プロローグ2
お陰さまで好評です。
まだまだ拙作ですががんばりますので
読んで下さっている皆様に感謝いたします。
と、開けっ放しの扉の表面を儀礼的に軽くノックして、メイド服を着た背中に3対6翼の翼をもったプラチナブロンドにアイスブルーの瞳のこれまた眩しいほどの美形の女性が部屋の中に入ってきた。
こちらの女性には見覚えがあった。もちろんモニター越しにだけど。
彼女は先に来て礼をとっている天涯に視線を送り、わずかに咎めるような口調で話しかけた。
「天涯殿、女性の寝室にずかずか踏み込むとは、いかに四凶天王の長といえど不躾ではありませんか」
「――むっ。すまん命都。姫が目覚められた魔力を感じて、つい居ても立ってもいられなくて……な」
反省はしているが後悔はしていないという口調での返答に、やれやれという感じで首を振り、彼女は続いてボクの方に改めて向き直ると、背筋を伸ばし威儀を正して、優雅に一礼をした。
「姫様、お目覚めになられたこと、この命都、何に増しても得がたい喜びにございます」
あー、やっぱし命都か。
念のために彼女を指してポップアップウインドウで確認してみる。
種族:熾天使
名前:命都
所有:緋雪
HP:27,960,000
MP:35,268,000
▼
・・・いや、もう笑うしかない能力値だね。ちなみに「▼」の部分をクリックするともっと細かいステータスとかスキルとかが表示されたけど、何十行あるんだっていう細かさだったから読み飛ばした。
というか、さっきの天涯の能力値もいろいろおかしかったけど、命都の方も全然まともじゃないよ。
彼女はボクがガチャで初めて当てたSR級の景品で、従魔としては天涯より長く使用していたので、レベル的には天涯同様とっくにカンストしてるけど、能力的にはボクとどっこいで、ここまでの数値はなかった筈だ。
だいたい持ち主より従魔の能力が大幅に高いんじゃゲームする意味ないし、だから黄金龍にしても、ガチャの景品になった時には大幅に能力値は下げられて、半ばオシャレアイテム化していたのに、あの数値って黄金龍本来――イベントボスとして現れて、ボクを含む3次転生カンスト組が150人以上かかって、処理落ちとも戦いながら2時間以上かけて倒した往年の数値そのままじゃないだろうか?
で、熾天使ってのは天使種の最上位で、いまだMOBとして現れてはいないんだけど、いま見た感じだと『堕天の塔』の最上階にいる1対2翼のMOB堕天使のレベルに比べて40~50倍くらい高いので、もしMOBとして実装されたらこれくらいになるんじゃないかな?と予想される数値だ。
どういう理屈かはわからないけど、従魔として設定されていたリミッターが外され、野生の状態になってるってことだろうか? どっちにしてもこれは逆らったら瞬殺されるレベルだね。
・・・うん、下手に出て逆らわないようにしよう。
「あのー、お二人とも、ちょっとお聞きしたいんですけど・・・」
そう話しかけた途端、美形の男女二組がまるで雷にでも撃たれたように一気に背筋を伸ばし、愕然とした顔になった。
や、やばい。なんか間違えたかな・・・? どうしよう・・・
「姫っ! 我々如きにそのような丁寧な口の利きよう勿体のうございます!」
「姫様っ、もしや永き眠りのせいで我々のことをお忘れでは・・・?」
「え?! あー……いや、覚えてるよ。天涯さんに命都さん、火力と回復役でずっとお世話になってたし」
そういうと目に見えてほっと安堵の表情を浮かべる二人。
ん?ということはゲーム内での出来事とかは共通認識としてあるのかな・・・?
「それではどうかいままで通り名前で呼び捨てにしてください」
再度一礼した命都にそう言われたけど、いやいやっ、そもそもゲーム内で従魔に話しかけたことなんてなかったよ!
あ、待てよ。確か仕様で、戦闘の時には従魔に向かって「行け!」「怯むな!」「殲滅せよ!」とか声優さんのボイスが叫んでいたような・・・。
つまりアレのことかな・・・? 頭ごなしに命令する感じ??
恐る恐る二人の様子を窺ってみると、妙にキラキラした目でボクの言葉を待っている。わんこだったらお座りしたまま尻尾を振ってる状態だ。
だ、大丈夫かなぁ・・・そんな居丈高に喋って、なんか隠しパラメーターかなんかで知らないうちに好感度とか下がって反逆とかされたら、はっきり言ってボクなんかイチコロなんですけど・・・。
し、しかたないよね。あんまし待たせるのも危ないし。
ボクはゲーム内での緋雪としての口調を心がけながら二人に改めて話しかけた。
「うむ。両名とも大儀であった。よくぞ私の眠りを妨げることなく取り計らってくれたな。感謝しておるぞ」
「「ははっ、ありがたき幸せ!!」」
あー、なんかこれで良いみたいだね。
「・・・ときに私はいかほど眠っていたのか、前後の状況などを聞きたいのだが?」
そう言うと天涯が片膝を着いた姿勢から直り、扉のほうを指し示した。
「はい、そう仰られるだろうと考え、僭越ながら玉座の間に、主だった臣下の者どもを招聘してございます」
「わたくしども四凶天王を始め、七禍星獣、十三魔将軍、全て姫のご帰還を首を長くしてお待ちしておりました」
嬉しげに言い添える命都の言葉に鷹揚に頷き返したものの、ボクの頭には疑問符で一杯だった。
四凶天王? 七禍星獣?? 十三魔将軍??? ・・・なにそれ?
優雅に手を添え、そっと壊れ物でも扱うように棺からエスコートする天涯に手を引かれる感じで、床に下りたたったボクに近づき、馴れた手つきで素早く取り出した櫛でボクの長い髪を梳く命都。
「それでは姫、参りましょうか」
そう言って先導する形で前を行く天涯と、後ろにかしずく命都に挟まれる形で部屋からでたボクは、外見上は平然と――中身はガクブルおしっこちびりそうに震えながら、屠殺場に連れて行かれる豚さんか牛さんの気分でドナドナと――やたら広い廊下を歩き始めた。