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吸血姫は薔薇色の夢をみる  作者: 佐崎 一路
第二章 王都の動乱
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第四話 英雄王子

いただいたご意見を参考に、昨日UPした内容を訂正して再度UPしました。

 ボクは非常に不快な面持ちで噂の英雄という王子様の前に立っていた。


 仮面は部屋に入る前に脱いであるので、お互いに素顔のままなんだけど、なんてゆーか・・・最初ボクの素顔を見て「ほう……」と妹のアンジェリカや、お付らしい黒髪の青年と一緒にあげた感嘆の声は、まあわかるよ。皆同じような反応をするし。


 で、その後の相手を値踏みするような鋭い目、これもお互いの立場なら当然だろうね。


 ところがその後の視線――なんなのこれ?! 露出した肌や胸の辺り、腰周りを中心にナメクジが這い回るような、なめ回されるような、この不快な感触は!?


 よく女の人は、男が気が付かないだろな、とちょっと胸を見ても、一発でわかるっていうけどさ、今日ほどその意味がつくづく実感された日はないね!


「――お兄様、あまりじろじろレディを眺めるのは不躾ですわよ」


 眉をひそめたアンジェリカの注意に、「おっと」とやっと視線を外した王子は、馴れた仕草で恭しく膝をついた。


「失礼をいたしました陛下。アミティア王国第三王子アシル・クロード・アミティアであります。本日は貴重なお時間を頂戴いただきましまして誠に光栄でございます」


 そういってごく自然な流れでボクの手を取って、その甲に口づけをした。

 ・・・す、素早い。警戒するヒマもなかったよ。


 ぴくり、と命都(みこと)の片眉が一瞬吊り上って、『()っていいですか?』と視線で訴えられたけれど、『いや、これが王族・貴族とかの挨拶だから!』と、無言でなんとか押さえる。


「魔王国インペリアル・クリムゾンの国主、緋雪(ひゆき)天嬢典雅(てんじょうてんが)です。本日はお招きにより参上いたしました」

 取りあえず、相手に合わせて適当に長い名前を言っときゃいいだろうと思って、名前の後に二つ名もつけて、ボクも自己紹介をした。


 その後にお互いの従者――ボクは命都(みこと)を、アシル王子は黒髪でどこか冷たい雰囲気をまとった青年カルロ卿――を紹介して、席に着いた。

 いちおう国主たるボクの方が身分は上なので、ボクが上座に座り、下座のソファーにアシル王子が、その隣にアンジェリカがちょこんと座った。

 その後ろに、お互いの従者が立つ。


「それにしても」座った途端、アシル王子はボクの顔を真正面からガン見して、「佳人だとは噂には聞いていましたが、まさに月すら恥らう絶世の美姫ですな、ヒユキ陛下は」

 感に堪えないという口調でべた褒めしてから、ふと真顔に戻って、なんとなく恐る恐る訊いてきた。

「――実はこの世のものとも思えぬ姿で、化けているということはありませんか?」


「見たままこの姿ですよ。生憎とそういう芸はもっておりません。――それと殿下、私のことは普通に『緋雪』か『姫』とでも呼んでください。そちらの方が呼ばれ慣れていますので」


 そう言うと3人とも、ほっとした顔で胸をなで下ろした。


「そうなんですの! では、これからも『お姉さま』とお呼びしてもよろしいでしょうか、ヒユキ様?」


 アンジェリカの弾んだ声に、ボクは「ええ、アンジェリカ様さえよければ」と、ぎこちない笑みを浮かべて頷くしかなかったよ。

 嫌とはいえないわなぁ・・・。


 それにしても、おねえさま……おねえさま、ねえ……。なんかそろそろ無くなりかけて来た男の尊厳とか、存在証明とかが、豪快にゴリゴリと削れて行く音が聞こえてきたよ(だいたい初日に天涯(てんがい)に体を洗われたり、ブラやパンツ履いたり、トイレ行ったりしたところで9割方消えてなくなった)。


「お姉さま・・・?」

 不思議そうに聞き返す兄に向かって、うんうん頷くアンジェリカ。


「さきほどお願いしましたの。ヒユキ様って、お話していても本当に『お姉さま』って感じですので!」


 あー、おねーさまな感じなのかー。

 そろそろ残りの弾も少なくなってきたかなぁ・・・。


「・・・ふむ、お姉さまか。――ヒユキ姫」

 なにか問題でもあるのか、難しい顔で考え込んだアシル王子は、怖いほど真剣な瞳でボクを見た。


「なんでしょう?」


「俺…いや、私と結婚しませんか?」


 ――ズルッ!!


 アシル王子とアンジェリカ以外の3人が、一斉にずっこけた。


「まあっ! お兄様、名案ですわ。そうすればわたくしも堂々と『お義姉(ねえ)さま』とお呼びできますものね!」


 いやいや、本人そんなコロンブスの卵を発見したみたいなドヤ顔されても、どこをどうすればそんなぶっ飛んだ思考に行き当たるんだい?!


「馬鹿ですか、貴方は!?」

 一国の王子に対してアレだけど、思わずそう叫んじゃったよ。


 で、普通は面前で自分の主人が罵倒されたら嫌な顔をするものだけど、後ろで従者のカルロ卿もうんうん頷いているところを見ると、この手の発言は割りと日常茶飯事なのかもしれないねぇ。

 苦労してそうだね彼も。


「・・・そんな馬鹿なことですか?」


 赤毛に近い金髪に、端正な――気品と同時に野性味も併せ持つ、人の注目を集める美男子(ハンサム)と言って過言でない――顔一杯に疑問符を浮かべるアシル王子に向かって、なんでこんな簡単なこと説明しなきゃならないんだろうと思いながら、ボクは噛んで含めるように答えた。


「いいですか、現状、この国は我が国を国家として認めておりません。まして我が国は魔物によって構成された国家ですので、人間側が魔物に人間同様の権利を認めない以上、今後も法的に解決することはありえません。ましてや私は魔物ですので私と貴方との間で、合法的に結婚できるわけがありません!」

 

 うんうん頷く命都とカルロ卿だけど、肝心の王子の方は、

「そこらへんは二人で愛を育み周囲を納得させるしかありませんね。なんでしたら、事実婚ということで先に子供の1人2人作るというのはどうでしょうか?」

 また斜め上の提案をしてきたよ。


 てか、子供って…………ああ、ボクが産むわけか。

 コウノトリが運んできたりカボチャ畑でとれるわけじゃないからねぇ。

 そうすると、この王子と夜な夜な頑張って励むわけだね……………………うん。無理っ。


 さすがにわずかに残ったソレが堤防となり、生理的な拒絶反応を示した。


「・・・生憎と、私は結婚するまで清い体を保つつもりですので、その案には乗れません」


 やんわりと拒絶すると、アンジェリカも猛烈な勢いで頷いた。

「そうですわ。お兄様は結婚をあまりにも軽はずみにとらえていますわ!」


「――というか、会って5分で結婚を持ちかける時点で、軽はずみそのものだと思いますけれど」

 阿呆ですか貴方は、という口調で付け加える。


「そう言われると返す言葉もありませんが、それだけ貴女が俺…ああ、もうお堅い言い方でなく俺でいいですね? 俺にとって魅力的で、一生をかけても構わないと思える、そんな運命の出会いだったのです」


 熱い視線で真剣にそう言われてもねえ、ジョーイの時はまだ子供子供してて可愛らしく思えた部分もあるけど、17歳という割りに身長も180cmを越えて胸板も厚く、男性ホルモンを全身から放出しているムサイ男に告白されても、いまいちときめくものがないんですけどねぇ。


「お姉さま、いきなりのことで信じられないのも当然かも知れませんが、兄がここまで一人の方に真剣になっているのを見るのはわたくしも初めてです。立場上、兄はずいぶんと沢山の女性から秋波を送られ、また、国内外を問わず数多くの縁談を持ち込まれましたが全て断っております。その兄が自分から結婚を口に出したのは初めてのことです。けしてその場限りの浮ついた気持ちではないと、それだけは信じていただけませんか?」


 アンジェリカからも切々と訴えられ、う~~ん、まあ信じないわけじゃないけどさ。

 どっちかというと信じたくない、という感じかなぁ。


「――とはいえ殿下、現実にヒユキ陛下を妻にというのは無理でしょう」

 それまで黙っていたカルロ卿が口を開いた。


「仮に陛下を始めとした王族の方々のご理解が得られたとしましても、貴族院がそれを許さないでしょう。それどころかこれ幸いにと、王子は魔族に魂を売った背信者として廃嫡、もしくは粛清の対象になるでしょう。――というか、ここでの会話が漏れただけでそうなります」


 あー、まあ、普通に考えてそうだよねー。

 うん。なんか流れで危なく真剣に検討するところだったよ。


「貴族院か。どこまでも邪魔だな、あいつらは」

 そう言ったアシル王子の横顔が、一瞬抜き身の刃のように見えた。


 それから居住まいを正して、改めてこちらを向いた。

「――そういえば、今回ご招待したのは、本来はこちらが本題だったんですが、ヒユキ姫に貴族院から接触はありませんでしたか?」


 訊かれてボクは肩をすくめた。

「ありましたねえ、アシル王子以上に熱烈な恋文が。『お前のすべては俺のものだから、身ぐるみ剥いで差し出せ』って内容でしたけどね」


「ふん、連中の言いそうなことだな。それでヒユキ姫はどう対応されるつもりですか?」


「軍団をもって首都に攻め込んで、抵抗する者と国の上層部は皆殺しでしょうか? ――ああ、貴方たちは別ですよ。好意を抱いてくれる相手を殺すほど非道じゃありませんからね。まあ、立ち向かってこない限りは」


 その言葉に息を呑むアンジェリカとカルロ卿。


「立ち向かう者はともかく、上層部も皆殺しですか? あまりにも理不尽だと思いますが」

 思わず――といった口調でボクを非難したカルロ卿の体が、ギンッ!という金属が砕ける音とともに壁際に吹っ飛び、轟音を立て叩きつけられた。


「――慮外者(りょがいもの)が。貴様如き下郎、誰が姫に直奏(じきそう)を許したかっ!」

 いつの間に取り出したのか、愛用の聖杖を構えたまま命都が柳眉を吊り上げ、吐き捨てた。


 その目が、じろりといつの間にか立ち上がっていたアシル王子と、その手に握られた折れた剣を見た。

 あの一瞬、カルロ卿の命を奪うはずだった命都の一撃を受け止めようとして、受け切れないと悟り、剣が砕けるまでの数瞬の間に、片脚でカルロ卿を安全圏まで蹴り飛ばした早業は、ボクと命都にしか見えなかったろう。


 当然、アンジェリカは訳がわからず、おろおろと兄と壁際にもたれ掛かるように座ったまま、荒い息をしているカルロ卿とを見比べるだけだし。


「すまん、部下の無礼は俺の責任だ。幾重にもお詫びしよう。だが、こいつは俺の大事な友人(とも)なんだ、どうか命だけは助けてやってはくれないか?」


 そう言ってその場に両膝をついて、頭を下げるアシル王子。


「……で、殿下……」

 その姿にカルロ卿が絶句し、唇を噛んで下を向いた。


「私の発言で、アシル王子やアンジェリカ王女の身を案じての忠信からの無礼でしょう。不問にいたします」

 それから命都に目で合図すると、しぶしぶという感じで聖杖の先端を倒れたままのカルロ卿に向けた。


 さらに追い討ちを?! と慌てたアンジェリカが席を立ったが、アシル王子の方はなにをするのか予想できたんだろう。軽く頭を下げた。


「・・・姫の寛容さに感謝するがよい」

 治癒(ヒール)の光がカルロ卿の全身を包んだ。


 ・・・よ、よかった~っ、これが天涯(てんがい)刻耀(こくよう)だったら、どんだけ手加減しても絶対に殺していたよ。

 

主な修正点は、

緋雪のアシル王子に対する対応。

お互いの立場による上下関係の明確さ。

カルロが緋雪に直接口を聞いた矛盾。

になります。


それと緋雪の『姫』という呼び名は、某西新宿のお煎餅屋さんが出てくるシリーズでの呼び名が素敵でしたので、そこからきています(*・ω・*)

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