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殺戮機械が思い出に浸るとき 73

「くそったれ! 」 


「オンドラさん。下品ですよ」 


 大きなバックを抱えたネネの姿はまるで要塞のような警察署の前では実に奇妙で儚げに見えた。尖った縁の青いサングラスで隣で城塞を睨み付けているオンドラの姿も相まって通行人は思わず二人に目を向けていた。


 東和西部最大の都市、涼西。その遼南からの移民が多く住むスラムの警察署の前での女二人連れという姿はあまり用心の良いものでは無かった。通行人達はすぐにその視線を心配するような様子に変えるのを見てオンドラは咳払いをするとそのまま一人先だって道を港に向けて歩き始めた。


「これで破壊された軍用義体は12体。どれも所有者不明。脳は完全に破壊されて証言も取れない……さらにご丁寧に数日後には保管庫から盗まれた上に保存された資料もすべて抹消されているっていうんだ……吉田俊平って奴は相当慎重なんだねえ……」 


 早足で歩くオンドラに少女のような体格のネネがバッグを抱えて必死についていく様は非常に滑稽に見えた。


「予想はしていたんですが……ネットを調べても無駄なわけですよ。すべての記録は改竄されて残っているのは取り調べに立ち会った人物の記憶だけ」 


「予想してた? さすが『預言者』! じゃあ次はどこで壊れたサイボーグを見つけた人物の聞き込みに行くんですか? もう東和は終わりにして遼南ですか? 大麗ですか? いっそのことベルルカンまで足を伸ばしますか? 」 


 半分切れ気味にオンドラは叫ぶ。元々が違法入国者である彼女が警察署での居心地の悪さにストレスを感じているのはネネも十分承知していた。西園寺要からの百万ドルはすでに半分がオンドラが東和国内で動けるための申請書類を偽造したり正規ルートでない移動手段を確保するために使われていた。そんな経費の計算もオンドラを苛立たせているのだろう。


 ネネはちょこまか歩きながらオンドラの背中を眺めていた。


「サイボーグが破壊される……どの義体もただじゃない。専門家じゃない初期捜査の捜査員が見ても分かるほどの高度な戦闘用のカスタムがされたものばかりって話だ……それが消えたのになんの連絡もない……」 


「それだけの無駄遣いが出来るのは政府機関と考えるのが順当な見方ですね……海外の諜報機関の諜報員の義体も混じっていたでしょう……でも数が多すぎる。東和はそれほど治安が悪いわけでも軍の力が強いわけでもない。強力な軍用義体を必要とされるような非正規作戦が展開されたのは東都戦争くらいですから……」 


 ネネの『東都戦争』という言葉にオンドラが立ち止まった。


「あの時にあの馬鹿と出会わなきゃこんなところでぐだぐだ言うことも無かったのによ! 」 


 そのまま目の前の空き缶を蹴飛ばすオンドラ。その空き缶はそのまま放物線を描いて正面の大通りに転がっていく。大型トレーラーがそれを踏みつぶし、あっという間に潰された缶を見てオンドラはにやりと笑った。


「でもおかげでお仕事がもらえたんですもの」 


「は? お仕事? ただ無駄遣い……」 


「費用が発生したのはほとんどオンドラさん絡みばかりですよ? 」


 ネネの言葉にオンドラは黙り込む。その様子を見るとネネは静かに抱えていた大きな黒いバッグを道路に置いて大きなため息をついた。




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