殺戮機械が思い出に浸るとき 52
「しばし待て……ねえ……」
アイシャは要の手元の端末に記された文字を見てただそう呟くとそのまま手元のチャーシュー麺に箸を伸ばした。
「ともかくあのネネとか言う情報屋は仕事をしている。それが分かっただけで良いじゃないか」
チャーハンについてきたスープを飲み終えてひとごこちついたカウラの言葉に誠は同意するように頷いた。だが要の表情は冴えない。
「こんなに時間が掛かる訳はねえと思うんだけど……このままじゃ演習前に情報が集まらねえじゃねえか」
それだけ言うとそのまま目の前の大盛りワンタン麺のどんぶりを手に取るとずるずると麺を啜り始める。さすがに三日も寮にこもりきりの生活は若い誠達には苦行以外の何物でもなかった。相手がかなり腹を立てている東和の公安当局とあって、勝手に動き回るにも限界がある。さらに先日は東都警察に出向していたのであちこち動き回るにしても顔が割れていて余計な詮索をされるのは本意ではなかった。
「たまにはこうして外に出たけど……映画でも見る?」
「何か面白いのはやっているのか? 」
カウラの言葉にアイシャはにんまりと笑う。それを見て明らかにげんなりする要。
「どうせお子様アニメでも見るんだろ? 金の無駄だだ」
「酷い! 今度のはかなりの話題作で大人も泣けるのが売りなのよ! 」
「お涙ちょうだいの映画は見るに堪えない」
鋭く言い放つカウラ。誠は最近知ったのだが、カウラはかなり映画に詳しい。特に前衛的な作品を好んでみる携行があるのでアイシャや誠にはとてもその趣味についていくことは出来なかった。さらに要に至ってはパンフレットを見ただけで背を向けることが請け合いである。
「趣味が合わないから映画は駄目……じゃあ……ゲーム? 」
「それこそ金の無駄だ。私はそんなことをして時間を潰すために寮を出た訳じゃない」
これまたばっさりとカウラが切って捨てる。
「どうするんだよ……このまま寮に帰るか? それもなんだか警察連中に遠慮しているみてえで腹が立つしな……」
要は明らかに苛立っている。元々狭いところにいるのが一番嫌いな質の要である。味は評判で確かに旨いがごみごみした雰囲気の中華料理屋で無意味に時間を潰すのは要には無理な話だった。
「バッティングセンターは? 」
アイシャの一言にカウラの大きなため息が漏れる。
「あそこはどこかの馬鹿がピッチャー返しならぬピッチングマシン返しをやって機械を壊した件以来出入り禁止だ」
カウラの言葉にとぼけたように笑う要。誠が店の入り口を見るとすでに席が空くのを待つ行列が誠達が店に入ったときの倍以上に伸びているのが見えた。
「やっぱり外に出てから決めましょうよ」
誠の言葉は珍しく三人の意見と一致していた。それぞれに黙って料理を片付けることに集中し始める。誠はようやく安心して味噌ラーメンの最後に残した麺とチャーシューを口の中で味わうことに決めた。