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殺戮機械が思い出に浸るとき 30

「つまらねえな……カウラ。ラジオでもつけろよ」 


 命令口調の要の言葉にこめかみをひくつかせながらカウラがラジオをつけた。ちょうど夕方五時のニュースが流れていた。


『……遼北軍高官によりますと今回の侵攻による被害は……』


「ついにぶつかったわね」 


 冷静な口調のアナウンサーのまねをするように冷静な口調でアイシャがつぶやく。


 『アサルト・モジュール5機を同盟軍事機構の攻撃により失ったことに関して同盟機構への抗議の文書を提出すると言う方向で現在調整中だと発表しました。また同じく四機のアサルト・モジュールを失った西モスレム軍高官は今回の前線司令部上層部の行動をイスラム法規委員会の方針に反した独断専行であると指摘、北部総司令以下数十名の高級将校の身柄を拘束して軍事裁判にかけるとの方針を発表。同盟機構の大河内広報官は当面の遼北・西モスレムの直接の軍事衝突の危機は避けられる可能性が高くなったとの見解を発表し……』


「おい、シンの旦那のスコアー増えたみたいだな」 


 相変わらず札束を握りしめながら要がつぶやいた。遼北と西モスレムの軍事衝突の間に割って入ったシンの同盟軍事機構の部隊による両軍に対する実力行使行動の発表は車内に一種の安堵感をわき起こしていた。


「まあシン大尉なら実戦経験も豊富だもの。それにカウラちゃんと要ちゃんはかなり鍛えられたんでしょ? 」 


 アイシャの何気ない一言でカウラの前任の第二小隊の隊長が話題の人アブドゥール・シャー・シン大尉であることを誠も思い出した。


「事務屋はこなせるがこちらが本業だからな、あの旦那は。それにしても……西モスレムも遼北も張り子の虎だな。たかだか数機のアサルト・モジュールを失ったくらいで戦意喪失か? 」 


「アサルト・モジュールの一機の値段を考えてみろ。それにシン大尉がまともに撃墜しただけなら前線の司令官を更迭するなんて言う強攻策まで取ることは無いんじゃないかな……」 


 ハンドルを軽く叩きながらカウラは車を追い越し車線に運ぶ。そしてそのまま一気に加速して目の前の大型トレーラーを追い抜いて見せた。


「法術ね。あの人はパイロキネシスとでしょ? 」 


 そう言うとアイシャはダッシュボードから携帯端末を取り出してそのままキーボードを叩き始めた。ラジオがニュースから音楽番組に変わったところでカウラはラジオを切った。


「シンの旦那はマリアの姐御から領域把握能力の指導を受けていたからな……テリトリーに入った敵機に法術発動して敵兵を全員消し炭にでもしたのか? 」


 冗談めかして要がつぶやく。アイシャはたた曖昧に頷きながら画面を頻繁に切り替えて検索を続けていた。


「どうやら要の冗談が本当の話みたいよ」 


 手を止めたアイシャが手元の画像を無線で飛ばしてフロントガラスに投影した。真っ黒な映像が目の前に広がる。そして凝視するとそれが焼け焦げたアサルト・モジュールのコックピットであることが見て取れた。


「ひでえ有様だねえ……これを見たら戦意も無くなるな」 


 呆れたように要がつぶやく。誠もただ呆然と手首だけが操縦桿だった黒い棒にへばりついているパイロットだった黒い塊を見てただ呆然とするしかなかった。




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