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殺戮機械が思い出に浸るとき 71

 世間の喧噪とは無縁な場所。宇宙をそう考えている人間が多いことがルドルフ・カーンには気にくわなかった。


 彼がゲルパルトの意志を継ぐと称して同志を集め始めてすでに二十年の時が流れているが、こうして同志達と宇宙研究施設を歩いていても遼北と西モスレムの抗争の話題ばかりが注目されている。だが彼としては好都合とは言えた。


「所詮……有色人種達のことだ……自滅するさ。しなければ裁きを下せばいい」 


 両国のネットワークダウンの情報に表情を曇らせるととってつけられたような金属製の扉の前に立つ。隣に立っていたかつての遼州星系最大の勢力を誇ったゲルパルト共和国、民族団結党武装親衛隊の制服を着た金髪の青年が正確な足取りでロックを解除し、不気味なうなりを上げながらドアが開く。


『来ると思ったよ……』 


 中から聞こえたのは人間の声ではなかった。


 合成音。人工的なその音に意味がこもっていることにカーンは内心苦々しく思いながらそのまま十畳ほどの部屋の中に三人の部下を連れて入った。


『銃を持った護衛か……あなたに協力を約束して以来、俺の体は固定されたままだというのに』 


 部屋の中央。そこには棺のようなものが置かれていた。中央に墓標のようにあるのはモニターで、そこには発せられた言語のようなものと同じドイツ語の文面が表示されているのが見える。


「なあに。用心というものだよ。君は……本当に私の意志に沿って動いているのかどうか。いつもそれが不安でね」 


 カーンはそのままモニターを無視して透明な樹脂で出来た棺桶の中を覗き込む。満たされた冷却液の中で人間の白骨死体のようなものに多くのコードがつなげられている様が中にはあった。知る人が見ればそれが軍用義体の慣れの果てであることは所々に見えるむき出しの金属骨格の色合いで理解できた。


『確かに……あなたには敵が多い。多すぎるくらいだ。尤も、半分以上はあなたの身から出た錆なんだけどね』 


「減らず口を……」


 思わずカーンはその骸骨に向けて笑いかけていた。もしその義体が笑うことが出来たらさぞ残忍な笑みを浮かべるだろう。


『こんなところに来た理由は遼北と西モスレムのネットワークのクラッキングの件だね。あれは……予想された範囲だよ。これまでがうまくいきすぎた。両軍のサーバに領空を侵犯する相手国のアサルト・モジュールの疑似情報を流してこの状況を作り上げることが出来た……その時点で『管理者』はこちらの動きに気づいていたはずだ。反撃とすれば俺の予想より遅かったというのが今の俺の分析だけど』 


 モニターの中を流れるアルファベットの下に突然日本文で同じ意味の言葉が並ぶ。部下が思わずカーンに目を向けるが、カーンはまるで関心が無いというようにそのまま骸骨を眺めていた。


「君の『管理者』への恐怖はどうでもいいんだ。私が欲しているのはただ一つ」 


『この砲台が動くかどうかだろ? でもいいのかい……せっかくの切り札だ。使うタイミングはまだこれからもあるかも知れないというのに』 


 骸骨の忠告。確かに目の前の物体の分析は正しいかも知れないとカーンは思うこともある。実際この東和宇宙軍のインパルス移動砲台の接収までにかけた費用は莫大なものだった。だが『管理者』……オリジナルの吉田俊平の消息がつかめない以上、この施設を使わずに捨てるほどカーンは寛大ではなかった。



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