殺戮機械が思い出に浸るとき 26
朝と言うには遅すぎる時間だった。
「どうするの? 」
保安隊下士官寮の食堂。がらんとした空間でじっと誠の顔を見つめながら眉間にしわを寄せながらアイシャがつぶやいた。
「どうするも何も……プラモでも作ります? 」
「馬鹿か」
他に答えることが無くてぼけて見せた誠に隣の席に座っているカウラがつぶやいた。初春の日差しが窓からこぼれてくるのがすがすがしいが誠達の心は晴れない。一応は謹慎中の身の上である。そしてその間に吉田を探すように嵯峨には指示されているがまるで手がかりはない。
「どこかに転がっててくれると楽なんだけどなあ……誠ちゃん。ヒントちょうだい」
「僕が持っているわけが無いじゃないですか! 」
アイシャのとりとめのない言葉にただ答えるだけの誠。アイシャは先ほどから暇そうに首をねじりながら誰もいない食堂を落ち着き無く見回している。当番ではない隊員は確かに今日も寮にいるのだが、謹慎中の男子下士官寮に似つかわしくない上に絡むとろくなことにならないアイシャなどに関わり合いにはなるまいと食堂に近づく人影は無かった。
「手がかり無しで人一人を捜す……しかもその人物は名の知れた傭兵上がり。人混みに紛れる名人だという……私達だけではどうしようもないだろ。仕方ないからおとなしくしているしか無いんじゃないか? 」
「カウラちゃんは薄情ねえ。もしかしたら大変な事件に巻き込まれているのかもしれないのよ」
心配するような顔を急に作ってみせるアイシャ。そのバレバレの演技に誠はただため息をつく。
「ベルガー少佐。大変な事件に巻き込まれているなら報告書を定期的に作成したりナンバルゲニア中尉のシミュレーションのプログラムをしたりは出来ないですよ」
「誠ちゃんまで……。それは、吉田さんが優秀だからと言うことで良いじゃないの。それに今は遼北と西モスレムの衝突の危険性が迫っているのよ。おそらくそれ絡みで……」
「妄想もいい加減にしろ」
ただただ大きくため息をつくカウラ。部屋はそのまま沈黙に包まれる。
「テレビでも見ようかしら」
さすがに飽きたと言うようにアイシャが立ち上がったが、その時食堂の入り口の扉が開いた。
「西園寺。何かあったのか? 」
この場の雰囲気にふさわしくない不敵な笑みを浮かべる要にカウラはやりきれなさそうな表情でつぶやいた。