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プロローグ、宏子の場合

三十代の女が三人、食べて飲んで語っている話です。

ロマンス要素はありません。タイトルにだまされた方はごめんなさい。

「いやあ、ひさしぶりー」

「本当だねー、元気だった―?」

「積もる話の前に注文しないと。うちらが話し出したら止まんないから」


 にぎわう小料理屋の店内で、三十台と思しき女性が三人、席についている。

 手早く食事と酒を注文して、交わす会話は近況報告に始まり、学生時代の思い出へと移っていった。

 小学校から高校までを同じ学び舎で過ごした彼女たちは、思い出話もたくさんある。

 そのうち、宏子が「そうだ、いいこと思いついた」と手をたたいた。


「いいこと?」と真由美。

「どんなことなの?」と紗奈。

「あのねえ、あたしたちもいい歳になったしさあ、今だから話せることってあるじゃない? それでさあ、それぞれの初恋について語るってどうよ?」


 酔いが回っているのか、少しろれつの怪しい口調で提案する宏子。やはり酔いが回った状態の二人は乗ることにした。


「あー、いいじゃないのー? たしかに今ぐらいにならなきゃ話せないかもねー」

「さーんせーい。じゃあ、三人の初恋話をはじめましょー」

 言い出しっぺの宏子が最初に話すことになった。


 ******


 あたしの初恋って小学五年生の時だったんだよね。


 昔から太ってたあたしは男子たちにからかわれてて、はっきりいって男ギライだったわけよ。

 みーんなあたしをからかってくるんだもの、好きになるとかありえないって思ってたわ。

 その日も盛大にからかわれて嫌になりながら家に帰ったの。宿題とかは親が怒るからさっさとやって、部屋でごろごろしてたのよ。

 そうしたら、なーんか胸の奥がもやもやして、クラスメイトの永山君の顔が浮かんできたのよ。

 あれっ? 今日は別に永山君と話したりとかしてないよね? からかってくるときに毎回参加するやつとそうじゃないやつがいるけど、今日は永山君は不参加だったし。

 その後も、どうしてか彼の顔が頭の中から離れてくれなくて、だんだん暑くなってきて変な感じだった。


 お風呂に入るときとかもうすごくて。誰も見てないのに、頭の中でずっと男子の顔が浮かぶものだから服を脱ぐのも恥ずかしかったのよ。

 それでぐるぐるしたまま布団に入って、でも寝付けないのよ。目をつぶると顔が浮かぶから、目を開けたままで。


 それで、唐突に気付いたのよ。

「あ、あたし永山君のことが好きなんだ」って。

 いつ眠ったのか記憶にないんだけど、気が付いたら朝になっていて、そういえば昨日は好きな人ができたんだっけーと考えたところでまたまた気付いたんだよね。


「あれ、もう好きじゃなくなってる……」


 なんで? どうして!? たしかに昨日は好きなんだーって思って、それでドキドキしてたはずなのに、なんで朝になったらその気持ちが消えてるのよ?

 変な話だけど、その日学校に行って永山君を見ても何とも感じなかったし、でもあれは絶対にあたしの初恋だって断言するわ。

 あれから好きな人ができたりしたけど、同じ状態になるんだもの。

 ぐるぐるして、ふわふわして、落ち着かないの。

 一日で終わったけれど、たしかに恋だったのよ。


 ******


「なんだ、その話は」

「35点。一日どころか半日もないじゃないの。そんなインスタントな感情が初恋だなんて許されると思ってるの?」


 語り終えた宏子に対して二人の反応はツンドラだった。


「ひどい! あたしの人生初の甘酸っぱい思い出にケチつけるなんて!」

「それは甘酸っぱくないだろう」

「どちらかというと苦いわよ。意味わからないという点で」

「あんたら悪魔よおおお!」


 さめざめと泣きくれる宏子を置き去りにして追加注文するべくメニューを広げる。


「さーて、アルコールをチャージして次の恋バナ行きますか」

「あ、じゃあ次私の番ねー」

「紗奈ってば中学時代から付き合ってる人いたよね。初恋ってやっぱそのくらい?」


 復活した宏子がすかさず注文に食らいつく。


「立ち直り早いなあ」

「まあそこが宏子のいいところよね。酒が来たら話しますか」


限りなく実話に近い初恋話? こんなこと青春の現役時代にはとても話せないよねーってことで。

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