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番外編 冒険者は新婚を夢みる7

「いや~、助かった助かったっ。感謝感激だぜ~!」


 ミーアさんとフィオレが協力して、部屋のあちこちに転がっていた骨の部品(パーツ)を集めたところ、ちょうど成人男子一人分くらいになった。

 『くらい』というのは、なーんか微妙に構造が変というか細かい部分が雑なんだよねぇ。ウチには〈死霊騎士(デスナイト)〉とかゴロゴロいるので、見慣れたボクには一目瞭然なんだけれど、言うなれば実物を知らない乙女が、既存の知識だけで男○器を描いたような、コレジャナイ感。

 けどまあ、このくらいなら夢の誤差の範囲内だろうし、動き回るのにも支障はないようなので、まあいいだろう。


 と、いうことで組み立てられた髑髏(されこうべ)もとい人骨は、現在元気一杯にエッチラオッチラ陽気に部屋の中を動き回っている。

 それを呆然と眺めていたボクたちだったけど、ふとその動きと軽薄な物腰に既視感(デジャブ)を覚えて、ほとんど無意識にボクの口から胡乱な呻き声が漏れていた。


「……ジ~ョ~イ~? 君、ジョーイの成れの果てだろう!?」

「???」


 問われた人骨は頭に手を当てて、思いっきり疑問符を浮かべまくる。


「俺の名前ってジョーイって言うのかな? かなかなかなかなか?」

 うわ~っ、なんかムカつく!

「それを聞いているんだよ!?」

「と、言われても生前の記憶とかないし。何しろ脳味噌がないからなあ……」


 中身がすっからかんの頭をポンポン叩いて、何が楽しいのかケラケラ笑う人骨。


「……言われてみればこのノリはジョーイ君のような」

「でも、あたしもさすがに師匠の骨まで判別はできないですよ~。名前とか書いてないんですか?」


 悩ましい表情で考え込むミーアさんと、おろおろと骨と断定するボクとを見比べるフィオレ。

 だが、確認しようにも夢の中のせいか、生憎とステータスの類いは一切見えないし、また身元を証明するようなものも身にまとってはいない。


「――けど間違いないね。この骨はジョーイもしくはそのキーパーソンとなる分身だね。でなけりゃ、こんなに不自然なものが都合よく現れるはずないからねぇ」


「そっか、俺はジョーイか~」

 と、えらくあっさりと納得している骨ジョーイ。

 それを前に、ボクは縛られて転がったまま嘆息をする。

「は~~~っ……なんか徒労感が半端ないんだけどぉ」

「これがホントの“ムダ骨”っ。なーんちって!」

「ヤカマしいやい! ホントにガッカリだよ。せっかく手がかりを掴んだと思ったらわけのわからない場所で、当人が記憶喪失でわけのわからない状況になっているなんて。例えるなら一週間がかりで夢中で読んだWEB小説の続きをワクワクしながら期待してみたら、『この小説は未完結のまま約○年以上、更新されていません。次話投稿されない可能性が極めて高いです。予めご了承下さい。』と書かれていた並のガッカリ感というか――」

「「ヒユキ様、その例えはいけませんっ!!」」


 ボクのあけすけな感想を耳にしたミーアさんとフィオレが、なぜか血相を変えて止めに入った。

「……どうかした?」

「いえ――」

「なぜか『その話題は止めろ』とか『電子書籍版2018年2月16日から配信開始』と何者かの意思が介在したような……変ですね?」

 小首を傾げるフィオレと、『とりあえずそれは横に置いておいて』と、身振り(ジェスチャー)でなかったことにするミーアさん。

「この骨がジョーイ君かどうかは確認のしようもないので、まずは現状の把握とこの場からの脱出を優先すべきでしょうね」

 その上で打開策を打ち出す。やっぱり隣に常識人がいると安定感が違うね。実家のような安心感――というか真紅帝国(じっか)じゃ心休まったことなんて一瞬たりともないんだけどさ。


「とはいえヒユキ様が縛られたままでは……」

 困った顔でフィオレが相変わらずミノムシ状態で床に転がっているボクの隣に屈み込んだ。


「でも《薔薇の罪人(ジル・ド・レエ)》でも切れないとなると、もう手の施しようがないからねぇ」

 ため息をつくボク。

 元の世界ならともかく、この世界の物理法則は基本的にジョーイの無意識の知識(ジョーイの知識かぁー……)が元になっているので、世界ナンバー3の斬れ味を誇る《薔薇の罪人(ジル・ド・レエ)》であってすら、こんな荒縄一本切れやしない。


「ん? その縄を解けばいいのか?」


 そこへヒョコヒョコやってきたのは骨ジョーイである。

 暢気なその口調にちょっとばかりイラっとしながら、

「そーだよ。好き好んで縛られているとでも思ったのかい?」

「うん。趣味で縛られているもんだとばかり思っていた」

「んなわきゃあるか~~い!!」


 やっぱりコイツはジョーイだよ。ジョーイ以外の何者でもないよ!


「――ふむ。ですが確かに彼がジョーイ君だとすれば、夢の中での干渉の力も強いはず。もしかすればヒユキ様の(いまし)めも解けるかも」

「よゆーよゆーっ。その代わり――」


 いつも通りの根拠のない――骨の髄からこんな奴だったんだねぇ――自信でもって言い切る骨ジョーイ。そーいや、関係ないけど四凶天王の一柱(ひとり)である暗黒騎士の刻耀(こくよう)の配下に、〈死霊騎士(デスナイト)〉とは思えないほどやたら騒々しいのがいたねぇ。なーんかこの骨を見てると思い出すわ。

 と、陽気にガッツポーズを取る骨の虚ろな眼窩が、なぜかボクの胸元へと降りてきた。


「その代わり、オッパイ揉ませろ!」

「「「…………。――はあっ!?!」」」

「オッパイ揉ませろっ!!」

「「「はああああああああああああああっ!!??」」」


 何を言い出すんだこの骨は!?


「なーんかこう、そうすれば大事なことが思い出されるよーな気がする。だから揉ませろ!」

「「「…………」」」


 悪びれることなく堂々と言い放つ骨ジョーイを前にドン引きするボクら。


「……ま、まあ。ジョーイ君も青春真っ盛りの男の子だからねぇ……けど、縛られている相手にこれは……」

「師匠ぉ……あたしは情けないですよー。師匠がそんな人間だったなんてぇー」


 ミーアさんはさすがに荒くれ揃いの冒険者を相手にしていただけあって一定の理解を示しているものの、フィオレは心底失望した表情で泣いていた。


「つーか、別に私の胸じゃなくてもいいだろう?! ミーアさんのほうが圧倒的にボリュームもあるし、フィオレもあれで結構な隠れ巨乳だよ!!」

 両手の骨をワキワキさせながらにじり寄ってくる骨ジョーイの脅威を前に、縛られたままお尻で這いずる形で逃げるボク。

 けれど何しろ着ているものがウエディングドレス。そうそう機敏に身動きが取れずに、ジリジリと彼我の距離は縮まるばかりであった。


「いえいえ、私なんてもうオバさんですから。若くて成長途中の胸の方がいいのよね、ジョーイ君?」

「ぐすっ――あたしなんてどーせ単なる弟子の女モドキだと思われているのが関の山ですから」


 どうぞどうぞと、会計の支払いで譲り合いをするサラリーマンのように、他のふたりを売ろうかと思ったら、華麗にカウンターを食らってしまった。

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