殺戮機械が思い出に浸るとき 5
「吉田さんが来てない? まあ特にうちは問題がないからねえ……」
弁当を掻き込みながらめんどくさそうに技術部整備班長の島田正人准尉が思い切り嫌な顔をしてつぶやいた。さすがに今日の島田に声をかけるのは誠も躊躇したがそんなことを許す要ではない。
島田の弁当を作った保安隊唯一の運用艦『高雄』の管制官のサラ・グリファン少尉が殺意を込めた視線で誠達を睨み付けてくる。野郎ばかりの整備班。いくら恋人の為とは言え弁当を作ってくるなど彼女の精一杯の勇気を感じさせる。そんなひとときを明らかに要は意図的に土足で踏みにじるつもりだ。そのいつもの興味深そうなタレ目を見れば誠も十分に分かった。
「今、第一小隊の05式の一斉点検の最中なんだけど……データ送っても速攻でレスが入ってくるからなあ。本当にいないの? 嘘でしょ」
「ならテメエのその何も見えていない目で確かめて見るか? え? 」
要はそう言うと島田の襟首を掴んで持ち上げる。長身の島田と言えど、軍用の特殊白兵戦用義体の持ち主の要の腕力に勝てるわけもない。ただされるがままにつるされる。
「だからうちじゃあ分かりませんて! 吉田さんならシャムちゃんが相棒じゃないですか! 俺達に聞くよりそっちの方が! 」
「分からねえ奴だな! そのシャムが喋らないからテメエに聞いてるんだろ? 答えろ! 」
「要ちゃん止めてよ! 」
さすがに勢い余って首を絞め始めて島田が泡を吹き出したところでサラが止めにかかった。常人ならとっくに窒息ししていたほどの時間ぎゅうぎゅうと首を絞められて一瞬白目を剥いた島田がなんとか咳をしながら我に変える。
「人をなんだと思ってるんですか? 」
「え? 死なない便利な弾避け」
要の言葉にカウラは大きくため息をついた。島田は体組織再生能力多可という体質の持ち主だった。これまでも何度か誠達の無謀な行動につきあわされて内蔵をぶちまけたり頭を銃弾で撃ち抜かれたりしているがこうして今は平気で要の暴虐からどうやって逃れようか必死に考えを巡らせている。
「吉田の旦那と一番話をしてるのはうちではキムですよ。アイツは鉄砲オタクだから吉田の旦那とは趣味があいますから」
「吉田のは趣味じゃなくて実用だろ? どうせ連中のことだ。どこのメーカーのバレルが長持ちするとか、狙撃用の弾薬のパウダーのメーカーをどこにしたらいいかとか……そんなことが役に立つと思うか? 」
「いやあ、役に立つかと聞かれても……」
島田はとりあえず要の脅威がしばらく続きそうなのでうんざりしながら周りを見回した。いつもは人望厚い島田だがこと相手が要となるとあえて身代わりになりたくなるような古参兵達は周りにはいない。新兵達は要は自分達を端から相手にしないことは分かっているのでそれぞれがやがやと雑談を続けている。
「お困りのようね! 」
「げ……」
突然のハスキーな女性の声にうんざりしたような顔をする要。彼女がおそるおそる振り向くとそこには紺色の長い髪をなびかせた少佐の階級章の長身の女性隊員が満面の笑みで立っていた。




