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殺戮機械が思い出に浸るとき 80

「でも師匠だから……それで心当たりは? 」 


 小夏の言葉にアイシャは携帯端末を取り出す。


「あれだけの熊を連れていたらニュースになるか……ただニュースになるようじゃ困るんだがな」 


 苦笑いのカウラ。その落ち着いた様子に誠は思わず顔を向けた。


「グリンは臆病だからな。だがそれだけに心配だ。兵隊でもそうだが落ち着きのない臆病な奴ほど手に負えないものは無いからな。本当に何をするか分からない……」 


「駄目ね。まるで手がかりは無し! 」 


 カウラの言葉が終わるのを待っていたかのようにアイシャが天を見上げる。


「誰にも見られていない場所ですか……あの人は狩りをしますよね。その場所とか……」 


 そんな誠の思いつきにアイシャとカウラは顔を見合わせたがすぐに諦めたと言うように首を振る。


「師匠は狩り場を誰にも教えませんから……まあイノシシの被害が出ているところは決まってますから場所の限定は出来るでしょうが……」 


 小夏が呟くと誠もその広大な農地と雑木林を想像して呆然とした。豊川市の西には広大な山々が連なっている。その山々のどこかに潜む熊と少女を見つけるのも十分に骨が折れる話だった。


 だがそんな決断のつかない誠に苛立ったように素早くアイシャが立ち上がる。


「ぐだぐだ話していても始まらないわね……小夏ちゃんは島田君に連絡を入れて。急ぎでない仕事をしている技術部員と楓ちゃんに捜索を頼むわ。それと誠ちゃん……」 


「はい? 」 


 誠の間抜けな返事にアイシャは大きくため息をついた。


「今、寮にいる面子を集めてちょうだい。方策を練るから」 


 アイシャに言われると誠はそのまま立ち上がった。食堂を飛び出すとそのまま玄関に向かう。玄関にはその日の寮に住む隊員の行動予定表があった。


「西川さん、大西さん、シュミット先輩……」 


 おそらく演習準備に余念のない明華に絞られて泥のように眠っているであろう古参の下士官を起こすのは気が引けるがカウラの言うように非常事態だった。ちょうどそこに外から帰ってきた菰田の姿が見えた。


「おう、神前。また……」 


 嫌らしい菰田の目だがそんなことを気にしてられる状況では無かった。


「先輩! 大変です! ナンバルゲニア中尉がグリンを連れてどこかに消えちゃったんです! 」 


 すぐに菰田の顔色が変わる。管理部の幹部としてグリンの飼育に反対していた菰田。その予想していた最悪の事態。


「おい、ベルガー少佐は食堂か? 分かった。すぐに放送を流して寮に残っている連中を集める。お前はシュペルター中尉の部屋に行け」 


「え? でも放送を……」 


 誠の口答えに菰田は呆れたような表情を浮かべた。


「あの人がそんなもんで起きるか! 鍵は掛かってないはずだからそのまま飛び込んでひっぱたいて起こせ! 俺が許可する」 

 

 それだけ言うと菰田はそのまま寮の廊下を駆け出していった。



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