殺戮機械が思い出に浸るとき 84
「おいおい、飛ばすなよ……」
勢いに任せて後輪を振り回すようにハンドルを切るカウラに思わず重い義体を誠にぶつけてよろけながら要が呟く。
「カウラちゃんは仲間思いだからねえ」
狭い路地をかっ飛ばす様に若干はらはらした表情を浮かべながらなだめるように話すアイシャの言葉にそれまで無表情だったカウラの口元が緩んだ。
「我々戦うために作られた人間の数少ない美徳が仲間を思う気持ちだ……これは私も少しは自信がある」
「いい言葉だねえ……仲間を思いやるか。アタシはアイツが連れてるデカ物がどんな騒動を起こしてアタシ等に迷惑かけるかしか考えてなかったけどねえ」
「要ちゃんも……素直じゃないんだから」
思わず振り向いて誠にウィンクするアイシャ。
カウラはそのまま車を大通りに飛び出させる。強引な割り込み。誠もこんなに荒い運転をするカウラは初めてだった。そのまま制限速度を軽く超えて郊外に向けてスポーツカーはひた走る。
「この前の件で警邏の巡回時間を聞いといて正解だねえ……これなら一発免停間違い無しだぜ」
苦虫をかみつぶした表情の要だが言葉の色は痛快極まりないと言う時のそれだった。誠はただ呆然としながらあっという間に街の半分を通過したことを知らせる市立商業の校舎を見つめていた。
「あの馬鹿のことだ……きっと見晴らしのきく高いところにいるぜ……馬鹿と煙はなんとやら……上から見えるってことは当然したからも見えるわけだ」
「今の時期なら農作業とかは無いかも知れないけど……あまり放置しているとまずいのは確かね」
要の言葉にアイシャはジャンバーのポケットから携帯端末を取り出す。要が目をつぶっているのは脳を直接ネットとリンクさせているから。誠は何も出来ずに通り過ぎていく景色を眺めるだけ。
『本部から各移動! 本部から各移動! 』
「いつから本部になったんだ! キモオタ! 」
軽快に台詞を決めてみたらしい菰田の通信に要が叫びを上げる。思わずアイシャと誠は顔を見合わせて苦笑いを浮かべた。
「何か掴んだのか? 」
運転しながらのカウラの言葉にアイシャの端末の中で冷や汗を浮かべている菰田がようやく立ち直って口元を引き締めて台詞を吐き出し始めた。
『ええ……まあ飯岡村の都道123号線の西字天神下を通過したドライバーから駐在所に何か大きな動物が尾根を歩いていたって言う通報がありまして……』
「尾根を散歩だ? あの馬鹿! 何考えてんだ? 菰田、駐在が出るのにどれだけかかる? 」
要の渋い表情に今度は菰田が満面の笑みを浮かべた。
『備品管理の村田がちょうどあそこの出身で、今日は実家にいるもんですから……』
「何でも良い! 適当なことを言って駐在を部落から出すな! 良いか? 一歩も出すなよ! 出したら……」
血相を変える要にすぐに菰田の自信はしぼんで跡形もなくなる。
『分かりました! なんとか足止めします……だから宜しく頼みますよ! 』
やけになったような叫び声と共に菰田は通信を切った。