殺戮機械が思い出に浸るとき 83
「カウラちゃんの車で行くわよ……それにしても要ちゃんは車をあげちゃって……本当にお嬢様は先々を読めないんだから」
冷ややかな視線を要に向けるアイシャに要は鋭い視線を向ける。
「五月蠅えなあ……アタシはバイクが好きなの。あんな手間が掛かる四輪なんて乗れるか! それにいろいろつきあいもあるんだから……」
ごちゃごちゃ理屈を呟く要を無視してカウラはそのまま玄関で靴を履き替える。慌てて要も下駄箱の隣にあるロングブーツに手を伸ばした。
「それにしても……誠ちゃん。なんでそんな針葉樹なんて」
「あれです。シュペルター中尉が教えてくれたんですよ。彼は部隊員のメンタルまで気を使ってくれていますから」
誠の言葉に靴を履き替えていたカウラと要が顔を見合わせた。
「アイツが役に立つこともあるんだな……」
「伊達に太っていないな」
「酷いじゃないですか! あの人だって隊員でしょ! 」
「別に神前が怒ることじゃねえだろ? 行くぞ」
要は自分だけブーツを素早く履くとそのまま立ち上がる。
「それにしても意外ね……シャムちゃん。あれだけ信じてるって言ってたのに」
「それぞれ不安や思うところがあるんだろうな」
静かに立ち上がりささやきあうアイシャとカウラ。誠はそれを見ながらそのまま外に飛び出していった要の後を追った。道路はすでに頂点を通り過ぎた春の太陽の下、ぽかぽかとした空気に満たされていた。誠はその中を隣の駐車場に向けて歩く。
すでに赤いカウラのスポーツカーの隣には革ジャンを着た要がいらだたしげに頬を引きつらせながら誠達を睨み付けていた。
「おい! あの馬鹿が人様に見つかる前に連れ戻すぞ! 」
要の叫び声に誠は首をひねった。
「でもこの車にはグレゴリウスは乗りませんよ? 」
誠の言葉に要は大きくため息をつく。
「あいつも空間転移で移動したんだ。帰るのもそれで行けば良いじゃねえか! ほら! ちんたらするんじゃねえ! 」
入り口付近で苦笑いを浮かべているカウラとアイシャを呼びつける要。カウラは仕方なくドアの鍵を解除した。
「ほら、乗れ」
誠を無造作に車に押し込む要。強力な軍用義体の腕力の前には大柄な誠も何も出来ずに狭いスポーツカーの後部座席に体を折り曲げるようにして押し込まれる。
「ご愁傷様ね、誠ちゃん。でも急いだ方が良いのは確かね」
助手席に乗り込んだアイシャの表情が厳しくなる。カウラは運転席に乗り込むとすぐにエンジンを始動、車を急発進させて砂利の敷き詰められた駐車場から車を出した。