殺戮機械が思い出に浸るとき 8
「どうして返事をしてくれないのかしら? 」
「クラウゼ少佐。守秘義務って言葉。知ってます? 」
薄ら笑いを浮かべて拒否の姿勢を示してみせるのが最後の抵抗だった。菰田はアイシャににらまれたままじっと黙り込んでいる。
「おい、アイシャ。それはまずいだろ。重要書類の管理はおそらく菰田じゃなくて高梨参事の担当だぞ」
「西園寺さんの言うとおりですよ! 俺じゃあ何もできません! 」
暴走するアイシャをさすがの要も止めに入る。明らかに出せないのは知っていたがただいじめたかったと言うだけの理由で菰田を絞り上げていたのは誠が見てもよく分かった。
「まあ良いわ。それにしても……本当にどこにいるのかしら? 」
「ここで相談されても困りますよ。とりあえず自宅とか……あの人なら音楽関係の知り合いが多いからどこかのスタジオに缶詰になってるとか……いろいろ考えられるでしょ? 」
菰田の捨て鉢な意見。アイシャは手を打って菰田の肩をぽんと叩いた。
「そうね。とりあえず自宅を明日訪問。それから後のことはそれから考えましょう」
アイシャはそれだけ言うと唖然とする誠達を置いて平然と管理部の部室を出て行った。
「何がしたかったんだ? アイツは」
「私に聞くな」
要とカウラはただ呆然と立ち尽くしている。誠は我に返るとすべての苦痛を誠を恨むことで解消しようとしている菰田の顔があった。
「いやあ……とりあえず昼休みも終わりだし。明日にしましょうよ」
そう言うと誠はそのまま立ち去ろうとした。だが要のその肩を押さえつける。
「せっかくここに来たんだ。高梨参事に一応確かめるくらいの事はしてもいいんじゃねえのか? 」
「そうだな。駄目なのは当たり前でも聞くだけ聞くのは無駄じゃないだろう」
誠はただ絶望に包まれた。そして恐怖を紛らわすべく室内を見回す。
昼休みと言うことで付けられている端末のテレビ画面。そこには次から次へと兵器の映像が映し出されていた。
「また遼北と西モスレムが揉めてるんですか? 」
何気ない誠の言葉。冷ややかにカウラが頷く。
「あそこの宗教問題は複雑だからな。先週西モスレムのテロ組織の過激派が越境攻撃を仕掛けたらしい。遼北は西モスレム政府の関与を疑い、西モスレムはそれを否定した上で遼北内部でのイスラム教徒の不当弾圧を同盟会議にかけるといきり立ってる」
「あそこは一回ぶつかった方がいいんだよ。多少痛み分けすれば仲も良くなるじゃねえのか? 」
相変わらずの要の不穏当な発言に誠はただため息をつくばかりだった。