殺戮機械が思い出に浸るとき 87
「菰田の奴……うまくやってくれてるかねえ……」
「何してるの? 」
それとなく振り返るアイシャの目に革ジャンの下のホルスターから愛用の拳銃XD40を取り出す要の姿があった。
「あれだ、相手は猛獣だからな……40S&Wじゃ力不足かねえ……カウラ! 後ろのトランクにショットガン積んであったろ! 」
「お前は何がしたいんだ……あれは下ろした。クバルカ実働隊長からの指示だ」
苦笑いとともに答えるカウラに要が渋い表情をする。その姿があまりに滑稽に見えた誠が吹き出しそうになるが、要の一睨みでそのままおずおずと視線を外に向けた。
車の速度は制限速度に落ちていた。それもそのはず、急激なクランクが次々と行く手に現われ、制限速度でも十分後輪は横滑りをするほどの状況だった。
「カウラちゃん……要ちゃんじゃないんだからもっと穏やかに行きましょうよ」
「私は穏やかに運転しているつもりだ。ちゃんとメーターを見ろ。制限速度は守っているだろ? 」
「確かにそうなんだけどねえ……もう、私の周りはどうしてこう言う面々ばかりなのかしら……誠ちゃんの苦労も分かるわ」
「オメエが一番苦労させているように見えるがねえ……」
自分をなだめすかすように愚痴るアイシャに一言入れると要の表情が厳しくなった。
「おい、レンタカーが一台……この先一キロだ。連絡があった西字天神下に停まってやがる……あの馬鹿! 見つかりやがった! 」
おそらく自動車のGPSシステムに介入しているからだろう。瞬時にそう言った要にさすがのアイシャの表情も硬くなった。
「レンタカー……ハイカーさんかなにかだとやっかいだわね」
そのままアイシャは親指の爪を噛みながら続くカーブの先を睨み付けている。誠は部隊配属直後の事件が頭をよぎった。
「あのー……法術反応をたどってどこかの組織が動いているとか……」
心配そうな顔の誠を瞬間あきれ果てたと言う顔で要が見つめる。そして彼女は大きくため息をついた後軽く誠の左肩に手を置いた。
「あのなあ……どこの世界にレンタカーで巨大な熊の護衛付きの法術師を拉致しようって馬鹿がいるんだ? それもこの業界じゃあ使い手で知られた遼南帝国青銅騎士団団長のナンバルゲニア・シャムラード中尉だぞ? 」
「でも暴力団とかの素人連中に実行を依頼しているとか……」
あまりにも屈辱的だったのでムキになって叫ぶ誠に今度は同じように呆れた顔のアイシャが助手席から顔を覗かせる。
「そんな時間があったと思う? 私達だってさっきまで知らなかった話じゃないの」
自分の珍しくした意思表示を完膚無きまでに叩きつぶされてぐんにゃりと俯く誠。カウラはバックミラー越しにその様子を見ながらさすがに同情を感じているのか苦笑を浮かべている。




