殺戮機械が思い出に浸るとき 4
「隊長……それは無責任じゃないですか? 」
不意に思わぬところから声があったというように嵯峨がタバコを咥えたまま振り返った。声の主はカウラ。その鋭い瞳が薄ぼんやりとした部隊長の顔を射すくめる。だが嵯峨も手練れだった。にやりと笑ってタバコをもみ消すとそのまま何事も無かったかのように椅子に座る。
「無責任? 一般的な部隊の隊員ならその言葉はまさにその通り。俺は部隊長失格だな。だが吉田は特殊な契約をしててね」
「年俸制……事があったときは歩合で割り増し。腕の立つ傭兵の契約方式か? 」
要の言葉に否定も肯定もしない嵯峨。そして目の前の書類をぺらぺらとめくり話を続ける。
「あいつは腕利きだよ。どこの組織も欲しい人材だ。うちじゃあ三日や四日自由にしていいことにしてあいつのご機嫌を取り結んで契約を結んでいるわけだ。つまりだ。お前さん等が吉田と同じ事をすると……」
「脱走で銃殺」
要の当然のように吐かれた言葉に誠の額に冷や汗が走る。
「まあそう言うことだ。俺は野暮天にはなりたくないからな。探したいなら自分で探せよ」
突き放されたような態度で要もカウラも何も言えずにその場に立ち尽くした。嵯峨はようやく決意が付いたというように目の前の冊子の一ページ目を開いてペンを握る。
「まだ何かあるの? 」
「いいえ……失礼します」
何も言えずにカウラは踵を返す。要も誠も従うしかない雰囲気ができあがっていた。
「ああ、見つけたら教えてくれると助かるんだけど! 」
出て行こうとする誠達の背中に嵯峨の声が響く。
「おい、どうするよ」
要は扉を閉めてじっと下を向いているカウラに詰め寄る。その様子はたとえカウラが止めても自分一人で探しに出かけかねない勢いだった。
「今は勤務中だ。余計なことは考えるな」
それだけ言うとカウラは再び詰め所へと歩き始める。
「だけどあの様子だと叔父貴も吉田の旦那の行方は知らねえみたいだな……教えてくれなんて人にものを頼むのは叔父貴がすることじゃねえ」
「それが分かってどうなる? 明日は幸い非番じゃないか。明日考えればいい」
カウラはそう言うと詰め所のドアを開いた。要も誠もカウラの許可が出たことで探偵ごっこの真似事が始まると言うわくわくした感覚に包まれていた。