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番外編 冒険者は新婚を夢みる6

「知り合いか知り合いでないかと聞かれると、残念ながら知り合いなんだよねぇ……」


 きわめて遺憾なことにこの世界の人間の中では、一番の腐れ縁と言ってもいい。もしかして、ボクの交友関係って転生前も転生後もロクなもんじゃないんじゃ……うん、この話題は深く追求しないことにしよう。


「はあ……? 知ってるならなんで俺なんかに聞くんだ?」


「こっちのジョーイがどうなっているのか、特に現在どこにいるのかが知らないから聞いてるんだよ。知らない?」

「『こっち』ってなんだ?」

「いろいろあるんだよ」

「いろいろか……ふむ」

「そう、いろいろ。問題が山積みで特に現状は根本から間違っているんだよ。だからこっちまでやってきて元通りに清算しなきゃいけないんだよ」

「そうか、関係の清算か。なるほど、そうか…そういうわけか」


 ボクの嘆息混じりの慨嘆に、バカサ氏はグラスを磨く手を休めて、合点がいったという顔で深々と頷いた。

 それから順々にウエディングドレス姿の三人組(ボクら)を眺めて、痛ましそうに眼を逸らす。

「英雄、色を好むって言うからなァ……。とはいえ、娘さん方にしたらたまったもんじゃねえだろう。確かにこんな関係は間違っているな。罪な男だぜ〈グレート・ブレイバー〉」


「……なにか間違った理解をされた気がするんですけど」

 猫みたいに舌先でシャーリーテンプルを舐めていたミーアさんが眉をしかめた。


「いいんだ、バーテン生活二十五年。俺もいろんな人生を眺めてきたからよくわかる。何も言わなくていい」


 やんわりとミーアさんの抗議を躱すバカサ氏。

 と、外野で興味津々とボクらの会話を盗み聞いていた酔っ払いの集団から、

「――ちなみに、誰が〈グレート・ブレイバー〉の本命なんだ?」

「は……あぁ!?」


 興味本位のバカな質問に思い切り目を剥いたのはなぜかボクだけで、ミーアさんとフィオレは無言で顔を合わせた後、示し合わせたかのように、真っ直ぐにボクを指差した。


「ちょっと待てーーーーい! なんなの、その手は!?」

「いや、だってジョーイ君の本命って言ったら……ねえ?」

「そーですね。客観的に言ったらこうなりますね……はあ……」


 指こそ下ろしたもののミーアさんもフィオレも前言を翻す気はなさそうだ。きちんと後でシメ……もとい、話し合ったほうがよさそうだね。


「それで〈グレート・ブレイバー〉だが、噂じゃ冒険者ギルド本部からの依頼であちこち飛び回っているそうだ。詳しくは冒険者ギルドで聞いたほうがいいだろうな。ちなみに冒険者ギルドの建物はここを出たところを右に曲がって五軒目だ」

「ふーん、なるほど。参考になったよ。ありがとう」

「お役に立ててなによりだ」


 話が一段落したところで、ちょうど飲んでいたグラスも空っぽになった。味は美味しかったような気もするけど、ホント、夢の中で飲み食いしているような感覚で微妙にボヤけているのが残念だ。

 横を見ればミーアさんとフィオレもほぼ同時に飲みきったみたいで、目線で次の目的地である冒険者ギルドへ行こうと促してくる。


「それじゃあ、冒険者ギルドへ行ってみるよ」


 カウンターの椅子から立ち上がったところで、目の前に大きな肉球のついた掌が差し出された。


「ああ、代金は三百カッパーだ」

「………」

「………」

「………」

 

 当然のように代金を請求され、思わず横目でミーアさんとフィオレを覗うと、ふたりとも何も言わずに視線を逸らせる。つーか、通貨単位が現実と微妙に違うねぇ……。


「えーと、ツケってわけには……」

「一見の客にツケは効かねえ」


 雰囲気で察したものか、バカサ氏の態度が露骨にぞんざいになった。


「働いて返すというのは……」

「生憎と人手は足りている」

 ミーアさんの提案もけんもほろろに断られる。


「と、とりあえず手持ちのものを代金代わりに渡して、後から交換というわけには……」

「手持ちって、めぼしいものはせいぜい私の《薔薇の罪人(ジル・ド・レエ)》くらいしかないじゃないか!? 絶対に嫌だよ!」


 フィオレが恐る恐る提案したことはボクが即座に拒否した。結果――


「つまり……てめーら、食い逃げか!?」


 野生さながらに吠える熊の獣人を前に、ボクは冷静に話し合いを試みる。


「払わないとは言っていないよ。いまは手持ちがないから、この場では払えないって言ってるだけだろう」


「それを食い逃げってつーんだーーーーっ!!!」


 話し合いは物別れに終わった。


「選べ! 自分から衛兵の詰め所に行くか、俺が力ずくでふん縛って行くか、ふたつにひとつだ!!」


 全身の毛を逆立て、筋肉をモリモリさせるバカサ氏に対抗して、ボクも《薔薇の罪人(ジル・ド・レエ)》を取り出して戦闘態勢になる。


「だから後から払うって言ってるだろう! たかだか熊の獣人ごときがこの私に勝てるわけないんだから、恥をかく前にやめたほうがいいよ?」


「陛下、それは火に油を注ぐようなものですよ! てゆーか、もうこの状態は無銭飲食ではなくて、居直り強盗なのでは?」

「うわ~~ん、ごめんなさいお父さんお母さん、お祖母ちゃん、お姉ちゃん。悪い友達の影響(せい)でフィリアは犯罪者に――!!」

 冷静にツッコミをするミーアさんと、パニックに陥って泣き叫んでいるフィオレ。


「上等だーっ!!」

 完全にやる気になって殺気をたぎらせるバカサ氏。対峙するボクの脳裏を、『三毛別』とか『絶天○抜刀牙』とかの謎の単語が過ぎる。


 一触即発のその時、どこからか、

衛兵(センチネル)だ、衛兵(センチネル)が来たぞっ!」

 誰かの叫びが聞こえてきた。


「――ちっ。誰か衛兵を呼びやがったか」

 忌々しげに舌打ちしたバカサ氏の気勢が下がる。


「ヒユキ様~~っ。ど、どうしましょう?」

「――ふん、たかだか村の青侍ごときが束になってかかってきたとしても、ものの数ではないさ」

「完全に悪役の台詞ですね」


 《薔薇の罪人(ジル・ド・レエ)》の先端を酒場の入り口へと向き直すのとほぼ同時に、村の入り口で見かけたフルプレートの騎士姿が三人――見かけはまるっきり同じで区別はつかない――重装備とは思えない足取りで店の中へと入ってくると、無言のまま手にした剣を抜き放った。




 30分後、蓑虫みたいにロープでグルグル巻きにされるという、なんか屈辱的な格好で拘束されたボクがいた。


「……おかしい。なんでただの衛兵が目からビームとか出すんだろう?」


 みょ~~ん、と音が出るみたいな感じでグルグル回るビームが当たった瞬間、目を回して意識を失ったボクらは、気がついたら四方をなんかヌメヌメした弾力と湿度のある壁で囲まれた、狭い部屋に三人揃って閉じ込められていたのだ。


 ミーアさんとフィオレは拘束こそされていないものの、どこにも出口らしいところもなく、ボクを縛る縄もギチギチに固結びされているということで、手を使ったり、フィオレの魔術で焼ききろうとしたり、無造作に転がっていた《薔薇の罪人(ジル・ド・レエ)》で切ろうとしたり、とひと通りチャレンジした後、どれも無駄になったのであきらめて膝を抱えて座っている。


「まあ夢の中ですからね。陛下の権威も神通力も通じないんじゃないでしょうか?」

 諦めたようにぼやくミーアさん。その視線が部屋の隅に転がっている髑髏(されこうべ)――よく見ると、あちこちに肋骨だの大腿骨だののパーツがバラバラに転がっていた――に向けられる。


「それにしてもここってどこなんでしょうね? 普通なら衛兵の詰め所かなにかだと思いますけど」


 小首を傾げたフィオレの質問に、当然誰も答えられない……と思ったところ、

「ここは陸鯨の腹の中さ」

 不意にどこからか回答があった。


「「「?!?」」」


 慌てて周囲を見回すボクら。


「――ここだよ、ここ。お嬢さん方の足元さ」

 カタカタとカスタネットが鳴るような音と声に導かれて見て見れば、声の出所は、さっきミーアさんが見ていた髑髏(されこうべ)が喋っているものだった。


「……なんだ骨か」

「まあ、陛下のところの感覚ではそうでしょうね」


 喋る人骨とか、別に珍しくもないので思わずそうがっかりしながらコメントすると、なぜかミーアさんに同情的な目で見られた。


「……あー、なんかよくわかんねーけど話が通じるみたいでなによりだ。で、だ。詳しい説明をする代わりに、できればあっちこちに転がっている俺の骨を集めてくれないか? 首だけってのも落ち着かなくてな」


 なんか偉そうに要望を口にする髑髏(されこうべ)

4月3日。今後の展開が感想で予想されていて、それがあたりだったので追加で加筆しました。


4月5日、訂正しました。名前「フィオレ」(;゜д゜)<わ、忘れちまったい

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