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殺戮機械が思い出に浸るとき 95

 遼南中興の祖ラスバ暗殺を仕掛けるほどの野心家で知られた重基だが、その後の国内情勢がさらなる拡大戦争を欲求し始めた段階で政界を去り、その潮流に乗って民衆を煽り立てる新進政治家達への苦言を呟く日々を綴っていた。しかしコロニー国家として成立し、コロニー建設者である領邦領主に絶大な権限が与えられる胡州において、摂州・泉州二州を領する四大公家筆頭の当主の嫌みは常に公的な側面を持つものだった。


 日々、自称憂国の士が懐に短刀を携えて来訪しては警備の警官に逮捕される日々。嵯峨の兄で次期当主として外務官僚をしていた義基も孤立主義に走るゲルパルトと共に反地球同盟を結成した政府を皮肉る父の発言をきっかけとして出勤停止の処分を受けて謹慎の身の上にあった。そんな中、当時は西園寺新三郎と名乗っていた嵯峨は何も知らずに意気揚々と新妻を連れて東都へと旅だった。


 東都での彼の任務は東和の胡州・ゲルパルト陣営への引き込みの可能性の調査というものだった。絶対中立主義の東和にそんな可能性が無い事は分かり切っている無駄な仕事。彼は大使館に出勤するのはそこそこに趣味の剣術や書画骨董の蒐集に明け暮れ、エリーゼもまた自由で闊達な東和の雰囲気を楽しんでいた。


 やがて双子の娘、茜と楓が生まれ、西園寺家預かりとなっていた絶家となった四大公家の一つ嵯峨家を再興して惟基と名乗り変えた頃、時代は大きく動き始めた。


 胡州陣営はさらに嵯峨の仇敵とも言える父、バスバ帝を説得して遼南を自陣営に加えるとそのまま地球諸国に戦線を布告、第二次遼州大戦が始まる。東和の中立を変えられなかった責。元から不可能だったとはいえ、陸軍省本庁の椅子は完全に遠いものとなるには十分な出来事だった。開戦記念とも言える昇進で外務中尉から憲兵大尉に配置換えをされた嵯峨はそのまま自国の治安を維持することもままならない遼南へと転属になった。


 エリーゼと娘二人はそのまま東都から民間機で胡州、帝都の四条畷港へと帰路を取った。地球、特に遼州での多くの利権を握るアメリカとの対立を避けようと東和は不要不急の胡州、ゲルパルト、遼南の軍人軍属とその家族の帰国を勧告していたので混雑する中、被官も連れずに三人は雑踏の中の四条畷港のターミナルを徘徊していた。そこに現われた片足義足の老人。西園寺重基の姿を見て手を振ったエリーゼの隣にあった鉢植えのゴムの木が遠隔操作の爆弾で爆発した。


 とっさに娘をかばったエリーゼは全身に爆弾の破片を受け、ほぼ即死という有様だった。重基はただ額にかすり傷を負った程度だったが、次男義基の娘である要が全身の九割を失うテロで右足を失い、今度は三男の嫁を自分を狙ったテロで失ったショックでそのまま死の床につくことになった。


「なあに……俺だって遼南の公安憲兵時代はレジスタンスの幹部をあぶり出すのに同じ手を使ったからな……意志が強いと自負している連中はいくら本人を追い詰めても無駄なもんだよ。そういうときは周りから攻める……お前さんの性格は俺は熟知しているつもりだからね」 


『恐縮です』 


 照れ笑いを浮かべるシンに嵯峨はただ乾いた笑みを浮かべていた。


『それじゃあ無駄話もなんですから……それと吉田少佐に世話になったとお伝えください』 


「俺も言いたいんだけどさ……今回の首脳説得の段階での民間ネットワークのダウンはタイミングがベストだったからな……と言っても本人が追われる身じゃあ礼も言えないか」 


 とぼけたような嵯峨の言葉に軽く敬礼するとシンはそのままいつものように唐突に通信を切った。


「さてと……まあ俺も近いうちに公安に出頭するか……あちらが出向いてくるか……」


 独り言を言いながらそのまま隊長の椅子に身を投げる嵯峨。上着代わりに羽織っているどてらの中のネクタイを持ち上げる。もうすでに二週間アパートには帰っていない。


「あと四日か……汚れてるなあ……」 


 そう言いながら静かにネクタイをどてらの中に滑り込ませると静かに目をつぶった。


「いい加減……のぞき見は止めてくれないかな」 


 人の気配のない隊長室に響く珍しく張りのある嵯峨の声。それに反応するかのように先ほど消えた隊長用の通信端末のモニターに電源が入った。




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