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殺戮機械が思い出に浸るとき 82

「なんですか……写真? 」 


 ヨハンの手に握られていたのは古風なアルバムだった。革製の茶色い装丁の厚めのアルバムをヨハンは丁寧に机の上に置くと誠に向けて開く。


「法術と言うのはどうしても心理的な影響を受けやすい力だからね……精神の源泉とでも言うべき故郷の風景。それにちょっと関心があってね」 


 そこには山の光景が写っている。木々は明らかに誠の見たことがないような濃い緑色の針葉樹林。


「遼南の高山地帯の風景ですか? 」 


 シャムの出身地だという山々を思いながらの誠の言葉にヨハンは静かに頷いた。


「あのちびさんの出身地はどこもこう言う針葉樹林の森なんだ。しかも数百メートル標高が上がれば木々も次第に小さくなり、千メートルも登ればもう森林限界だ」 


 ヨハンがめくる写真に写る植物を見て次第に誠はヨハンの言おうとしていることの意味が分かった。


「ここら辺りの森はほとんどが落葉樹の森ですよね……そこにはナンバルゲニア中尉はいない……となると植生図を調べて一番近くの針葉樹の森を捜せば……」 


「まあ一番手っ取り早い方法はそれかな。まああのちっこいのはあまり休みを取らないから北国まで足を伸ばす必要も無いだろうし……まあ調べてみる価値はあるな」 


 ゆっくりとしたヨハンの言葉が終わるのを待たずにそのまま誠は部屋を飛び出した。階段を駆け下り、食堂前にたむろする寮の住人達を押しのけながら厳しい視線で周りを見回すアイシャの前に躍り出た。


「何してたのよ……これから手分けして……」 


「それより場所を絞り込む方法が分かったんです! 」 


 誠の言葉にアイシャが首をひねる。食堂の奥に据え付けられようとしている端末を調整していたカウラと菰田も珍しそうに確信ありげな誠を見つめていた。


「あの人の故郷に近い場所ですよ! 」 


「なに? 西の戸川半島にでもいるの? 」 


「違います! 針葉樹の森です。あの人の故郷は針葉樹の森が深い場所ですから。この付近で杉とかを大規模に植えている場所にあの人は居ます! 」 


 一気にたたみ掛けた誠の言葉にアイシャはいぶかしげな視線を向けるだけだった。


「いや、試してみる価値はあるな」 


 端末の調整を菰田に押しつけてカウラは立ち上がるとポケットから車の鍵を取り出す。


「カウラちゃんまで……まあこの人数なら豊川中の森を探せるでしょうから。まあ私とカウラちゃんと誠ちゃんは……」 


 アイシャはそのまま視線を端末を起動させたばかりの菰田に向けた。


「ちょっと待ってくださいね……針葉樹ですか……飯岡村の辺りが地図の記号では針葉樹が多いですよ」 


「それだわ……じゃあ後は菰田君が仕切ってちょうだい」 


 それだけ言うとアイシャはそのまま先頭に立って歩き出す。誠とカウラは少しばかり呆れながらその後に続いた。




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