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吸血姫は薔薇色の夢をみる  作者: 佐崎 一路
第一章 新生の大地
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幕間 豚骨大王

今回も番外編ですが、本編と微妙にリンクしてます。

夜中にラーメンが無性に食べたくなったりした時のため

孔明の罠で夜中にアップしようかと思ったのですが、順番が前後しないよう昼間となりましたw

 ラーメン屋『豚骨大王』は虚空紅玉城の城下町――もともとはNPCが運営する様々な種類の自動露天を設置できるエリア(上限は50軒までだったが、現在は当然のように規模が拡大し、さらにモンスターが運営する店を含め2000軒を超えている)――の一角に位置する、知る人ぞ知る隠れた名店である。


 カウンター席しかない狭い店の前には常に長い行列が並び、店の外までとんこつスープ独特の強烈な匂いが立ち込め、来店する客の期待を否が応でも高めていた。


 これだけ繁盛している店なのだから、もっと大きな店舗に移ればいいと思うのだが、店主であるオークキングは頑固一徹なまでに自らの手作りにこだわり、自分が一日に作れるスープの量から、この規模の店が限界と言って、そうした誘いには決して首を縦に振らなかった。


 そんなある日、ちょうど寸胴鍋の向こう側のカウンターに座った小柄な客が、待ちわびた様子でとんこつラーメンを注文し、その声を耳にした店主は、ふと、どこかで聞いたことのある気がして内心首をかしげた。


 見たところは、身長140cmほどで、エルフかホビット並みの体格で、頭の上から足の先まですっぽりと黒いローブをかぶっている。

 鼻から上を隠す赤い鬼面の仮面を付けているため、人相はわからないが――この程度の怪しげな格好をした住人など、この国インペリアル・クリムゾンには掃いて捨てるほどいる――声の質からして子供か女、あるいはその両方だろう。


 初めて見る客だと思うのだが、なぜかどこかで逢ったことがあるような気もする。


 どうにも喉の奥に人の骨でも挟まった気がして、落ち着かなく思いながらもそこは馴れた作業で、素早く調理を終え、目の前ということもありカウンター越しに、その客の前に注文のラーメンを置いた。


「――へい、とんこつラーメン普通盛り、お待ちっ」


「うわぁ、すごい! これで普通盛りなんだ!?」


 目の前に置かれたタライほどもあるドンブリ――身長4m近い店主にしてみればほんの小皿だが――を見て、目を白黒させているその客に向かい、エプロンで手を拭いながら店主はなにげない風に話しかけた。


「嬢ちゃんはうちの店は初めてかい? だったらその半分以下の小盛りもあったんだがなぁ」


 ずいっと目の前に身を乗り出してきた巨体と、どーみてもイボイノシシな凶悪な面構えに、その小柄な客は、あたふたと丸椅子の上から転げ落ちそうになったが、椅子自体が大きいこともあり(2~3mの客とか普通なので)、どうにか体勢と気持ちを立て直したらしく、コクコクと頷いた。

「――う、うん。この辺の道で美味しいとんこつラーメンのお店を聞いたら、ここを教えてもらったんだ。お店の前に行列があったからすぐにわかったよ」


 呼び名のほうもどうやら『嬢ちゃん』で正解だったらしい、割り箸をとって「いただきまーす」と言いながら口に運ぶその様子に好感を抱き、店主は相好を崩した。

「ほう、そいつは運が良かった。うちはこの通り裏通りにあるからな、知ってる奴はよほどの通か常連だろうな」


「そうなんだ。でもがんばって食べられるだけ食べてみるよ。――っ!? すごいっ! 美味しいよこれっ! こんな美味しいとんこつラーメン初めて食べたよ!!」

 一口食べての絶賛に、店主はさらに笑みを深くした。


「そうだろう! うちのスープはそこいらにない特別製だからなっ」


 そう胸を張ったところで、少女の前にお冷が置いてないことに気が付いて、店主は一転して怒気もあらわに、店員のハイ・オークを怒鳴りつけた。

「馬鹿野郎っ! お客さんにお冷を出してねーじゃねーか! ちんたらしてるとスープの出汁(ダシ)にするぞ!!」


 ――ぶふぁっ!


 途端、レンゲでスープを飲んでいた少女が咳き込んだ。

「ま、まさか・・・このスープって・・・」


「ん? ――ああ、んなわきゃねーだろう。いちいち店員をスープにしてたら、従業員なんざ寄り着かねえさ」


「そ、そーだよね。びっくりしたぁ」

 ほっと安堵のため息をついて再度スープを口に運ぶ。


「・・・まあ、もっとも俺は、魔力で普通のオークなら無制限に召喚することができるけどよォ」


 ――ぶふぉっ!


 再度、少女が咳き込んだ。


「いや、だからって別にオークを出汁(ダシ)に使ってねーから、安心しろや。普通に農場で養殖してる一角豚(ホーン・ピック)の身と骨だから」

 大丈夫かこいつ、という目で見る。


「ああ、いや、ごめん。そーだよね、とんこつラーメンに豚骨以外使ってるわけないよね」

 うんうん頷きながら、ちょうど店員が持ってきたお冷を口に運んで、気持ちを落ち着け食事を再開する少女。


「当たり前だろうがまったく。材料なんざどの店もたいして変わらん。要は料理人の腕だな、腕」


「うんうん。わかるよ」


「それを同業者の中には、妙にひがんでうちの旨さの秘密は、隠し味にオークキング、つまり店主(オレ)自身が風呂に入って出た出汁(ダシ)を使ってる、なんて言う奴もいるくらいで――」


 ――ぶはああああっ!!!


「だから、ねーから! お前も落ち着きの無い奴だな、そんなんじゃこれから先やって行けねーぞ。緋雪様がご復活されて、これからまた戦が待ってるってのに」


「・・・そ、そうなの? なんかそれって確定事項なわけ?」


「当たり前だろーがっ。緋雪様のいらっしゃるところ常に血で血を洗う戦いありだ! ――ん? ひょっとしてお前、緋雪様にお会いしたことがないのか?」


「あー、うん、直接会ったことはない、かなぁ・・・」


「かぁ! どうりでなあ。俺は今でも覚えてるぜ、俺はもともとチンケな森を支配していたお山の大将だったんだが、あの日、完膚なきまでに緋雪様に敗れ去り服従を誓った」


「ああ。そういえばウィスの森のフィールドボスだったっけ」


「なんだ知ってるのか? それからは緋雪様とともに世界各地を渡り歩き、各地の猛者どもと戦い、この拳が乾いたためしなんざなかったぜ」


「う~~ん、やっぱ原因は自業自得か……でも、それがなんでいま、とんこつラーメン店の店主をしてるの? そのくらい強くて元フィールドボスなら十三魔将軍に入るくらいできそうだけど?」


「魔将軍? ――はんっ、あんなもん目立ちたがり屋の名誉職だろうが。だったら、そんなヒマがあればとんこつスープの灰汁(あく)取りでもしてた方がよほどマシだぜ。それに俺程度の強さの奴なんざ、この近所の商店街にはごろごろしてるぞ。4人に1人くらいいるんじゃねーか?」


「ご、ごろごろ・・・4人に1人・・・そ、そーだよね、フィールドボスもコンプリートしたし。でも、なんで皆、こんな張り切ってLv99まで上げてるんだろう・・・」


「んなもん緋雪様のために決まってるだろーが! 嬢ちゃんもがんばって緋雪様の力になれよ!」


「――う、うん、まあ…がんばって緋雪サマの身の安全くらい守れるようにするよ」


「その意気だぜっ」


 話しているうちにいつの間にかドンブリは空になっていた。


「ごちそうさまっ。食べられないかと思ったけど、美味しくてするする食べられたよ。――代金はいくら?」


「おう、とんこつラーメン普通盛りで大銅貨8枚だ」


「ひい…ふう……じゃあ、ちょうど8枚あるからここに置いておくよ」


「毎度有り! ――嬢ちゃんまた来いよ」


「うん。そうさせてもらうよ。それじゃあまたね凱陣(がいじん)

 そう挨拶して出て行く少女。


 聞き流しかけた店主――だが、最後のその言葉に知らず全身に痺れが走った。


凱陣(がいじん)』それは常連や従業員ですら知らない彼の名前。

 尊きあのお方が付けてくれた彼の誇りであり全て。


 決してあのお方以外には呼ばせまいと封印していたそれが、あの日と同じ声で、あの日と同じ口調で、この耳に届いたのだ。


「・・・ま、まさか・・・」

 すでに雑踏の中に消えて行ったその後姿を目で探しながら、凱陣(がいじん)は彫像のように固まった。


「マスター注文お願いします!」


 その店員の声でふと我に返った彼は、カウンターの上に置かれた銅貨を宝物のように握り締め、

「おう、わかった」

 ひとつ大きく頷くと、常に無い上機嫌な様子で、麺を茹で、スープをかき回すのだった。

ちなみに時間軸としては、ジョーイの部屋から戻る途中、緋雪が無性にとんこつラーメンを食べたくなり、城へ転移(以前城外へ転移できなかったのは転移先が不明であったためで、こちらの世界の特定地点をマーキングすれば転移は可能となります)して、変装してラーメン屋に行ってまた戻るをしました。

またオークキングは中級レベルの特殊フィールドボスです。

クエストを受けることでイベントが発生します。常に周りに子分のオークを連れ、しかも時間の経過ごとに再召喚するのでかなりやっかいです。

従魔(ペット)となると1度に3匹しか召喚しなくなりますが、当然この世界ではそのあたり撤廃されていますw


8/20 誤字を修正しました。

×彫像にように固まった→○彫像のように固まった


12/18 誤字脱字修正いたしました。

×灰汁取りでもしてた方がよほどマジだぜ→○灰汁取りでもしてた方がよほどマシだぜ

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