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殺戮機械が思い出に浸るとき 29

 その後誠達は都心のビジネス街を車で走り回った。持って行ったのはボストンバック一つ。銀行で札束を受け取る度にそれを無造作に放り込む要。


「まるで銀行強盗にでもなった気分だな」


 にやにや笑う要だが誠はそのバックの中身が分かっているだけに笑うことなど出来なかった。基本的に地球外に対する地球圏諸国の経済的締め付けはかなり厳しいものがあった。特にアメリカドルとなればその信用もあって換金にはそれなりの手続きが必要になる。しかも大体がこんな金額を現金でやりとりすることなど25世紀も半ばというのに考えている人間がどれだけいるか謎なところだ。当然窓口でなく話はすべて銀行の奥に通されての話となる。


「本当に麻薬や武器の取引ではないんですね? 」 


 要が自分の身分を明かして胡州の領邦代官にまで身元確認を終えてからも地球系資本の銀行の支店長はそう言いながらいぶかしげに要を睨み付けていた。


 本来の要の性格なら殴りかかっても文句は言えない態度だが、要も相手を読むくらいの芸当はできる。


「私のお金です。後ろめたい使い道をするわけがないではないですか」 


 おしとやかにそう言う割にはまだ二月半ばだというのにタンクトップの上に黒い革ジャンと言う姿は異常に見えた。


 結局は夕方まで掛かってボストンバックいっぱいの現金が用意された。大口の決算処理が電子化されて数百年。これほどの現金を持って歩く人間が真っ当な使い方をするとは誰も思わないだろう。誠はカウラの赤いスポーツカーの後ろで小さくなりながら隣の席でバッグの現金の束を確認している要を見ながらただ苦笑いだけを浮かべていた。その中にどれだけの金額が入っているかは三行目で数えるのを止めた。それほどの金額。下手をすればアサルト・モジュールの一機や二機は買える金額だ。


「ずいぶんと情報とやらを手に入れるにはお金が掛かるのね……」


 助手席で皮肉混じりにアイシャがつぶやく。


「陸軍の非正規部隊も相当な金を使ってたからな。最新鋭のアサルト・モジュールや戦艦を装備した部隊とまあ同じくらいの経費は掛かるもんだ」 


 札束を握りしめながら要がつぶやく。


「本当にこのまま行くのか? 東都を出ることになるぞ」 


 カウラがつぶやく。車は高速道路を東都湾に沿って一路東に走っていた。


「こんな金を湾岸の租界近くで持って歩くのか? 殺してくれって言ってるようなもんだぞ。ちゃんと相手には伝えてある。総葉そうようインターまで突っ走れ」 


 すでに日は落ちて街灯の明かりに照らされている要の表情が急に冷たく感じられた。誠はそれを確認すると高速道路の防音板の流れていく様を見つめていた。


「総葉? 租界からは遠いわね……お客さんは船ね」 


 アイシャの何気ない一言に要は静かに頷いた。


「何でもそうだが金で世の中の大概のことはどうにかなるもんだ。総葉には食料関係のコンテナーターミナルがあるが……ノーマークのあそこが実は租界と東和の出入り口って訳だ」 


 札束を握りしめる要の言葉に意味もなく頷きながら誠はただぼんやりと流れていく景色を見つめていた。




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