殺戮機械が思い出に浸るとき 74
「ちょっと待っていてくださいね……」
そう言うとネネはバッグを開けて中身をあさり始めた。
「何を始めたのやら……」
呆れるオンドラを無視してネネはそのまま中からビニール袋に入った小さなチップを取り出した。オンドラは驚いた表情でそれを見つめる。
「ネネ……それって証拠物件じゃないの? どうしたのよ……盗ってきたわけ? まずいよそれは……」
「調査もしないで放ってあるんですもの。使わないと損ですわ。それに……たぶんこれは私の予想を裏付けてくれる大事な品物ですから」
そう言うとネネは静かに道を眺めた。オンドラはその先を見てみる。ただ続くあまり手入れの行き届いていないあれた道。
「何か見えるのかよ……」
「北です」
ネネの言うとおりその方角は北だった。オンドラは訳が分からずにただ北を見つめるネネを見下ろす。
「北に何があるんだよ……北と言えば最近遼北の避難船が何度も来港しているって話じゃないのさ。危ないよそりゃあ」
「だから行かなければならないんですよ。答えはそこにあります」
ネネの力のこもった言葉にオンドラは大きくため息をついた。
「分かりましたよ……アタシはあんたの護衛、ナイトだ。地の果てまでだってついていきますよ」
「私のじゃなくて私の持っているお金のでしょ? でもまあお願いします。もしかしたら危ないことになるかも知れませんから……」
一言一言確かめるように呟くネネ。その言葉に何か質問をするだけ無駄だと分かったオンドラはネネの足下のバッグに手を伸ばした。
「返してください! 」
慌てるネネにオンドラは笑いかける。
「いいじゃないのさ、荷物を持ってやろうって言うんだ。こんな気まぐれ滅多にないんだぜ! さあ我行かん! 北の極北の大地へ! 」
軽快な足取りで歩き出すオンドラ。ネネは苦笑いを浮かべると手にしたチップをコートのポケットに押し込んでそのまま早足で歩き続けるオンドラの後をちょこまかとついていくことにした。