殺戮機械が思い出に浸るとき 53
「神前……まだか? 」
「ちょっと待ってください! 」
すでに食べ終えた要の言葉に誠は慌ててラーメンのスープを啜る。
「お会計は要ちゃん。お願いね」
さっさと立ち去るアイシャ。要はただ苦虫をかみつぶした顔をしてそのままカウンターの奥のレジに伝票を持って進む。
「助かったな」
カウラはそう言って珍しい笑みを浮かべるをそのまま店を出て行った。誠はようやくラーメンのスープを飲み終えるとそのままコップの中の水を口に流し込んで慌ててジャンバーを羽織って店の外に出た。
「ずいぶんとまあ……のんきなこと。いつ核戦争が始まるかも知れないのに」
アイシャの言葉に『核』という言葉が出たのを聞いて客達が迷惑そうな表情でアイシャを見つめる。紺色の髪。普通の人間にはあり得ないその色。軍に詳しい人間なら人造人間のそれだと分かるが一般人にはバンドメンバーか何かにでも見えるのだろう。
「つまらない話をしても仕方がない。それより……どこに行く? 」
アイシャよりもさらに目立つエメラルドグリーンのポニーテールを揺らしながらカウラが呟いた。店からは会計を済ませた要が睨み付けながら出て来た。
「ごちそうさま」
「いつか倍返しだな」
「は? 貴族はラーメンなんて下賤の食べるものは食さないんではなくて? 」
「殺す……いつか殺す」
殺気立つ要。歌い出しそうな調子のアイシャ。ただカウラは頭を抱えていた。
「そう言えば……今日辺り豊川植物園の梅祭りの最終日じゃ無かったですか? 」
誠の何気ない提案に要の顔が曇る。アイシャはそれを見てうれしそうに懐から携帯端末を取り出した。
「ちょっと待ってね……あった。明日が日曜日で最終日よ。でも……花はあるかしら」
「今年は遅いと聞くぞ。大丈夫なんじゃないか? 」
すでに行き先も無いだけに不満そうな要もついていくしかないと言う雰囲気を感じてそのままカウラの赤いスポーツカーに足を向ける。アイシャが誠の提案が通ったこととそれに要が不満なのに満足したというように誠を振り返り満面の笑みを浮かべる。
「カウラ!早くドアを開けろ!」
要が叫ぶのを聞くとカウラはオートロックを解除する。明らかに投げやりに後部座席に這っていく要。
「良い天気ね……梅見にはぴったり」
明らかに嫌みを込めたアイシャの言葉に後部座席に居を固めた要が恨みがましい視線をアイシャに向けていた。