殺戮機械が思い出に浸るとき 60
「信じるねえ……確かにテメエ等のつきあいが長いのは聞いちゃあいるが……それほど奴は信用できるのか? 」
「そう言う割には要ちゃんは心配してお金を出して俊平を捜してくれているんでしょ? 」
嫌みを言うつもりが逆に窘められて要は顔を真っ赤にして黙り込む。その様子に吹き出すアイシャに要は照れ隠しに拳を握りしめて振り回した。
「別にそんなに心配しなくても大丈夫。アタシ以上に俊平は強いから」
「強い弱いの問題じゃ無いわよね……なんでも東和の公安警察が吉田少佐を追い始めたとか……」
アイシャの突然の言葉に誠はただ黙り込むしかなかった。
「公安が? 容疑は何だ? 今回の遼北と西モスレムの激突と……」
「カウラちゃん興奮しないでよ! 私だって昔の知り合いのつてで噂に聞いたくらいなんだから! 」
振り向いて詰め寄るカウラに迷惑そうに顔を顰めるアイシャ。そんな様子もどこ吹く風で相変わらずシャムは梅を眺めていた。
「心配しねえのかよ……辛抱強いというか……ここまで行くと薄情に見えるぞ」
要の言葉に再び慈悲を帯びた笑みで振り返るシャム。彼女と吉田の出会いから今まで。誠が知っていることはほとんど無いと言っても良い。だがそのつながりがどこまでも特別なものなのは理解することが出来た。
「そう見えても仕方ないけど……分かるんだよ。間違いなく大丈夫だって」
「そんなもんかねえ……」
理解できないというように要はそのままシャムの隣の柵に寄りかかって梅を眺める。眺めていた紅梅に降り注ぐ光が一瞬の雲の影に隠れた。
「で……吉田は何をしてると思う? 」
再び降り注ぐ早春の日差しを見ながらのそれと無い要のつぶやき。シャムはただ変わらぬ笑みを浮かべていた。その視線は梅の梢から逸れることがない。
「大事なこと。俊平がしなければならないと思った大事なことをしているんだよ。きっとアタシにも相談できないほど個人的で大事なこと……」
「昔の女との別れ話か? 」
「要ちゃんは……本当にデリカシーってものが無いのかしら? 」
アイシャの言葉にさすがの要も苦笑いを浮かべた。シャムを見る限り吉田の目的はそのような所帯じみた話のようには誠にも思えなかった。
「しなければならないことを終えたら帰ってくるよ。その時笑顔で迎えたいんだ……だから泣かないの……」
光の中。シャムの眼の下に二筋の光の線が見えたのを誠は見逃すことがなかった。