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殺戮機械が思い出に浸るとき 62

「東和出身の連中が予想通りというか……早速再就職先探しですよ。すっかり同盟解体は目の前だというように勤務中から前の所属の所属長と電話で長話。まあ連中も分かってますから同盟の機密事項とかは流れていないと思いますが……」 


「分かったもんじゃねえなあ。東和の金が同盟をどうにか生かしていたようなもんだ。金には秘密がつきもの。そして金の流れは力につながる。賢い奴はばらしはしなくてもそれとなく分かるようにほのめかしたりしているんじゃねえか? 」 


「確かに……」 


 高梨は力なく笑うしかなかった。彼自身が同盟司法局へは東和国防軍の背広組からの出向者である。人のことを言える立場ではない。


「東和宇宙軍絡みも結構活動始めているんじゃねえか? 」 


 嵯峨の声のトーンが一段下がる。高梨もその理由は十分に分かっていた。


「連中は秘密主義ですからね……陸軍や空軍の奴等のように表立って動いてはいませんが。ただ動き出したら早そうな連中ですよ」 


 思わず高梨の口から本音が出る。国防省内部でも宇宙軍は別格扱いされていた。予算や人事権は表だっては政府の意向に沿ってはいるが、高梨が予算編成局の課長をしているときも事実上独立した権限を有していると判断して決済するようにと言う前任者からの引き継ぎを受けたことを覚えている。


『ある人物からの指示でね……』 


 退官が決まっていたノンキャリアの前任者の言葉でおそらくそれが東和ただ一人の人物の意向であることだけは理解できた。


「菱川の旦那……笑いが止まらねえんじゃないかねえ」 


 嵯峨の顔が卑屈な笑みに浮かぶ。そしてその視線はそのまま窓の外の壁の向こうに広がる菱川重工豊川工場に向かった。


「同盟が東和にとって思いの外経済的負担になってきたのは事実ですから……機会があれば解体に導きたいという考えがあっても不思議な話じゃ無いですが……本当に菱川重三郎元首相が? あの人は同盟司法局の設立を一番に主張した人じゃないですか……それにその実働部隊長に兄さんを指名したのも事実上はあの人でしょ? 」 


 信じられないと言うより信じたくない。そう思いながら高梨はまだ外を見つめている兄の後ろ姿を見つめていた。嵯峨はゆっくりと視線を部屋に戻し、一度目を閉じた後伏し目がちに言葉を紡ぎ始める。


「俺を同盟内部に引きずり込んだ理由は簡単さ。要は俺を目の届く範囲に置きたかったんだろ? 」


「まるで犯罪者じゃないですか! 」 


「おう、俺は一応先の大戦じゃ人道に対する罪で銃殺されたことになっているんだから……立派な犯罪者だろ? 」 


 遼南での治安維持活動で『人斬り新三』の異名を取った兄の顔が歪むのに高梨は目をそらした。それでも兄の言葉は続く。


「同盟の実力部隊は俺が同盟設立を提案した時の条文の段階から本部を東和に置くことになっていた。技術力と安定した治安が魅力でね……扱うものがアサルト・モジュールなんて言う技術力の塊を常に運用状態に置くとなると東和か……大麗くらいしか適当な場所がない。警官が金で動くような治安のヤバイところに設置すれば同盟の中立的実力行使という役割が果たせなくなる可能性もある……そうなると選択肢は東和一本に絞られたわけだが……その部隊長には何人かの候補がいた」 


 兄の言葉がどこにたどり着くかと高梨はただ耳を澄ませるだけだった。




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