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吸血姫は薔薇色の夢をみる  作者: 佐崎 一路
第五章 吸血の魔神
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第十九話 四凶天王

 さて、ネトゲではありがちだけど『E・H・O』エターナル・ホライゾン・オンラインの魔法や種族には、火・水・地・風・闇・光・無の7つの『属性』が付加されていた(あと、どうやらこれはこの世界でも準拠されているらしい)。

 そして、これらはお互いに相克関係にあり、


『地>水>火>風>地』

『闇>四属性>光>闇』

『全属性≧無』


 という感じで、優位にある属性の武器・魔法どちらでも物理&魔法攻撃力に圧倒的なプラス補正がかかる(逆だとマイナス補正がひどい)ので、これらを把握して戦闘を行うのがセオリー且つ有効なのは言うまでもない。


 ま、面倒臭い人は無属性を鍛えておけば、どの属性にも及ばないにしても圧倒的に不利ということもないので、オールマイティに使用できるのでお勧めだけどね。


 ちなみにボクの場合は、種族が『闇』で職業が『光』、使用している武器は闇属性ベースに四属性を付加。防具は無属性って感じで、どの属性にも対応できるけど、逆に言えば中途半端。

 対するしまさんは、種族が『闇』で職業も『闇』、武器も装備も『無』ということで、吸血鬼としてはかなり基本に忠実だけど、『光』に対しては当然不利な立場なわけ。


 そして、こちらは知り合い全員から『種族詐欺』とも呼ばれた、光魔法系統最高峰の『聖女』をコンプリートしている……つまり、正面からのぶつかり合いなら、確実に力技で『闇』のしまさんを圧倒できる――筈だったんだけど。


 ボクの聖女(サント)スキル攻撃魔法『ホーリー・サークル』と、しまさんの魔導師(ウォーロック)系スキル『ダーク・ヘキサグラム』が衝突して、双方ともにその場から跳ね飛ばされた。


「な……っ!?」

 お互いのダメージ量を確認するため、『鑑定』でしまさんに焦点を当て、ステータスを観たボクの口から、知らず驚愕のうめきが漏れていた。

「なにその滅茶苦茶なステータスは?!」



 種族:吸血鬼(神祖)

 名前:(´・ω・`)

 称号:自乗自爆(じじょうじばく)

 HP:378,902,700/379,002,630

 MP:411,991,128/420,003,547

 ▼



 ちなみに現在、天涯と従魔合身中のボクのステータスがこれだよ。



 種族:吸血姫(神祖)

 名前:緋雪ひゆき

 称号:天嬢典雅(てんじょうてんが)

 HP:61,304,120/61,309,800

 MP:51,992,500/53,841,500

 ▼


 HPでおよそ6倍。MPだと8倍近い差があるじゃない!!


「従魔合身?! ――廃龍(ニドヘック)と? でも、さっき表で暴れてるのは見たし、せいぜいこの3分の1程度のステータスだったはず……?」

 混乱するボクに向かって、契約書に判子を押させることに成功した詐欺師みたいな笑みを浮かべる、しまさん。


「別に廃龍(ニドヘック)が1匹しかいないとは言ってないね。――だいたい変だと思わなかったのかな、私が6人しか聖堂騎士を手駒に連れてきていなかったのを。残りの6,000人はどこへ行ったのでしょうか?」

「まさか、いまそこに!?」

「正解~っ。私が現在、従魔合身中の廃龍(ニドヘック)2は、聖堂十字軍カテドラル・クルセイダーツ6,000人を材料としていまーす。いやいや、さすがは大陸最強騎士。吸血鬼化でステータスを底上げしたら、平均でHP5~6万、MP6~7万台行くんだもんなぁ。たいへん美味しゅうございました」

 そう言って、わざとらしく一礼するしまさん。


 まずい。この差は洒落にならない。いまの一撃でのボクのダメージが5,000くらい。対して相手のダメージは、見た感じ20,000~25,000ってところだろう。確かに属性的にボクの光魔法の方がダメージがかなり高いけど、最大に見積もっても……15,000発以上当てればHPを削り切れない計算だ。

 そしてなにより、奥の手として温存してある、影郎さんから渡された『封印の十字架』――実験の結果、MPが相手を上回らないと完全封印ができないのがわかっている――これが現状では使えないということだ。


『姫、現在廃龍(ニドヘック)の対応に当たっている者どもを、至急この場に集結させます』

『それは駄目。廃龍(ニドヘック)対応を疎かにしたら、後背を衝かれる恐れが高い。現状のまま、削れるだけ削って! 弱いほうを先に斃すのはセオリーだよ』

 天涯の進言に内心首を横に振る。

『しかし……』

『大丈夫。数値の高さに目が眩んで判断を誤りかけたけど、考えてみればHP差10倍程度どうってことはないよ』


 そう、考えてみればボス戦はいつもその程度が普通だったんだよね。

 だったらやり方はいつもと同じ。

刻耀(こくよう)――っ!」

 ボクの呼び掛けに応えて、真下の影の中から全身に漆黒の鎧冑を着込んで、右手には同じく暗黒の馬上槍、左手には1.5mの大盾(パヴィス)を握った暗黒騎士・刻耀が躍り出ると同時に、しまさんに向かって、無言のまま砲弾のように駆けて行った。


「ダーク・インパルス」

 しまさんの構えた蛇腹剣(ガリアンソード)の先から、暗黒色の雷が飛ぶけれど、まるでシャワーでも浴びてるような涼しい顔で、一気に差を詰める。

「ぬっ――」

 さすがに危機感を覚えたらしい、しまさんの蛇腹剣(ガリアンソード)が連結を解いて、鞭のようにしなりながら刻耀を拘束しようと襲い掛かるけれど、それを前方に突き立てた暗黒槍を回転させ――スキル『サイクロン・インパクト』――一撃で、バラバラに砕いてしまった。


 そのまま、顔を引き攣らせるしまさんへ、余勢を駆ってスキルを叩き付ける。

「のわっ!?」

 ギリギリ躱したしまさんだけど、先読みしていた刻耀の大盾(パヴィス)が、その身体を弾き飛ばす。

 ガン!というおよそ人体を叩いたとは思えない破砕音とともに、しまさんの身体が再度壁を粉砕して廊下へと、押し戻され、そのままタイヤのように転がった。


「あいたたた……さすがにアウェー、なかなか手強い……」

 髪や身体についた埃を掃いながら、しまさんが起き上がった。

 とは言え、まだまだパーセント程度のダメージしか与えていないし、余裕綽綽といった感じだ。


 ボクを守る形で盾を構えた刻耀の脇を掻い潜る形で、ボクは『薔薇の罪人(ジル・ド・レエ)』を構えて、武器がなくなったしまさんへと、一気に距離を詰めた。

 一瞬、防御するか攻撃するか逡巡した、しまさんの手から暗黒の渦巻が放たれる。

「ダークソウルイーター」

 指定した対象を中心に『闇』属性の魔法攻撃を行う範囲攻撃。さらに攻撃時にはHP・MPを吸収する効果がある。なるほど、両方を狙ったか。


「ゴッドブレス」

「陰陽八卦封陣」

 だけどそれがこちらに届く前に、ボクの身体に「光」属性のレジスト系スキル(物理、魔法攻撃力、防御力上昇、HP、MP常時増加効果)の補助魔法(バフ)が掛かり、反対にしまさんの攻撃に対する対魔法用全属性防御結界が張られた。


 防御結界に阻まれ、大半の威力を殺された魔法攻撃がHPを削るも、即座にゴッドブレスの効果で回復。

 HP、MPともほとんど無傷の状態で、ボクは剣線を躱そうとしたしまさんの正中線のど真ん中へ、剣聖技『絶唱鳴翼刃』を叩き込んだ。

「はあああああ――――――っ!!」

 眩いオーラを放つ剣先が鈍い手応えとともに人体を貫通し、さらに内部に震動波を放出する。

「ぐは――っ!」

 ガガガァン!という炸裂音が轟き、全身から沸騰した血液を流しながら、しまさんが遥か後方へと跳ね飛ばされた。


「………」

 無言のまま、しまさんの次の行動を警戒して、『薔薇の罪人(ジル・ド・レエ)』を構える。

 かなりのダメージを与えた感触はあったけれど、転がるしませんのHPを見る限り、勝敗を決するほどの量ではない。


「……参った参った…緋雪ちゃんも強いわ。これでも『E・H・O』エターナル・ホライゾン・オンラインのPV戦№2なんだけどね」

 収納スペース(インベントリ)から取り出した、魔術師用Lv99専用装備の長杖(ロッド)死を記憶せよ(メメントー・モリ )』にすがるようにして立ち上がる、しまさん。


「血塗れで気持ち悪いな~」

 飄々とした姿勢を崩さないまま、一瞬彼の全身の装備が光ったかと思うと、真新しい黒の燕尾服にシルクハットスタイルへと変貌していた。

 収納スペース(インベントリ)から、直接指定した装備を交換するゲーム時代からあった仕様で、ボクも基本的に戦闘時は、この早着替えを良く使っている。


「随分と余裕ですこと」

「どうせまた汚れるので無駄なことであろうに」

 口々に憎まれ口を叩きながら、反対側の廊下から、いまの補助魔法(バフ)と防御結界を施してくれた相手――完全戦闘装備の命都(みこと)と、衣装こそ普段の巫女装備ながら、9本の尻尾をすべて広げた戦闘態勢の空穂(うつほ)とが、悠然とした足取りでやって来た。


『空穂、貴様全体の指揮はどうした?』

 不機嫌そうな天涯の声に、軽く笑みを浮かべた空穂が、余裕の表情で返す。

斑鳩(いかるが)に任せたわ。あやつは今回、廃龍(ニドヘック)相手にできんからのぅ。手が空いたところでちょうど良いであろう? 適材適所というものであるな」


 喋りながら、いつの間にかボクを中心に正三角形を組む形で、刻耀が前に立ち、後方に命都と空穂が付いた。

『……姫、私めも戦列の一端に加わっても、よろしいでしょうか?』

 攻撃に出られないことに苛立ってだろう、天涯も従魔合身を解いて、前線に出ることを要望してきた――けど、いま素に戻ったら洒落抜きでボク死ぬと思いますけど?


「天涯、お主はそのまま姫様をお守りせい。だいたい、城内でお主の図体では邪魔でしかたがないわい。四凶天王の筆頭らしく、鷹揚に構えておけばよいことじゃ」

 そんな天涯を空穂が窘めた。


「そうですね。相手は闇属性、ならば私と刻耀殿が戦力として有効でしょう。天涯様はその場で姫様をお守りするのが、この場合適切かと存じます」

 命都からも宥められ、『………』しぶしぶ納得する天涯。


「さて、なにはともあれ四凶天王揃い踏みである。覚悟は良いか、そこなウツケよ。降参するならいまのうちじゃぞ?」

 空穂の最後通牒に、『死を記憶せよ(メメントー・モリ )』を構えたしまさんが苦笑いした。

「『四凶天王』とか、緋雪ちゃんも中二病まだ完治してないっぽいね~」


 ほっとけ! てゆーか、別にボクが付けたわけじゃないし!

12/20 表現及び誤字脱字の修正を行いました。


×まだまだパーセントのダメージ→まだまだパーセント程度のダメージ


×しまさんの次の行動を経過して→しまさんの次の行動を警戒して



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