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吸血姫は薔薇色の夢をみる  作者: 佐崎 一路
第一章 新生の大地
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第十一話 孤軍奮闘

毎日ご声援ありがとうございます!!

いままでは一日多くも5つくらいだったんですけど、最近は一気に50とかになってまして、ありがたいのですがなかなかお返事できません><

本当に申し訳ありません。

 北の白龍山脈を別にして、アーラ市の東西南を占める大草原。


 交通の要所として大小様々な街道が走る平坦な地形は、旅をするものにとっては非常にありがたいが、主だった遮蔽物や迂回路がなく、あまりにも見晴らしが良すぎて、いざ戦いとなると正面からのぶつかり合い以外、ほとんど小細工を弄する場所というのがなかった。


「・・・塹壕が精一杯か。せめて溝を掘るヒマがあればよかったんだがなぁ」


 獣型の魔物に乗った敵の騎兵(ライダー)を見ながら、ガルテ副ギルド長は苦い顔で一人ごちた。


 いかに大鬼王(オーガキング)に率いられているとはいえ所詮はモンスター、なにも考えずに本能に任せて、遮二無二(しゃにむに)こちらに向かってくるだろうと考えていたのだが、意外なほど統制された敵集団の動きに、当初の目論見を外された形となってしまった。


 予定では、塹壕を掘って伏兵を潜ませ、一団となって襲ってくる敵の集団に向けて、まずは遠距離から弓矢と投石器による攻撃を行い、敵が混乱したところで、塹壕に隠れている魔術師や精霊使いが魔法による中距離攻撃を行う。

 ここで同じ塹壕に護衛として、数名で待機している冒険者たちが飛び出し、個々に分断された敵に攻撃を行う。


 場が十分に混乱したところで、虎の子の正規軍部隊を投入し一気に大鬼王(オーガキング)の首を狙う――というのが、こちらの作戦だったのだが、どうやらあちらは騎兵(ライダー)により、一気にこちらの懐に入り弓矢や魔法を封じ込め、そこへ本隊がなだれ込み、自分たちが圧倒的に有利な白兵戦へと持ち込む腹積もりらしい。


「――接近させる前に、なんとか弓矢と魔術師とで仕留められればいいんだが」


 私には現場経験がありませんから、と言って今回の指揮権をすべて自分に委託して、一魔術師として前線に出ているギルド長を思って、ガルテ副ギルド長は苦い唾を飲み込んだ。


 と、その視線が、作戦指揮所――草原に広げられた天幕――の前をウロチョロしている、武装した冒険者たちの一団の中にいた見知った顔に当たり、反射的にその相手を呼び止めていた。


「おい、小僧っ!」


「は、はい!」

 呼び止められた相手――ジョーイは、思わずその場で直立不動の体勢をとる。


「なにやってんだ、お前?!」

 のっしのしとジョーイの目の前まで歩いて行きながら、呆れたように言うガルテ副ギルド長。


「も、もちろんモンスターの迎撃戦に参加するためです!」


「ハア? お前まだFランクだろう。Eランク以下には強制動員令は出てないはずだが?」


「……そうですけど、でもこんな時に黙って見てるなんてできません。俺だって剣を振るくらいはできます!」


「足手まといだっ。お前みたいな小僧は、さっさとこの場から離れろ!」

 子供の我がままと判断して、イラついた口調で吐き捨てる。


「・・・離れてどこに行くんですか? もう街の避難所には、女や子供、老人、戦えない人たちで一杯じゃないですか。俺たちがここで負けたら、その人たちだって化物に食われるんでしょう?」


「うっ……!」

 図星を差されてガルテ副ギルド長は黙り込んだ。


 確かにDランク以上のいわば一人前と言える冒険者の大多数は、ギルドの強制動員令に従いこの作戦に参加してくれたが、その人数は7000名。さらに駐留軍500名。市民の義勇兵が2500名の合計1万人と敵の数約7000匹に比べて3000多いが、モンスターを相手にするには最低でも3倍の数であたるのがセオリーだ。

 現状では圧倒的に数が足りない。

 この際、猫の手でも馬の骨でも借りたいのが実情であった。


「・・・だがなぁ、小僧、お前はまだ若い。お前さん一人くらい逃げても誰も文句は言わんさ」


 そう言うとジョーイは泣き笑いのような妙な表情を浮かべた。


「ミーアさんにもさっきそう言われて怒られました」


「ミーアか・・・」

 この年になるまで独り身だったガルテ副ギルド長にとっては娘のような存在で、この作戦が始まる前にも避難するよう、何度も口を酸っぱくして言ったのだが、頑として聞かずにいまもこの場所のどこかで、物資の確認作業や救護班の調整をしているはずだ。


「――それに」ジョーイは照れくさそうに笑った。「今朝、ひょっこりヒユキが顔を出したんです」


「・・・むっ」

 その名を聞いて顔をしかめるガルテ副ギルド長。結局、あの後緋雪は姿を消したままで、宣言どおりこちらを一切助けるつもりはなさそうだ。


「あいつ『ジョーイ、君は弱っちいんだから、ミーアさんでも連れてさっさと逃げるんだよ』って、ホント余計なお世話だよな。俺ってそんな頼りないかっての」


「むぅ・・・業腹だが、俺も同じ意見だな」


「そんなことできねえ――いや、できません。アイツも逃げないで『せっかくなので、特等席で見物してるよ』とかわけわんねーこと言ってるし。だったら化物がアイツんところへ行かないよう、俺が前に出なきゃ!」


 決意を込めて言うジョーイに、『お前さんが惚れた相手は、もっととんでもないシロモノなんだぞ』と言いかけたガルテ副ギルド長は、少年の表情を見てその言葉を飲み込み、かすかに目と口元を緩めた。


 ――小僧が、いっぱしの男の顔しやがって。


「小僧・・・いや、ジョーイ。俺たちは冒険者だ、この作戦でも生き延びることを考えろよ。ましてやお前には、そんな風に心配してくれる相手が2人いるんだからな!」


「わかってます!」


 元気よく返事をして、足早に冒険者たちの一団に合流するジョーイ。




 ◆◇◆◇




「・・・こういうのを、女冥利に尽きるというのかねぇ」

 魔眼(イービルアイ)により作られたバイパスを通して聞いた、ガルテ副ギルド長とジョーイとの会話に、ボクは思わずそんな感想を漏らしていた。

 まあ得がたい体験ではあるかなぁ・・・?


「どうかされましたか姫?」

 本来の黄金龍(ナーガ・ラージャ)の姿に戻り、ボクを乗せたまま戦場の遥か上空を浮遊していた天涯(てんがい)が怪訝そうに聞いてくるが、なんでもないと答えて下を見た。

 

 人間の目にはゴマ粒程度にしか見えないだろうけど、いまのボクには個人の顔までハッキリ見える。


「どっちが勝つと思う、天涯?」


「魔物でしょうな」天涯はあっさりと断言した。「あの程度の武器と数の差ではまったく問題になりません。力負けするのが目に見えております」


「うん……まあ同意見かな。人間側が勝つとしたら、もともとの数が上回っているんだから、EランクもGランクも関係なく戦える冒険者2万人、それに戦う気があるならたとえ女子供でも動員して圧倒的な数で押して、相手の動きを止めたところへ火力を打ち込むしかないだろうねぇ」

 まあその場合相当数の犠牲者も出るだろうけど。


「しかしあのギルド長にはそんな決断はできますまい」


「そうだね。いざとなれば100人を助けるにあたり50人を犠牲にすれば済むところ、100人のうち99人を助けようとして全員殺すタイプだね、あれは」


 個人としては好感を持てるけど、上に立つものとしてはまったく問題外だね。


 だいたいあれだけヒントを出してあげたのに、情に訴えるだけでボクを利用する手段――例えば『喪失世紀』の情報を優先的に集め渡すとか、表向きは国に忠誠を誓いつつ裏でボクらと結託するとか、幾らでもあったはず――それができなかった段階で、交渉相手としては失格と見なさざるを得ないんだよ。


「まこと人間とは愚かなものですな」


 侮蔑もあらわな天涯に、そういえばボクはまだ中身人間なのかなぁ、そーいや最近はあんまし意識しないけど、外見と環境が影響してるかも知れないなぁ、と思いつつ語りかけた。


「まあ、いろいろ居るから面白いんだけどね」


 それから、ふと、動き回る人間の一団の中にある見知った顔に、そっと語りかけた。


「忠告はしたよジョーイ。だけど君はやっぱりそれを選んだんだねぇ」




 ◆◇◆◇




 何匹モンスターを斬ったか、もう覚えていない。

 最初、前線は持ちこたえていたが、火力が途切れたところでついに敵の騎兵(ライダー)に突破され、その後はジリジリと前線を下げて対応していたが、いつしか人々は分断され各個でモンスターたちと戦っていた。


 戦局はどうなっているのか、味方はどこにいるのかわからないまま、ジョーイも仲間たちと一緒に戦っていたが、いつしか一人倒れ、二人食われ、また一人・・・と、気が付いたら一人になっていた。


 血の付いた長剣を握ったまま戦場を走り、時たま出会う敵を斬る。


『距離を取って、視界の中に入れておく!』

『動きが直線的で大振りだから簡単に避けられるし、振ったあとは体勢を崩すから隙だらけ』

『モンスターの反射神経を相手に、そんな見え見えの攻撃なんて当たりっこないよ』

『相手の動きを見て、フェイント以外は自分から攻撃しないこと』


 ほんの数日前に教えられた通りに動いただけで、自分でも驚くほどマトモに敵と渡り合えている。

 だが、それでも敵の攻撃は少しずつジョーイの体に傷を作り、戦うたびに著しく体力を消耗していった。


 その時、目の前に1匹の大鬼(オーガ)が現れた。


「――ちっ! 寄りによって」


 咆哮とともに振るわれた巨大な戦棍(メイス)の軌道を読んでバックステップで躱し、伸びきった腕を狙い長剣を振り下ろす。

 だが体力が限界にきていたのだろう、剣は軽く肉を切るだけに留まり、これで怒り狂った大鬼(オーガ)戦棍(メイス)が横薙ぎに振るわれ、同時に突き出されたジョーイの剣と交差した。


 次の瞬間、ボロキレのように飛ばされた少年の体が地面をゴロゴロと転がり、意識が途切れそうになるのを無理やり戻し、手から離れた長剣を探して霞む目で周囲を見回したジョーイの目に、首を長剣で刺されて倒れる大鬼(オーガ)の姿が映った。


「・・・やった・・・けど、俺も限界、かな」

 殴られた衝撃で骨の5~6本も折れたろう。

 残った体力も使い切った。

 次の敵が現れたらもう戦うことはできないだろう。


「・・・ミーアさん、ヒユキ、あいつら無事に逃げたかなぁ・・・」

 呟いて、ジョーイの瞼がゆっくりと落ちた。

緋雪の中の評価では、ミーアさん>>越えられない壁>>ギルド長 というところですね。

あともう出番がないと思われていた(w)ジョーイ君の見せ場回でした。


8/19「肉の壁」うんぬんの表現が、というご指摘をいただきまして修正しました。


12/20 誤字修正しました。

×その人たちだって化物も食われるんでしょう→○その人たちだって化物に食われるんでしょう

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[気になる点] これ現代日本人の思考じゃないよね
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