殺戮機械が思い出に浸るとき 58
平日の日中。客の多くはリタイヤした高齢者が多く見られた。仲むつまじく歩く姿、何人もでがやがやと談笑しながら入り口に向かう姿。そこにはいつもの東和の日常があった。
「いい若いのがこんな時間に梅見か? 」
「何よ……要ちゃんだって反対しなかったじゃないの。それに他に良い場所知ってるの? 」
アイシャに突っ込まれて要は不服そうに黙り込む。そのまま真新しい植物園の入り口のゲートが目に入る。褐色の門柱と黒い鉄柵。
「もう少し……柔らかい印象で作れないものかな」
カウラでさえそう言う物々しい門。そこの脇にある入場券売り場に当然のように要が歩いて行った。
「大人三枚と馬鹿一枚」
「馬鹿? 」
素っ頓狂な要の言葉に彼女と同じくらいの年の職員が首をひねって誠達を眺める。
「馬鹿って要ちゃん? 」
「オメエのことだよ……まあいいや。大人四枚」
「はい……」
相変わらずよく事情を飲み込めないというように要のカードを端末でスキャンした後そのまま磁気カードを四枚要に手渡す。要はそれぞれ誠達に配るとそのまま振り向きもせずに入り口のゲートを通りすぎた。
「急いじゃって……そんなに梅が見たいの? 」
アイシャの皮肉に答えることもなく要はそのまま奥へと歩き続ける。誠達も仕方なく急ぎ足でゲートを通りすぎるとそのまままだ新緑には早い植物園へと足を踏みれた。
「寒々しいわね……」
思わずアイシャの口から漏れた言葉も尤もな話で、落葉樹にはまだ木の芽の気配が僅かにするばかり。多くの木々はまだ冬の気配を残している気温に遠慮して縮こまっているように見える。
「季節は移るものだ……いつまでもとどまると言うことは無い」
カウラはただそれだけ言うと一人飛び出している要に向けて急ぎ足で進む。誠も左右を見回して感心しているアイシャを置いてそのまま要のところへと急いだ。
「奥だよな……梅は」
「知らないで急いで歩いているのか? 」
突然立ち止まって振り返っての要の言葉にカウラはあきれ果てながら周りを見回した。桜の木々の枝ばかりが天を覆い、季節感の感じられない松の梢が風に揺れていた。
「案内板でも捜せばいいじゃないの」
遅れてたどり着いたアイシャはそう言うと、そのままひときわ目立つ立派な枝振りの松に向けて歩き出した。
「勝手なことばかりして……」
ため息を漏らすカウラの視線の先でアイシャが誠達に手招きをしているのが見えた。