殺戮機械が思い出に浸るとき 78
「相変わらずだな……」
入れ替わりに苦笑いを浮かべたカウラが入ってきた。
「まあね……あの娘も大変なんでしょ」
アイシャの言葉に誠は首をひねった。
「でも西園寺さん……胡州大公家の次期当主でしょ? そんな仕事をしなくてもお金ならどうにでもなるんじゃないですか? 」
そのままアイシャの隣に座った誠にアイシャは呆れたような表情を浮かべながら肩を叩く。
「あのねえ……誠ちゃん。貴族稼業も大変なのよ。私も最初は誠ちゃんと同じことを考えていろいろ虐めて上げたんだけど……」
「虐めねえ……」
アイシャの言葉にカウラは苦笑しながらそのまま正面の席に座った。誠は相変わらずよく分からない表情で呆然とアイシャを見つめていた。
「基本的に胡州貴族は無職じゃ勤まらない訳よ。まあ……公爵、伯爵クラスになれば就職先が無ければ貴族院議員の席が空いているからどうにでもなるけどねえ」
「じゃあ議員になれば良いじゃないですか」
思わず出た誠の言葉にアイシャがさらに深いため息をつく。
「西園寺首相は反貴族主義の急先鋒よ。貴族院議員の権利はとっくに放棄済み。それで無職が三年続くと……」
「廃嫡の上、不熟に付き永蟄居。つまり死ぬまで座敷牢の中で過ごすことになるそうだ……胡州貴族典範の付則に載ってる。ネットでも調べられるはずだ」
カウラの言葉に思わず誠は息を飲んだ。生まれ持った栄華と義務などと胡州貴族達が口にするのはそのような法的な裏付けがあったとは。それ以上にあの落ち着きのない要が座敷牢の中でじっとしていることに耐えられるとは思えなかった。
「そう言えば……あれでしょ? 隊長が継ぐ前の嵯峨家の断絶理由も当主が永蟄居中に使用人を惨殺したとかしなかったとか……」
「そんなことは知らないな。つまらない知識だ」
アイシャの言葉を切って捨てるとカウラはそのまま視線を食堂の入り口に移した。
そこにはセーラー服姿の少女が立っていた。
「あれ? 小夏ちゃんじゃないの。学校は? 」
「今日は学年末テストで半日で終わりです。それより皆さん……師匠を知りませんか? 」
入り口で立ったままいつも『師匠』と慕うシャムのことを口にする小夏の口元が振えているのを誠達は見逃さなかった。