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紗奈の場合

「俺、お前のこと嫌いだな」


 中学三年の時に隣のクラスの前田君から言われた。


「しょっちゅういろんな男と付き合ってさ。そのくせ長続きしないってどうなんだよ。だったら最初から付き合わなきゃいいじゃねえか」


 当時の私はいろんな男子生徒から告白されて、二股にならなければ付き合いを了承していた。

 最初は「よくわからないから」と言って断っていたんだけど、「じゃあ友達からでいいから」なんて言って引き下がらないんだよね。

 何を言ってもあきらめてくれないから、面倒になって受けるようになった。


 ……でも、そんな関係が上手くいくわけもなくて。私は相手のことをそこまで好きになれないのに、どんどん要求してくることが増えていった。

 まだ中学生なのに、キスされそうになるどころか服を脱がされそうになって、とても怖いから必死で逃げた。

 その男子は私が平気でそういうことする子なんだって噂を流して、さすがに信じる人はいなかったけど。

 先生から親まで呼び出されて話を聞かれたときには、宏子と真由美が本気で怒ってくれた。


 その後も告白してくる男子はいて、なんだか怖いから断りきれなくて付き合い始める日が続いていた。

 傍から見ていれば、そこまで問題があるようには見えなかったらしく、私を押し倒した男子以外には宏子たちも何も言わなかった。

 他の女子だって別に何も言ってこなかったんだよね。後から知ったんだけど、付き合うサイクルが短いから誰が私と付き合っていたかは知っている人があんまりいなかったみたい。


 ……それでも、前田君の言葉は私の心に刺さった。


 だって、自分でも嫌だったんだもの。

 断っても聞いてくれなくて、私の気持ちを考えてくれない男子たちも。付き合いたくなんてないのに、断りきれない自分も。


 それからほどなくして、付き合っていた人と別れた。

 今までは相手が飽きるまで我慢していたけれど、自分から別れを告げた。


「ごめんなさい。私はあなたと付き合えません」


 また何かごねられるんじゃないかと怯えながら、勇気を振り絞った。


「そっか……僕のほうこそごめんね。無理を言って付き合ってもらって」


 意外にも怒ることなくあっさりと別れてもらえた。

 今まで怖がっていたのは何だったのだろうと思うぐらいだったが、これにも最初のころに付き合っていた男子が「紗奈は断らないタイプ」だと触れ回っていたことが原因だった。

 それからは、告白されても流されないようにきっぱりと断り、段々と告白してくる男子の数は減っていった。


 私の視線は自然と前田君を追うようになっていた。

 体育などの合同授業や、清掃の時間にはついついその姿を探してしまう。

 友達と笑っている時の顔にドキドキしたり、視線が合うとこちらから逸らせなくて見つめ合ってしまったり。

 どうしたらいいのかわからなくて、悩む日が続いていた。


 ある日、また告白された。


「私、よくわからない人と付き合えません……」そういって断ったけれど、その時言われた言葉が私の心を決めた。

「よく知っているとは言えないけど、これから知っていきたい気持ちはあるんだ。それが嫌じゃなければ付き合ってほしい」


 目からうろこが落ちた気分だった。


 知っている人だから付き合うのではなくて、知りたい人だから付き合うんだということ。

 いつもその姿を探してしまう前田君のことを私は知りたい。

 放課後になって、帰宅しようとする前田君を呼び止めた。人気のない校舎裏に移動して、思いのたけをぶつける。


「わ、私、前田君のことをこれから知りたいの。お願い、付き合ってください」


 ……言った。言ってしまった。はたして彼はどういう反応をするのだろう。

 嫌いな人間から告白されたのだ。さぞかしいやな気分になっているかと思うと、涙が出そうになる。


「俺も……、お前のことを知りたい」


 静かな声が聞こえて、俯いていた顔を上げた。

 そこには、照れくさそうな顔でこちらを見つめる前田君がいる。

 二人そろって赤い顔をしながら、私たちは付き合い始めた。


******


「わあ、青春だねえ」

「そういや、前田は転校したんだよな。運動会が終わったくらいだったか?」


 それで自然消滅になっちゃったの? とは聞きにくい二人である。


「んふふー。別れてなんかないもんねー」


 じゃーん、と言いながら左手をかざす紗那。その薬指には指輪が輝いている。


「あ、海外で結婚式挙げたんだっけ。うちら出席できなくてごめんねー」

「ご祝儀だけは贈らせてもらったんだけどね。さすがに行くのは無理だった」


 現在の居住は海外となっている友人が帰国するということで集まった本日の食事会だったが、はて、新しい姓は前田ではなかったぞ?


「前田君はねー、あ、今は萩原君はねー、両親が離婚することになって海外に行っちゃったの。ずーっと手紙とメールでやりとりしてて、お互いに英語の勉強するぞーって英文で手紙を書いたりして。大学卒業してから私が向こうに就職できたから、結婚したの」


 満面の笑顔で語る紗奈はとても幸せそうで、宏子も真由美も安心した。


「完璧です」

「うん、紛うことなき青春だな」


 100点! と口をそろえる二人に「どーもどーも!」と返す紗那である。


「いよいよ最後ね」

「果たして何点が出るのか?」

「うん、コマーシャルの後だ」


 正確には、トイレの後である。


これぞ王道! ちなみに前田君の「嫌い」発言は好きな気持ちの裏返しでした。

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