殺戮機械が思い出に浸るとき 6
アイシャはにんまりと笑いながら近づいてくるとそのまま要を蹴飛ばした。
「なにしやがる! 」
「いきなり『げ! 』ってなによ! 」
さすがの軍用の強化義体の持ち主の要も、遺伝子的に強化されて作られているアイシャの鋭い蹴りは効果があるようで蹴られた肘をさすりながらアイシャを見上げる。
「それより……面白いことしてるんでしょ? 私も混ぜてよ」
興味津々、やる気満々のアイシャのうれしそうな視線に誠達は頭を掻いた。アイシャは運用艦『高雄』の艦長代理。階級も少佐と言うことで手に入る情報の権限は大尉のカウラや要より上に当たる。ただし、本人に本当にやる気があればの話で、こう言う場合アイシャはただ興味だけで付いてくる可能性もあるのでどうにも信用できない。
「アイシャ、止めなよ。ただでさえうちはお姉さんからの業務の引き継ぎとかで忙しいんだから……」
同じブリッジクルーと言うことでサラはなんとかアイシャを止めにかかろうとする。
「それならほとんど終わってるわよ。それに面白そうじゃない、謎の保安隊の改造人間の知られざる過去に迫るなんて……」
「吉田はいつから改造人間になったんだ? 変身でもするのか? 」
吐き捨てるようにそう言った要だが、すでにアイシャはやる気でいる。
「とりあえずこういうときはお金の流れから見るべきね! 行きましょう! 」
早速ぼんやりとしていた誠の手を取るとそのままハンガーの05式のコックピットの前に付けられた通路を執務室のある棟に向けて歩き出す。カウラと要は慌ててそれを追いかけた。
「金の流れ? そんなもんうちでどうにかなるのか? 」
要の慌てた声に振り向いたアイシャはにんまりと笑う。
「うちの金の管理はどこが担当? 管理部でしょ? 経理担当は菰田君。カウラが頼めば多少の無理は……」
アイシャの言葉にカウラが思い切り嫌な顔をする。
経理担当主任菰田邦宏曹長。誠も大の苦手な粘着質を絵に描いた顔の古参下士官はカウラのファンクラブ『ヒンヌー教』の教祖としてその手の趣味の隊員の絶大な支持を集めていた。
よく言えばスレンダー、悪く言えば胸がないカウラの自覚している欠点を崇拝するその奇妙なカルト宗教は部隊での影響力は絶大で、誠達が生活している保安隊男子下士官寮の中では一大勢力をなしていた。当然のことながら勝手にそんなインチキ宗教の崇拝対象になったカウラにとっては迷惑以外の何物でもない。それでもしつこい菰田達の布教活動で、入れ替わりが激しくなった最近の保安隊内部でも大きな勢力を維持していた。
「ほら、わびしそうなカップ麺なんて食べてるわよ」
アイシャが指さすのは管理部のガラス張りの執務室。和気藹々と笑いあっている女子事務職員達からぽつんと離れて一人カップ麺を啜る菰田の哀れな姿が見える。
偶然顔を上げた菰田が誠達に視線を向けた。最初にカウラを見つけて笑顔が浮かんだものの、その中に誠の姿があるのを見つけて笑顔を訂正するような不機嫌そうな表情を浮かべている菰田。
アイシャは気にするわけでもなくそのままぐんぐんと近づいていくとそのまま管理部の部室に飛び込んだ。




