殺戮機械が思い出に浸るとき 55
「梅を見るのに……辛気くさいには今一ね」
アイシャの言葉で誠は我に返った。確かにいくら思いを巡らせてもどうにもならないことは世の中にはある。
「そう言うことだ……アタシ等は謹慎中の身だ。出来ることはしたんだからいいじゃねえか」
「なるほど、西園寺もたまには良いことを言う」
「たまには? 聞き捨てならねえな」
そう言いながらも要の表情は笑っていた。確かにその笑いに力はない。諦めたような空気が漂う。ただそれ以上誠も思い悩むのは止めることにした。
早春の街はいつもと変わる様子は無い。去年までの山奥の訓練校からすればかなり活気のある街。大学時代まで下町の実家で過ごした誠には少し寂しげに感じる豊川の郊外の商店街の景色。
人はそれぞれにやや力を帯びてきた太陽を見上げて季節を堪能している。確かにそれが次に何が起こるか分からない国際情勢と無関係であったところで彼等を非難することは間違っているように誠には思えた。
「おい……あそこの車の列……」
カウラがハンドルから手を離して指さす田んぼの隣の車の列。最後部には警備員が看板を持って立っているのが見える。
『豊川植物園駐車場最後尾』
看板の赤い文字にアイシャが思わず頭を抱える。
「やっぱりみんな考えることは同じね……どこか近くに駐めて歩く? 」
「この近辺は駐車禁止だ」
カウラに一言で自分の案を否定されたアイシャが情けない表情で後部座席に目を向けた。
「そんな目でアタシを見ても仕方ないだろ? 待つしかねえよ。梅は逃げたりしねえから」
「いつもは待つのは嫌だって逃げるくせに……珍しいのね」
確かにいつもにないのんびりしたような表情の要を見て誠も首をひねった。あらゆる意味でまな板の上の鯉の誠達。要は彼女なりに覚悟を決めているのだろう。そう思うと誠も自然に頷いていた。
「へえ、後部座席のお二人さんはお待ちするようですよ」
「なら待つしかないだろ」
いつでもそのまま最後尾の車を追い越せる位置で車を停めていたカウラは覚悟を決めたようにそのまま駐車場へ続く車列の最後尾に車を着けた。
「30分くらいかしらねえ……」
「昼過ぎだからな……確かにそのくらいは時間がかかるんじゃねえか? そう言えばここの駐車場はでかいのか? 」
「都営施設だからそれなりにでかいはずだぞ……ちょっと待て」
要の質問に暇をもてあましていたカウラはナビゲーションを弄って駐車場の規模を調べる。
「二百台……多いのか少ないのか微妙だな」
カウラの苦笑いに誠も自然と笑みが漏れてくるのを感じていた。