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番外編 冒険者は新婚を夢みる5

 石畳で舗装された道路を馬車や牛車や騎鳥(エミュー)半馬人(ケンタウロス)が行き来している。

 行き交う人々は普人と亜人が半々くらいで、昼間の都市部並みに人数と活気があった。


「……普通ですね」

「村と言うにはちょっと規模が大きいですけど、まあ、普通ではないでしょうか」

「見た感じ老若男女普通にいるねぇ」


 ぱっと見、ごく普通の光景が門をくぐったところに広がっている。


「実はジョーイ君の夢の中というのは間違いで、寝ている間にどこか知らない場所に魔法で飛ばされたとかのオチじゃないですよね?」


 あまりにもリアルでうららかな光景に、ミーアさんが周囲を見回しながら疑い深く呟く。


「そんなことはない……と思うけど、真紅帝国(うち)の連中の洒落は洒落できかないところがあるからねぇ……」


 まさかとは思うけど、このごに及んでなんちゃってオチで済ませるわけじゃないだろうね?

 猜疑心に駆られたボクとミーアさんは、確認するために自然に頬をつまんでつねっていた。


「いたーっ……痛い? あれ? 痛いような痛くないような……あれ?」


 いっせーのせーで、両方の頬っぺを抓られたフィオレが抗議をする。

 その反応を確認したボクたちは頷き合って手を離した。


「やっぱり夢みたいだね」

「そうですね。本気で抉り取るつもりだったのですけど、この程度ですからね」


「なんで当然のようにあたしの頬で試すんですか!? 自分でやればいいでしょう!」


 涙目のフィオレのことは当然のように無視して、ボクとミーアさんは村の中心部目指して歩みを進める。


「これからどうしますか、陛下?」

「まずは聞き込みかな。定石通りに酒場で情報収集ってところじゃない?」

「もしくは冒険者ギルドですね」

「だね」


「ちょっと! 放置しないでくださいよぉ!」



 ◆◇◆◇



 ありがちなカップと皿が描いてある看板の下に、『バカサのさかば』と書かれた金釘流の文字が踊っている。


「……最近は大陸の共通語に漢字も併記させているのに、まだ覚えていないみたいだねぇ、ジョーイは」

「まあ、いまのところ漢字は基本的に超帝国と各国の首脳部との公文書に使用しているだけですから」

「いちおう魔術学校では授業に取りいれています。あたしはまだまだ百字くらいしか覚えていませんけど」


 カタカナとひらがなの看板を見上げながらため息をつくと、ミーアさんが、まあまあという感じに取り成して、フィオレが勤勉なところを見せた。


「一般まで浸透するまであと百年くらいかかりそうだねぇ」


 ぼやきながら扉を開けると、ものすごーくありがちなカウンター付きの酒場があって、マスターらしい二メルトを越える熊の獣人が皿を磨いていた。

 入ってきたボクら三人――いずれも結婚式場から直接乗り込んできたような花嫁姿のほとんど傾奇者(かぶきもの)である――を一瞥し、無言のまま軽く眉を上げただけで、そのまま何事もなかったかのように仕事を続ける。

 豪胆なのか、プロに徹しているのか、夢の中だからなのかはわからないけど、説明するのも面倒なのでツッコミがないのは助かるところだ。


 他には昼間からテーブルで酒を飲んで、カードゲームをしている冒険者風の男たちが数人いたけれど、さすがにこっちはあり得ないものを見たような顔でざわついている。


 周囲の視線はガン無視して、ボクはカウンターの前まで行ってマスターに単刀直入に尋ねた。


「聞きたいことがあるんだけど、ジョーイ…」

「客じゃないなら帰ってもらおうか、お嬢ちゃん」


 不愛想に言い切るマスター。


「ヒユキ様、こういう場合は注文をして“お客さん”にならないと、世間話とかできないんですよ」

 フィオレに袖を引かれて囁かれた。


 面倒臭いなぁと思いながらボクらはカウンターに三人揃って座った。


「ご注文は?」


「味噌汁」

「え、えーと、ミルクで」

「夢の中で食べて大丈夫かしら? とりあえずお水ね」


 バラバラに注文を伝えるとマスターが露骨に嫌な顔をした。

「お嬢さん方、うちは酒場ですぜ」


つまりアルコールを注文しろといことだろう。


「じゃあ酒粕のあら汁」

「ブランデー入りのボンボン・ショコラください」

「アルコールを飛ばしたホットワイン」


 嫌な客だな、をい――と露骨に口に出しながら、マスターが背中を向けてなにやら作り始める。

 まさか本当にあるのか、味噌汁とかあら汁とか? と、興味津々待っていると、目の前にノンアルコールカクテルのシャーリーテンプルが置かれた。


「生憎ご要望の品がないんで、これでどうですかお客さん(、、、、)


 紆余曲折あったけど、どうやらお客扱いされたみたいだ。

 喜んでグラスを傾けているフィオレと、警戒しながら匂いをかいでいるミーアさんを横目に見ながら、ボクもグラスに口をつけた。


「カクテルなら、個人的には鮮血みたいに赤いブラッディ・マリーを飲みたいところなんだけど……まあ、いいや」


 軽く肩を竦めるマスター。


「……それで、話は変わるんだけれど、このあたりで『ジョーイ・アランド』って冒険者を見たこととか、聞いたことはないかな、マスター?」

「俺のことはバカサって呼んでくれ。この店の主だ。――で、ジョーイ・アランドって……まさか、お嬢さん方知らないのか? あの冒険王、または〈グレート・ブレイバー〉のことだろう?」


「「「はぁ!? 『偉大な勇者(グレート・ブレイバー)』?!」」」


 なにそれ!? と、揃って飲んでいたシャーリーテンプルを吹き出しそうになった。


「うわ~~っ、いくら夢の中とはいえ、自分で自分の事を『冒険王』だとか『グレート・ブレイバー』とかないわ~」

 思わずそう口に出すと、フィオレはちょっとむっとした顔で、

「それを言うなら〈神帝〉(ドミュナス)様とか言われているヒユキ様は……あうぅ、す、すみません! つい、その……他意はないんですっ」

「――いや、別に怒っちゃいないけどさ。私の場合は他称だからねぇ。自称しているジョーイと一緒にされるのもちょっとアレかなぁ」

「夢の中の人物が吹聴している場合も自称になるんでしょうか? 興味深いですね」


「――あんたらもしかして〈グレート・ブレイバー〉の知り合いなのか?」

 マスターのバカサ氏が小首を傾げた。

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