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番外編 冒険者は新婚を夢みる9

『『『『『ケケケケケケッ!!!』』』』』


 一匹見かけたと思ったら次々と……赤・青・黄・紫・黒のキノコが続々と湧い(ポップアップし)てきた。


「てやーっ!」

 とりあえず色違いだけで見た目は変わらないキノコを次々に両断をするボク。

 切るとキノコはトロけるような感じで粘液になって消えてゆく。


 斬るたびに、なんとなく脳裏で軽快な音楽と『1UP!』という幻聴幻影が浮かんでくる。

 ま、それはそれとして、ワラワラと湧いてくるキノコが鬱陶しくてたまらない。


「え~~い! 都合よく髭の配管工はいないの!?」


 思わず鬱憤混じりにそう憤慨すると、「なんですか、それは?」と、ミーアさんが怪訝な顔をした。


「キノコ退治の専門家兄弟っ! 夢なんだからそのくらい都合つけてくれてもいいだろうに――」


 八つ当たりだと思うけどそう愚痴ったところで、「きゃ~~~~~っ!! 骨の師匠が!!」というフィオレの絹を引き裂くような悲鳴が轟く。

 慌ててミーアさんともども振り返って見れば、自分の肋骨を両手剣代わりにフィオレを守る形で、キノコの集団を向こうに回していた骨ジョーイが、ちょっと目を離した隙に津波のようなキノコの集団に圧し掛かられて埋没していた。


「大見得切って秒殺されるんじゃない! つーか、どこまでの○太君なんだ、君は!?」


 思わずそう盛大にツッコミを入れたけれど、完全にキノコに埋もれた骨ジョーイの反応はない。


「ど、どうしましょう、ヒユキ様~っ?!」


 途方に暮れたフィオレの目前で、さらにキノコが増員されてちょっとした小山になった。

 あちらに大部分が集まってくれたお陰か、大分散発的になってきたキノコのモンスターを切り飛ばしながら、オロオロとボクに尋ねてくるフィオレに気軽に答える。


「ん~~。ひとまとめに燃やしたらいいんじゃないの?」


 キノコの弱点は乾燥や火と相場が決まっているし、フィオレなら火炎系の魔術も使えるだろう。


「え!? そんなことをしたら師匠まで丸焼けの火葬になってしまいますよ!」

「いや、あれもう骨だから」


 多少燃えても大丈夫だろう。


「……それもそうですね」

 納得したフィオレは両手をキノコの山に向けて詠唱を開始した。

 増幅器である杖や触媒などがないため、詠唱の方に時間をかけるみたいで、普段よりも長々と呪文を唱えている。


「――はぁっ! ラストッ!!」


 その間にキノコの湧きは終わったみたいで、最後に残っていたイボイボのキノコを斬ったところで、丁度フィオレの呪文も完成したらしく、

「――“火炎陣(ファイヤー・サークル)”」

 裂帛の気合とともに放たれた魔力が具現化して、キノコの山を丸々取り囲む魔法陣となって、さらにその圏内を劫火で覆った。


「お~~~っ! やるねえ」

「フィオレさんは基本に忠実な上にバランスが良いので、最近は指名依頼で魔術学園の臨時講師をやってらっしゃるんですよ」

「ほ~~っ。凄いもんだ。そうーいや、鈴蘭(オリアーナ)が魔術に凝りだしたらしくて、誰かいい教師がいないかって聞かれたんだけど、ウチの連中も私も基本的に本能で魔術を使っているからどーしようかと思ってたんだけど、そーかフィオレに頼むって手が……」

鈴蘭(オリアーナ)――って、女帝陛下ではないですか!!? と、と、と、とんでもないです! 私なんかでは畏れ多くて無理です!!」

「いや、別にそんな難しく考えなくても。普通に接すればいいだけの――」

「無理ったら無理です!! それに魔術だったら私なんかよりも、タメゴローさんの方が全然レベルが違う……いえ、比べるのも烏滸がましいほど上じゃないですか!」


 泣きそうな表情で全力で拒否するフィオレを前に、さすがにこれ以上の無理強いは駄目かと諦めるしかなかった。


「……う~~ん、タメゴローさんねえ。彼女も彼女で魔術の習得が偏っている上にあの性格だからねえ」

「? 悪い方ではないと思いますけど」

「悪くはないけど、『大は小を兼ねる!』とか言って、基本をすっ飛ばしていきなり実践から入るような教え方をするんだよねええ」


 そんな教え方の薫陶(くんとう)を受けて、万が一にも魔術師としてものになったら、鈴蘭(オリアーナ)の魔術に対する認識とか、ついでに将来的に問題が出そうな気もするけれど……。


「……まあいいか。別にいま誰か困るわけでもないし」

 考えても仕方ないことは考えなことにする。

 将来の事は将来苦労する人間がどーにかすればいいことだろう。うん。


 と、雑談に花を咲かせている間に、火炎に焙られたキノコの山は見る見る焦げて縮んでいき、それに合わせて魔法陣のサークルも小さくなって、人ひとり分くらいまで狭まったところで、

「熱ぢーーーーーーーーーーっ!!!」

 と、絶叫を放ちながら、火の中から素っ裸のジョーイ(・・・・・・・・)が飛び出してきた。


「「「――え゛!?!」」」


 しっかり肉のついたジョーイは、体に着いた火を消そうと、地面(砂鯨の胃袋)に五体投地をして、その姿勢からのたうち回る。


「――なんで肉があるわけ?」

「もしやキノコが付着して肉になったのでしょうか?」


 そりゃ夢の中だからなんでもアリだろうけど、あまりの御都合主義っぷりに、思わずミーアさんと真顔で質疑応答をしてしまった。


「熱っつつつ……あー(ひで)ぇ目にあった」


 どうにか火を消し終えたジョーイが、そういって立ち上がったところへ、感極まった面持ちでフィオレが抱き付こう――として、

「し、師匠~~っ……って、体にまだキノコが寄生してます!! ――火炎(ファイアー)っ!」

 ジョーイの股間に向けて全力の『火炎(ファイアー)』魔術を叩き込む。


「「あ……」」


 直撃を受けたジョーイが白目と泡を吹いてその場に崩れ落ちるのを目の当たりにして、反射的に内股になって恐怖に慄くボクとミーアさん(女性でも想像すると及び腰になるんだねぇ)。


「ま、まだ付いています! ならば『風刃(ウインドゥ・カッター)』で切断をして――」

「「わあああああああああああっ、やめろ(やめなさい)っ!!」」


 ジョーイのキノコが健在なのを確認して、物理的にちょん切ろうとするフィオレの暴走を、慌てて背後からしがみ付いて制止させるボクとミーアさん。


「なぜ止めるんですか、ふたりとも!? このままでは師匠の体がキノコに支配されるかも知れないんですよ!」

「落ち着いてっ、それはキノコじゃない! 男のシンボルだよ!」

 フィオレの腰を抱えて指摘するけど、

「嘘です! 弟のを見たことがありますけど、こんなんじゃありませんでした!」

 頑として現実を認めようとしない。


「成長するとこの形になるのよ!」

「そそっ、フィオレが見たのは発展途上! これが完全体だよ!!」


 両手を抱えるミーアさんとともに説得をするボクら。

 知らない間に息子(・・)が無くなった喪失感。その茫漠たるもの悲しさを知る者はそうそういないだろうし、まして女性には理解しがたいだろうけど、ボクだけは知っている。とにかく筆舌に尽くしがたいものがあるんだよ!


 そんな風にワチャクチャになっていたところ、不意に足元が地震のように揺れて、続いて遠くから『ゴーっ!』という洪水のような音が近づいてくる音と地鳴りが響いてきた。


「……それはもしかして……?」

「砂鯨の消化ですか!?」


 猛烈に嫌な予感を覚えたボクと同様に、ミーアさんもその可能性に思い至ったのだろう、顔色を変えて音のする方を凝視する。


「えっ、でも師匠はまだ余裕があるって……?」


 フィオレもさすがに攻撃の手を休めて、不安げな顔を音の方へ向ける。


「可能性としては、ジョーイの言っていた期間が間違っていたか、或いは胃の中で火を燃やしたのが刺激になったのか、はたまたジョーイが肉体を取り戻したことが切っ掛けになったのか……いずれにしても」

「「いずれにしても?」」

「逃げようがないので、この場で『結界』を張ってやり過ごすしかないだろうね」


 そう口にするのと同時に、ボクは全員がスッポリ入れるサイズの『光障壁』を張り巡らせた。


「――ま、夢の中でどこまで持つかはわからないけど」


 さすがに口に出して不安を煽るわけにもいかないので、そう胸中で付け足しながら、ボクは足元で幸せそうに寝ている(気絶している)ジョーイを見下ろす。


(つーか、夢の中で眠ってると意識ってどーなってるんだろうねぇ)


 そう思った瞬間、ナイアガラの瀑布のような胃液がこの場を席巻したのだった。

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