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殺戮機械が思い出に浸るとき 70

「どうせ両国とも言論の自由の保障されていない国……」 


 そこまでカルビンが言ったとたんカラの手がテーブルに叩きつけられた。だまるカルビン。一瞬浮かんだ無表情の後に身の毛がよだつような妖艶な笑みが再びカラの顔に浮かぶ。


「地球の方々はいつもこれだ……自由? まあいいさ。アタシ等も自由が欲しくて国家とは距離を置いている身だ……つまらないことは言わないでおこう。それよりこれで対決ムードを破滅にまで導くつもりだった自暴的な民意が一度孤立して個々の人間に戻るわけだ……再びネットがつながったとき……どう転んでいるかねえ……」


 カラの言わんとしていることは分からないではない。情報の海に流れる敵意の最近に汚染された脳で悪態を掻き込み続けていた人々が手を止めて周りを見回したとき。家族、近隣の人々。彼等もまた自分達がまき散らす敵意の言葉のもたらす結果を甘受する人々だと知ったとき。


「首脳部は……今の時期を逃さないでしょうね。講和のテーブルにつく準備があるという発表が数時間後に出ても不思議じゃない」 


 苦渋に満ちた表情を浮かべてカルビンは呟く。満足げなカラ。だがそこでカルビンには疑問が浮かんできた。


「同盟の継続……それは太子の意志なんですか? 」


「太子の意志? 同盟がどうなろうが知ったことかね! アタシ等には政治的な思想は無い。ただ自由にやりたいようにやるだけさ……尤も桐野みたいにやりたいようにやられたら困る連中もいるからそこのところは案配を見ながらと言うところかねえ……」 


 カラはちらりと艦長室の外に目をやる。カルビンは背筋に寒いものが走るのを感じながら悠然とコーヒーに手を伸ばしたカラを眺めていた。


「政治的な意図がない武力集団……」 


「そうさ。だからあんた達ヨーロッパはアタシ等に手を差し出したんだろ? 同じような組織を抱えている人間と言えば後は嵯峨惟基くらいだ……だがあの御仁には同盟結成を呼びかけたという事実が付属する……地球からの独立などを叫びかねない思想を持っているかも知れない連中と手を組むのはどうにもプライドが許さなかった……あんたの上司の考えはそんなところかねえ……」 


 満足げにそう言うとカラは静かにコーヒーを啜った。沈黙が続く。カルビンは耐えきれずに口を開こうとしたがすでにカラは鋭い視線をカルビンに浴びせながら言葉を紡ぎ始めていた。


「あんた等が思うよりもっと地球と遼州の関係は深いんだよ……公然の事実となる以前から法術師は地下でつながり、それぞれ助け合って生きてきた。その力の存在が知られればあんた等は何をするか分からないからねえ……今回の遼北と西モスレムの対立の行き着く先だった核戦争に使われるプルトニウムの濃縮技術もすべて地球の産物だ……酷い殺し方をするならあんた等地球人の方が遼州人より一枚上だよ」 


「だが……そう言った技術の進歩があったからこそ両者は出会った。違いますか? 」 


 食い下がるカルビンを満足そうな笑顔を浮かべながらカラは立ち上がる。


「アタシは出会いがいつも幸福だとは思ったことが無いものでね……じゃあお互いの利益の為に」 


 それだけ言い残すとスーツ姿のどこか似合わないように見えるカラはそのまま出口へと向かう。カルビンはただ座ったまま彼女を見送るだけだった。




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