞いていなかった。

 ただ心の中で思った。

 

 アシル王子、ボクは君の言う理想の先の現実を知っているよ。

 それは確かにいまの貴族制よりはマシかもしれない。

 でもねえ、やっぱり君は王族なんだね。

 どんなに崇高な目標を掲げても、人は腐るし、救えずに死んでいく人間はいるんだよ。


「なのでこちらからお願いしたいのは、時間をいただきたい。その間にまずは貴族院に対抗する衆議院議会を設立し、国政から徐々に貴族院の力を排除していくつもりです。現在の情勢であれば民衆の支持は確実に得られるはずですので、その後、我々と正式に国交を結んでいただきたい、というところですね」


「……まあ待つのは良いのですけれど、実際にそれは本当に近日中にできますの? その間に正式に我が国へ、同じ内容の書面が送られてきた場合には、私も我が国の国民を押さえるつもりはありませんが」

 正確には押さえられない、だけどね。


「できますよ。そのために俺と仲間たちが努力してきたんですから。まあ万一つまづいて、そちらの国と戦争になった場合には、俺は仲間とアンジェリカを連れてとっととそちらの国にでも亡命しますから、その後、ヒユキ姫が貴族院議員(れんちゅう)をどうしようが、知ったことではないですね」

 正直、言うほど簡単だとは思えないんだけど、アシル王子は不敵に笑った。


「わかりました。では、私の方はしばし静観といたします。――それとこれを」


 ボクは腰のポシェットから、一振りの剣を出してテーブルの上に置いた。

 手にとっても? と目で訴えるアシル王子へ頷く。


「・・・ふむ、良い剣ですね。魔力を感じるので魔剣のようですが?」


「『風の剣』といって、風属性の力があるので通常の剣より軽く、素早く扱える――まあ、それだけの剣ですが、先ほど私の侍女が折った剣の代わりとして差し上げます」


「――なっ!」

 カルロ卿が目をむいた。


 ちなみにこれ、正確には『風の剣』ではなくて『風の剣+3』なんだよね。効果としてはAGI(アジリティ)18%増になっている。


 まあ、正直こんなもの武器作成の初歩で作れるし、うちの城下町の露天商(元はNPC(ノンプレイヤーキャラ)の露天だったんだけど、いまでは当たり前のように生きたドワーフが作って置いている)を眺めれば、似た様な初級装備は山ほど売ってるんだけど、こちらの世界では魔剣の類いはほとんど出回っていないみたいだから、驚くのは無理もないかな。


 アシル王子も驚いたようだが、すぐに嬉しそうな顔で折れた剣の代わりに腰に差した。


「こいつはありがたいですね。お守り代わりに拝領いたしますよ。ヒユキ姫との薔薇色の結婚生活のためにも、これは何が何でも貴族連中に負けるわけには行きませんね」


「結婚とかは考えなくていいので! というか、今回アシル王子の招待に応じたのも、噂のSランク冒険者の実力を見てみたかっただけなんですけどねぇ」


「いやぁ、それはちょっとご勘弁願いたいですね。本気で戦ったらどうにも勝てそうにもありません。まあ純粋な剣技だけの勝負なら、面白そうですけど」

 口ではそう言っても目が負けないと言っていた。


「ふぅん。じゃあやってみる?」


「そうしたいのは山々ですが、いまは時期が悪いので、この件がひと段落ついてからにしませんか?」

 この王子様、実質的には武人なんだろうね。本気で残念そうな顔で首を振った。


「・・・やれやれ、しかたないですねぇ」

 そういわれちゃ、毒気も抜かれたし、ここはいったん退散するとしようか。

 そう思って立ち上がりかけたところ、アシル王子に止められた。


「実はこの件が片付くまで、アンジェリカには王家の別荘のある王都近郊のフルビア湖へ、保養の名目で避難してもらうことになっていますので、ヒユキ姫も暇があればぜひお立ち寄りください」


 ふーん。つまり万一失敗した時のための布石ってところか。


 アンジェリカは、そのあたりまったく斟酌することなく、無垢な笑顔でボクの両手を握ってブンブン振り回すのだった。

「素敵ですわ! お姉さま、ぜひご一緒いたしましょう!」

 

 取りあえず適当に頷いておく。


「フルビア湖はとても水が綺麗で、その上近くに温泉が湧き出しているので、別荘にも温泉がありますの! おねえさまぜひご一緒に温泉につかりましょうっ」


 温泉・・・一緒のお風呂・・・。

 頷いたことを凄く後悔した。


「では、帰りの馬車を用意させましょう。――カルロ頼む」


「――はっ」

 カルロ卿が仮面舞踏会(マスカレード)用の仮面をつけて部屋から出て行った。


 それを見てボクは、ふと疑問に思ったことを訊いてみた。

「そういえば、私はてっきり仮面舞踏会(マスカレード)会場で接触してくるかと思ってたのですけれど?」


 その言葉になぜか渋い顔をするアシル王子.


「最初はそのつもりだったのですが。なんですかヒユキ姫、あの変なマスクは? あんな目立つ格好をしていたら話しかけられるものではありませんよ」


「………」

 なんでこんなに評判悪いんだろうね、このマスク。


「大変です、殿下! 賊徒が建物に入り込んだと言って、憲兵が建物の周りを取り囲み、参加者の身元確認を行なっております!」

 そこへカルロ卿が息せき切って戻ってきた。


 思わず顔を見合わせるボクとアシル王子。

 どちらも『賊徒』扱いされる身に覚えがあるからねぇ。


「・・・どうやらこちらの動きを読まれたようですね」

 ため息をついて王子は立ち上がった。


「どうされるんですか?」


「どうするもなにも。せっかくの仮面舞踏会(マスカレード)ですからね、こいつの試し切りも兼ねて一曲踊るとしますよ」

 剣の柄を叩きながら、白い仮面をかぶるアシル王子。


「そうですか、では、私もパートナーとして踊らせていただきます。――命都、アンジェリカを頼むよ」

 なんかやたら評判の悪い仮面をつけ、腰のポシェットから生命力を強化する『水の剣+2』を抜いて――『薔薇の罪人(ジル・ド・レエ)』はさすがに目立つ上にオーバーキルもいいところなので、手加減を兼ねてこれにした――ボクも後に続いた。


「承知しました姫様」

 同じく仮面をかぶった命都がアンジェリカをかばう姿勢で立たせながら、先ほどつけていた仮面をかぶらせた。


「――さて、踊るとしますか姫」


「お手柔らかに王子」


 廊下に出たボクたちは本当にこれからダンスを踊るようにお互いに礼を交し合った。

台詞をカルロのものからアシル王子へ変更しました。

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