殺戮機械が思い出に浸るとき 77
「ひとまず失業はなさそうだなあ……」
寮の食堂のテレビを見ながらポテトチップスをかじっていた要の言葉にアイシャは首をひねった。
「そう簡単にいくかしらねえ」
「ずいぶん慎重だな」
にやけた要の顔を見てアイシャは大きくため息をつく。
「なんだよその態度……」
「良いわねえ、要ちゃんは。保安隊が解体になっても収入は領国から上がるでしょうし……ああ、他にも官位があったはずよね。そこからの年金もそれなりに入るんでしょ? 」
「なんだよ嫌みか? それにオメエだって艦長資格があるじゃねえか。東和宇宙軍にでも頼めばいいんじゃ無いか?ゲルパルトは……予算がないからなああそこは。元の鞘に収まるのも大変そうだ」
にらみ合う二人。そこに明らかに場違いなにやけ面の誠がたどり着いたから二人の視線はドアの方に向かう。
「どうしたんですか? 二人とも。来週の演習の荷造りは……」
「そんなもんとっくに終わってるよ。オメエはあれだろ? 航海中に作るプラモの品定めでもしてたんだろ? 」
要に図星を当てられてたじろぐ誠。アイシャはそんな要を無視して立ち上がるとそのまま誠のそばまで歩いて行く。
「ねえ、今度こそ私のフィギュア作ってよ! 」
「あれは……元型を作るのに集中しないといけないですから。二人部屋じゃあ無理ですよ」
「なんだ。今度は二人部屋か? 」
意外な誠の言葉に要は驚いたように呟く。
「ええ、島田先輩と一緒の部屋です。まあ……部屋割りは鈴木中佐が決めたそうですが……」
「お姉さんの出産前最後のお仕事ね……それにしても変な話ね。島田君も一応士官だし、誠ちゃんはパイロット。それなりに優遇されてもいい話だけど……」
「まああれだ。神前は肝っ玉が小さいから度胸の据わった島田に兵隊のなんたるかを教われってことなんじゃねえの? 知らないけど」
そう言うとそのまま要はテレビに目を向ける。遼北の国家府中央会議室で引きつった笑みを浮かべる遼北首脳部の隣で本心からと思えるような満足げな笑みを浮かべる西園寺基義。それが胡州宰相であり要の父だと言うことはこの場の誰もが知っていることだった。
「良い仕事したじゃないの……たまにはパパを褒めて上げたら? 」
「誰が褒めるか! あの糞親父! 失敗したら首締めに行ってやったのによ! 」
そう吐き捨てるように言うと要は立ち上がる。
「タバコ吸ってくるからな」
「別になにも聞いてないわよ」
アイシャの一言を聞くとぷいと背を向けて要は食堂を出て行った。