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番外編 冒険者は新婚を夢みる8

 結局のところ逃げ切れるわけもなく、思いっきり揉まれたボクは――

「ぎゃ――ぎゃははははははははっ!! 脇をくすぐるな~~っ!」

「あれ? こっちか?」

「ひゃははははははははっ、腹、腹だよ、ひははははははっ!」

「むう……ここか!?」

「背中だ、こん畜生っ! わざとやってんじゃないのか?!」

 衆人監視の下、全身をくすぐられて悶絶するという江戸時代の遊女に対する刑罰のような羞恥プレイの洗礼を受けていた。


 笑い過ぎてぜいぜいと荒い呼吸をするしかないボクを見下ろして、骨ジョーイが途方に暮れたような表情で(あくまで雰囲気として)、

「……胸の感覚がない」

『まさぐれどまさぐれど我が手にオッパイの感覚は猶なし。ぢっと手を見る』

 なぜか一句読む骨。


「オッパイなくて悪かったな~~っ! だから他のふたりを触れって言ったんだよ!」


 別にAAだからって悔しくないし~。

 最初に動きやすいようにわざわざキャラクリエイトで微乳にしたわけだし~っ。

 少しは成長しないかな~、とか思ってイソフラボン豊富な豆腐や納豆を毎日食べているわけじゃないし~~!!

 だいたい巨乳の女なんて頭がパーそうに見えるし~……つーことで、巨乳は敵だ! いま決めた、そう決めた! 絶対に決めた!!


「……なにかトバッチリが全世界の胸の大きな女性に向っているような」

「……ご自分の立場をご理解いただけているのかしら? 夢から覚めたら忘れてくれていることを願うしかないわね」


 ボクの怨嗟の声を聞いて、自分たちだけ高みの見物を決め込んでいたフィオレ(E)が冷や汗を流し、ミーアさん(D)がやれやれと首を横に振って『処置なし』という顔をする。


「“その者、ピンクの爆乳を揺らし、カラクリのメイドとともに暗黒の森へと降り立つだろう”」

 なぜか前後の脈絡もなく唐突に骨ジョーイが厳かにそんなことを口に出した。


「――なにそれ?」

「いや、なんだろう……? 不意にそんな言葉が浮かんだ」


 自分でも意味不明らしい。首を三六〇度回転させる骨ジョーイ。ま、こいつが意味不明なのはいまに始まったことじゃないけどさ。


 ◆◇◆◇


● およそ百五十年後――。


「――へっ。顔はまあ互角としても、オッパイの大きさはこちらの圧勝ですね。つまり総合的な魅力も圧勝ということで、ざまあみろ貧乳聖女っ。お前の時代は終わっ――ごびゃああああっ!」


 出合い頭の無礼に対して、直後頭上に待機していた天涯(てんがい)からの怒りの雷撃の直撃を受けたソレ(・・)は、まるでコントのように黒焦げになりながらも悪態をつく。


 ――ドンガラガッシャ―――――――ンッ!!!!!


 再度、放たれた先ほどに倍する追撃を受けて、衝撃で吹っ飛んでいった――それでも壊れた様子もない。丈夫なもんである。

 ソレは高笑いしながら、

「ふははははっ、笑止。このワタシのボディは特殊合金製! 電磁波や熱線の類いは一切効果がないことを知らないとは――」

「……ドイツ製のロボット刑事みたいね~」

 その吹っ飛んでいった行く先を眺めながら、やたらコアな感想を口に出す彼女(・・)


 緋雪よりも遥かに長身で信じられないほどのナイスバディの少女が、土下座の姿勢をしているものだから、長いピンクブロンドが作る紗幕のような髪のカーテン越しにも、ゆさゆさ揺らる巨大な――洒落抜きで西瓜ふたつ分くらいある――オッパイが嫌でも目に入ってくる。


「…………」

 いろいろの意味でこの娘は度外れているなぁ。と、およそ百五十年ぶりに出合い頭にぶん殴られた衝撃で呆然とする緋雪の脳裏に、ふとかつて聞かされた予言の言葉が蘇った……とか蘇らなかったとか。


 閑話休題(それはさておき)――。



 ◆◇◆◇


「いや、感覚がないのはこの手が骨のせいだと思うんだけど」


 そう言い訳してるけど、その割には非常にスムーズに手慣れた手付きでボクの縄をあっという間に解いた。

 それから右手で左手の骨を手首から外して、カタカタ動かして確認している骨ジョーイ。


「……その割には器用に動かしているみたいに見えるけどねぇ」

 やっと自由になれたボクは立ち上がって軽く体を動かし――ミーアさんとフィオレが、気を利かせて手でボクの体に着いた汚れを払ってくれる――特に違和感がないのを確認しながら、そうツッコミを入れてみた。


「見える部分は意図的に操作できるって感じかな~」


 どこで見てるのかは知らないけれど、空洞になっている眼窩を前に向けたまま、背中側に外した左手を置いて見えなくすると、途端に蜘蛛みたいに動いていた左手の動きが止まった。


「――な?」

「なるほど」


 それでさっき骨が散らばっていた時に自分で組み立てられなかったわけか。


「そういえば、さっきこの場所を『砂鯨の腹の中』って言っていたけど、どーいう意味?」

 他のふたりも気になっていたのか、小さく頷いて骨ジョーイの返答を促す。


「そのままの意味だよ。この辺りには『砂鯨』っていう山みたいな大きな魔物がいて、目の前にあるものをなんでも食っちまうんだ。だからこの辺りの村や町の刑罰は、罪人を砂鯨に食わせるのが普通なんだ」


 どんな普通だ!? と、ツッコミを入れたいところだけれど、夢の中の理不尽を憤ってもしかたがない。


「脱出方法はないの?」

「あるはずだ。こいつは体内が一種のダンジョンになってるから、どこかに脱出のための転移陣(シフトポータル)がある筈なんだ」

「ほー……」


 意外ときちんとした設定に、ボク、ミーアさん、フィオレとも三者三様に安堵の表情を浮かべる。

 腹をぶち破って脱出とかでなくてまずは良かった。


「ただ」だが、続く骨ジョーイの言葉で淡い希望が急速に消える。「生き物だからな。半月に一回、消化されて溶かされる。俺みたいに」


 ケタケタと自分の体を指さして笑う骨ジョーイ。


「ちょっ――」顔を引きつらせるフィオレ。

「いつなんですか!?」切羽詰まった表情で骨に詰め寄るミーアさん。

「いつ消化が始まるの?!」拾った《薔薇の罪人(ジル・ド・レイ)》の切っ先を、骨の首のあたりに当てて問い掛けるボク。


「ん~~?」

 骨ジョーイは慌てた風もなく、腕組みをして考え込んでいたが、

「多分、七日から九日後くらいじゃないかな~。夜になると少し薄暗くなるんだけど、だいたいのその間隔で」


 天井(胃壁?)の発光しているヒカリゴケの群生みたいなのを指さしてそう言った。


「師匠の話が本当なら、最短でも七日以内に脱出しないと、あたしらも骨ですかぁ!?」


 戦慄するフィオレだけど、甘いっ、見通しが甘すぎる!!

 ジョーイに一定の信頼を寄せていて、なおかつ根が素直なお嬢様であるフィオレと違って、ある程度の修羅場を潜り抜け、ジョーイという人間の特性をよく知るボクとミーアさんはそこまで楽観的になれない。

 お互いにアイコンタクトを取って、同じ懸念を抱いていることを確認し合う。


「実際はジョーイ君の勘違いで五日と見るべきでしょうね?」

「いや、余裕を持って三日が妥当じゃない?」

「……そうですね」

「……そうだろう」

 頷き合うボクとミーアさん。


「なんか俺馬鹿にされてないか~?」

「えーと……(いつものことですけど)」


 ポリポリと頬の辺りを掻きながら同意を求める骨ジョーイに対して、フィオレは困ったような顔で眉をハの字にして言葉を濁す。


 と言うことで――。


「“光芒(ライト)”」


 ボクの手から浮いた光の塊りが通路を照らす。

 見た感じ幅三メルトほどの鍾乳洞のような通路がぐねぐねとうねっている感じだ。


「足元が不安定そうですねー」

 でこぼこもそうだけど、ウエディングドレスとヒールという場違いな格好でダンジョンを探索することに不安があるのだろう。

 フィオレが覚束ない足取りで、前衛を務めるボクと骨ジョーイの後について歩きながらこぼす。


「それ以前に、私は実戦経験のない素人も同然ですから、何かあれば遠慮なく切り捨てて行ってください」

 最後尾のミーアさんが当然と言う口調でそんなことを言って来る。


「そういうわけにはいかないさ。たとえこの身が砕け散っても女性は護る! それが男の生きざまってもんさ」


 カッコイイことを言う骨だけど、武器として両手に持っているのが自分の肋骨の時点で、もうすでにバラバラになる寸前のようにも思える。


「とりあえずジョーイが知っている私の魔術は使えるみたいなので、治癒術も大丈夫だとは思うけど、死者の蘇生が可能かどうか……試してみるにはリスクが大きすぎるので、全員気を付けるように」


 注意しながら先頭を歩くボク。

 幸か不幸か手元に《薔薇の罪人(ジル・ド・レイ)》もあるし、ドレスやヒールで立ち回りするのも慣れている。

 自然とこの陣形になったのだった。


 勿論、ミーアさんを見捨てるつもりはないので、敵を見つけたら見敵必殺サーチ・アンド・デストロイのつもりでいる。


 そんなことを思っていたら、早速通路の奥からぴょんぴょん跳ねてくる子供くらいの大きさのキノコ(いかにも毒を持ってそうな赤に紫の水玉模様)が、

『ケケケケケケっ!!』

 と奇声をあげなら襲い掛かってきた。その短い手には先端がタケノコでできた竹槍が握られている。


「馬鹿な、キノコタケノコ戦争が遂に終結っ!?! この先生きのこることができるのか!」

「「「なにそれ!?」」」


 思いがけない結果に愕然と立ち竦むボク(タケノコ派)。

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