殺戮機械が思い出に浸るとき 28
「現金にするぞ」
突然要はそうつぶやいた。カウラの表情が曇る。
「現金? そんな金額で良いのか? 」
カウラの言葉に要は心底あきれ果てたという表情でカードをちらつかせてみせる。
「セキュリティーの掛かっている奴じゃ駄目だ。もらう人間はみんな後ろ暗いところのある人間だぞ。それ以前に租界から出られ無いようなヤバイ人間もたくさんいるんだ。そいつにカードを渡してどうなる? ただの樹脂製の板をもらって喜ぶのは赤ん坊だけだ。現金、しかも米ドルじゃないと受け付けないな」
「米ドル? それじゃあ大変じゃ無いの。最近は換金規制でそう簡単には手に入らないわよ」
うんざりした表情のアイシャの肩を要が叩いた。
「だから手分けして換金するんだ。幸いアタシのカードはそれなりに信用がある。銀行一つ頭百万ドルとして……大手を十件も回れば十分だろ」
『百万ドル』という言葉を簡単に言う要に誠はただ薄ら笑いで答えるしかない。
「コーヒー飲んだらさっさと準備しろよ。今日の夕方までに現金を作って夜には連中に会うからな」
要は一気にコーヒーを飲み干して立ち上がる。誠達はただ呆れてその様子を眺めていた。
「もう連絡はしたのか? 」
「まあな。返事を待ってても無駄だ。こう言う連中は興味があるときはすぐに食いつくが無ければ何年待っても反応はねえもんだ。今日中に情報屋を五人は手配できれば御の字だ」
「その五人にいくら使うのかしら……」
手を広げて金の計算をしていたアイシャを要が睨み付ける。アイシャはただにこやかな笑みを浮かべると誤魔化すような調子でコーヒーを飲み干す。
「さっさと準備しろよ! 」
要はそのまま食堂を出て行った。誠達は彼女を見送ると当惑しながら顔を見合わせた。
「そんなに簡単に手配できるのか? 情報屋が」
カウラの心配そうな表情。
「全く本当にすさまじい金持ちね。軍人やる必要なんて無いじゃないの」
アイシャもただ呆然と机の上に散らかっているカードを手にとってはまじまじと眺めている。
誠は何も出来ずに状況を見守っていた。どうやら大変面倒な状況に落ち込みつつある。いつものことながら誠にはため息をつくことしかできなかった。