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殺戮機械が思い出に浸るとき 92

「ショックならショックでいいじゃないか。心配なら私達に何か言えばいい……」 


 緑色の髪を崖を吹き上げてくる風になびかせながらそっとカウラはその手をシャムの頬に寄せた。シャムは静かに俯く。ただ強い風だけが舞っていた。


「ショックというか……俊平が居なくなってからなんだか思い出しそうなことがあって……それでそれを思い出すとなんだか悪いことが起きそうで……」 


「鉄火場の思い出か……確かにあれは悪夢だな」 


 うんざりした表情の要がタバコを咥えながら呟いた。静かにそのままジッポで火を付けようとするが強い風に煽られてなかなか火が付く様子がない。それでもいつもなら苛立って叫ぶ要も落ち着いた様子で静かに試行錯誤を繰り広げている。


「そんな最近の話じゃ無いんだ……俊平と会う前……それ以前に明華や隊長と出会う前……ううん。もっと前だよ、オトウやグンダリと出会う前……うわ! 頭がウニになる! 」 


 頭を抱えて俯くシャム。カウラは何も出来ずにただシャムの隣で立ち尽くしている。


「ナンバルゲニアの名前を継ぐ前か……遼南第一王朝壊滅以前ねえ……それこそ吉田や叔父貴に聞くしかないな」 


 ようやくタバコに火を付けることが出来た要のつぶやきに誠はただしばらく黙り込んで思いを巡らせていた。


 ムジャンタ・カオラに始まった遼南王朝は廃帝ハドの乱行などの混乱はあったもののその血脈は三百年あまりにわたって延々と続くことになった。有力諸侯や藩鎮達が外戚としてのさばり、傀儡に過ぎない皇帝ばかりが続いたとはいえ、王朝が揺らぐことは彼等にも損害をもたらすことになり、また東和や胡州、遼北、西モスレムなどの近隣諸国も大国の崩壊に伴う難民の流出を恐れて形ばかりの王朝は長々と続くことになった。


 そんな王朝に現われた寡婦帝ムジャンタ・ラスバ。兼州侯カグラーヌバが送り込んだ操り人形の二人の子持ちの女帝は諸侯達の思惑を超えて傾いた遼南を再建し始めていった。太祖カオラの作った遼南人の海外コネクションを再生し、細心かつ大胆な外交施策は遼州のお荷物と呼ばれた遼南を確かに再生させていった。


 さらに彼女が帝位に就く前に古代遼州文明の研究者であったことが遼南の再建へと導く力となった。鉄器さえも封印した遼州文明がかつては遺伝子工学や素材加工技術、反物質エンジン搭載の戦闘兵器や宇宙戦艦を建造していたことは誠も教科書で習った程度には知っていた。その技術の研究者であるラスバは多くの先遼南文明の再生に取り組み、独自の技術をそこから得て海外に売りつけて王朝の財源として次第に朝廷の力はそれまでぶら下がってきた諸侯達を圧倒し始めていった。


 ただしそのような独断的な政策が有力諸侯や軍部、他国に歓迎されるはずもなかった。母に暗愚と烙印を押されて東宮を廃されたムジャンタ・ムスガは次期皇帝と決められた息子のラスコーを追い落とすべく、野心家である近衛軍司令官ガルシア・ゴンザレス大佐と結託。彼等の動向に注視していた胡州宰相西園寺重基は彼等の協力を取り付けて東モスレムのイスラム教徒暴動鎮圧部隊の視察をしていたラスバ爆殺した。静養中の北兼御所にあったラスコーだが、近衛軍が央都を制圧したために静養中の北兼御所を動くことが出来ず、央都のムスガと北兼のラスコーという二人の皇帝が並立する事態へと発展した。


 有能に過ぎる皇帝を失った遼南の没落はあっけないものだった。東海の花山院、南都のブルゴーニュなどの有力諸侯は胡州の工作を受けてあっさり央都側に寝返った。頼りの北天軍閥は遼州北部の利権を狙った遼北の侵攻によりあっさりと崩壊。ラスバ崩御から四年後、北兼御所を捨ててカグラーヌバ一族が守る兼南基地に籠城した遼南朝廷軍は央都軍の圧倒的な物量の前に全滅。ただラスコー一人は家臣の必死の抵抗で難を逃れて東和へと亡命を余儀なくされこれを持って遼南第一王朝は滅亡することになる。


 そんな遼南王朝滅亡の際に、シャムは記憶を失って森をさまよっていた彼女を拾った義父ナンバルゲニア・アサドは帝国騎士団に所属していた経歴があったため、彼女の村は央都軍の襲撃を受け、彼女以外は老若男女問わず皆殺しにされたと言う話を誠も耳にしていた。




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