殺戮機械が思い出に浸るとき 59
「案内板でもあったのか? 」
カウラの言葉にただ指を指すアイシャ。
「梅だな……そして……」
誠もカウラと共に松の木の隣に咲き誇る紅梅を眺めた。その目の前には三脚にカメラを載せて難しい顔で立ち並ぶ高齢の男女の姿とそれをうっとうしそうに横目で見ながら梅の花を愛でる同じ年格好の女性の群れを見つけた。
「でも……なんで? 」
アイシャがそう言ったのはその向こう側。柵に頬杖をついてじっと梅を眺める少女の後ろ姿を見たからだった。正確に言えばそれは少女の後ろ姿ではない。戸籍上の年齢はもう三十に手が届く。
「シャムだろ? 休暇でも取ったんじゃねえか? 」
全く動じずにそのまま要は一直線に梅を見ながら物思いにふけるシャムに向かって歩き出した。
「おい、そこの餓鬼! 」
シャムはしばらく声をかけたのが要だと分からず呆然としていたが要の特徴的なタレ目を目にするとすぐにむっと膨れた表情を浮かべて誠達に目をやった。
「餓鬼じゃないよ! 」
「じゃあなんだ? ……梅見か? がらにも無いな」
「それを言うなら要ちゃんの方が似合わないじゃない! 」
「そりゃあそうか」
シャムにムキになられて少しばかり反省したように要はそのままシャムの隣に立つ。節くれ立った梅の木々の枝に点々と赤い花が咲いているのが見える。
「良い枝振り……そして良い梅だ」
「要ちゃんが言うと実感わかないわね」
「馬鹿言うな。胡州も梅はそれは大事にされているんだ。これより良い梅も散々見てきたぞ」
「嫌々めんどくさそうにでしょ? 」
アイシャに図星を指されて要は黙り込んだ。そんなやりとりを乾いた笑みを浮かべて眺めていたシャムは再び視線を梅へと向けた。
「ナンバルゲニア中尉……やはり吉田少佐のことが気になるんですか? 」
思わず誠は本題を切り出していた。あまりにも突然だと言うように振り返ったシャムの目が誠の顔を直視できずに泳いでいる。
「う……うん。気になるよ。でも信じたいんだ」
それだけ言うと再びシャムは目を梅に向ける。考えてみればシャムと吉田の関係は誠から見ても不思議だった。つきあっているというわけでも無い。シャムはどう見ても色気より食い気という感じにしか見えないし、吉田は超然としていて男女関係などの情念とは無縁な冷たいイメージが誠にはあった。