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殺戮機械が思い出に浸るとき 34

 ビルの階下につながる階段の周りには黒い背広の男が数人雑談をしている。そしてその手が時々左の胸に触ることがあるのを誠は見逃さなかった。


「黙っていろ……嫌われたくないだろ? 」

 

 それと無い笑みを浮かべながら要がつぶやく。カウラも明らかに顔を顰めてそのまま男達の脇を通り抜けて階段を下り始めた。


「東和は民間人の銃の所持は禁止されているはずだがな」 


「なに、どこにでも例外はあるものさ」 


 カウラの皮肉にも要は動ずることなくそのまま階段を下りきって街のごちゃごちゃした猥雑な空間とは無縁な洒落た雰囲気の踊り場からバーの重い扉を開いて店に入る。


 ピアノの演奏が心地よく響く空間。薄暗い明かりの中に客の姿はまばらだった。街を闊歩していた淫猥な雰囲気の男女とは少し毛色の違うどちらかと言えば上流階級にも見えそうな落ち着いた雰囲気のカップルの客が数人静かに談笑している。


 カウンターでは初老の物腰の柔らかそうなバーテンが穏やかな表情でシェイカーを振っている。


「別世界……と言うところかしら」 


 アイシャがバーと呼ぶには広い店の中を見渡しながらつぶやいた。要は迷うことなく奥のボックス席を目指す。


「早速大物にお会いできるぞ」 


 笑みをこぼす要の視線の先には一人のサングラスの男が要を見つけて邪気のない笑みを浮かべているのが見えた。


「クエンの兄貴……時間にはまだ早いですが……」 


 クエンと呼ばれた男の正面に要は素早く腰を下ろす。カウラはなぜかクエンの隣に、そして誠とアイシャは要を挟むようにして座ることになった。


「なあに、気が向いただけだからな。まあ俺の気まぐれにうちの若いのを付きあわせなきゃならないのは……かなり心苦しいがな」 


 静かに目の前の水割りを啜るクエン。その手元で煙を上げる煙草にカウラは顔を顰めてクエンを睨み付ける。


「おっと……煙草嫌いの方ですか。人生の楽しみが少ないのは残念と言いたいところだが……まあ人それぞれというものかな」 


 クエンは口元に笑みを作ると静かに煙草をもみ消した。


「早速だが兄貴。ちょっとした人捜しを頼みたいんだが……」 


 そう言って要がバックを開けようとするのをクエンは手で制して静かに笑った。


「人捜しなら他に行ってくれ。今日俺が来たのはちょっと昔振られた女に会いたくなっただけだからな」


 クエンのサングラスの下の目が確かに誠を捕える。緊張で誠は目をそらしてやってきたウェイターに目を向けていた。




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