殺戮機械が思い出に浸るとき 37
「要ちゃん……なに? この二人」
「なんだよ……ははーん。その髪の色、ゲルパルトの人造人間か? 隣のねーちゃんもゲルパルトの人造人間で、その兄ちゃんはパシリってところか? 」
興味深そうに誠達を見て回るオンドラの視線。アイシャもカウラも明らかに不機嫌そうに切れ長と言うよりも切り込みのようにも見えるオンドラの細い視線を睨み付けていた。
「人を出自で判断するのは良くないことですよ。重要なのは今の立場」
静かな、そしてそれでいて少女のものとは思えない迫力のある言葉の響きに誠達は凍り付いた。
「あなた……法術師ね。しかも、私の勘だけど不死人」
静かに繰り出されたアイシャの言葉にネネと呼ばれた少女は静かに頷く。ウエイターが運んできたジュースを静かに飲む姿は確かにその幼い見た目とは裏腹な老成したようなところが見て取れた。
「預言者ネネ。東都の裏社会では知れた情報屋だ。別にネットに詳しいわけでも特別なコネクションがあるわけでも無いのに気が向けば正確無比な情報をくれる貴重な存在として畏怖の念を集めていたが、法術が普通に知られるようになってみれば仕掛けは簡単だったわけだ」
要の言葉を否定も肯定もせずにネネはグラスの上に伸びたストローから口を離すと静かに居住まいを正して要に向き直った。
「この格好で生きて行くには正確で信用のおける情報屋を演じるのが最適だもの。おかげで最近は銃弾に当たることも無いし」
「そりゃそうだ。預言者ネネに傷をつけようもんなら東都じゃ卑怯者として商売が出来ないようになるからな。まるで西部劇のピアニストってところか? 」
物静かなネネとは対照的にオンドラは豪快にドライジンのグラスを空にした。
「オンドラ。オメエはおまけなんだよ。自重しろよ」
怒りを込めた要の言葉に首をすくめるオンドラ。一方ネネは相変わらず黙って要を見つめていた。
「吉田俊平少佐の情報を集めているんでしょ? 報酬は? 」
冷静なネネの言葉にようやくオンドラに対する怒りを静めた要はボストンバッグから札束を一つ取り出した。
「百万ドルの札束……初めて見たよ。さすがお嬢様。気前がいいねえ……」
「オメエにやるんじゃねえ。ネネ。手付けはこれでいいか? 」
要の言葉にネネは隣のオンドラを見た。明らかにオンドラの表情は要のボストンバッグの中身を推測することに集中しているものだった。
「今回の件だけであと百万ドル。それに今後の顔つなぎとしてもう百万ドル……」
「ちょっと! お嬢ちゃんおかしいんじゃ無いの? ただ顔を出しただけで3百万ドル? ぼったくりじゃないの! 」
叫ぶアイシャ。だが要は静かに頷くとボストンバッグからさらに三つの札束をテーブルの上に積み上げた。