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殺戮機械が思い出に浸るとき 32

「なんだ……人を殺すのが怖いか? なら良い方法がある」 


 札束を握りしめてにやりと笑う要。その殺伐とした表情に思わず誠は目を引きつけられた。鉛色の瞳、そこにはいつもの要の表情は存在しない。


「ならとっとと先に自分がくたばることだ。生きている限り人は人を殺し続ける。この街に住む善良と自覚している人間達にしてもアイツ等の暮らしのために遼南やベルルカンで何人の人間が餓死していると思う? 何人の人間が人とも思えぬ扱いの上でくたばってると思うんだ? 生きている人間はすべからく人殺しだ」 


 自分の哲学を一通り語ると要はようやく満足したようにそのまま札束をバッグに戻して黙り込んだ。


「言うわね……お金持ちの台詞じゃないわよ。まさにそうして殺している直接の責任者は要ちゃん達貴族や金持ち連中でしょ? 」 


「積極的に殺すか消極的に殺すかなんてアタシは区別してねえよ。ただ、生きている限り人は人殺しの汚名を自然に帯びているという事実を語っただけだ」 


 アイシャの反撃にも特に関わり合いになりたくないというように要は黙って下を向いたまま答えた。誠は再び窓の外を見た。流れていく高層マンションの高さが比較的低いものに変わっていく。地価が下がったせいだろう。周りの雰囲気も次第に庶民的なものに変わり、豊川の郊外の住宅街のそれに酷似してくる。


「西園寺さんはそう思って生きているんですか? 」 


 思わず出た言葉。要の鼻で笑うような息が車内に響く。


「どう生きようがアタシの勝手だ。たまたまそれが今みたいな立場にいるからこんな考えが頭にへばりつくようになった。生き方が器用かもっと鈍感で鈍い頭の持ち主ならお気楽に生きられるんじゃねえかな……たとえばアタシの前の席に座っている馬鹿みたいに」 


「人を馬鹿呼ばわり? それとも器用だと褒めているの? 」 


 皮肉る要をふと振り返っただけでアイシャは黙り込んだ。人の生き死にの場面に出会ってきた数はおそらくカウラや誠の比ではないアイシャと要。それぞれがその現場での生きる意味について確固たる信念を持っていることはこう言う場面で誠は知らされることになる。そしてそんな二人の決して交わらない世界観をお互い尊重しているようなところがあるのが誠には奇妙に思われていた。


「次のインターで下りるのか? 」


 ハンドルを握るカウラが話題を変えようとするように少し明るい調子でつぶやいた。


「市街地じゃこれから会う連中は動きづらい立場にあるからな。埠頭の手前にちょっとした店がある。そこに集合をかけたわけだ」 


「ちゃんと来ればいいけど」 


 アイシャの皮肉にも要はただ儚い笑いで応えた。すっかり暗くなった道を次々と流れる車。それを見ながら誠は自分の知らない世界を生きる情報通達の姿を想像した。


 屈強な傭兵というのは今誠達が捜している吉田の姿を見れば映画の中の出来事だと言うことは想像がつく。町中で目立つような強力な義体を使用するのは戦場に着いてからの話。人並みの姿格好で街に溶け込むことが裏社会の面々にも必要な技量の一つであることは誠も次第に分かってきていた。


 そんな事実を知るとまるでこれから会う情報提供者達の実像がつかめてこない。考えても無駄だと思い切った誠はそのまま窓の外に視線を向けて流れる景色を眺めることにした。




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